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「作詞か~、歌いたいことなんてひと言もないよ~」

―― 今作でとくに思い入れの強い収録曲というと、いかがですか?

透明の地図」かな。リクルート『SUUMO』WEB CMソングで、最初に絵コンテがあったんですよ。ひとり暮らしから、恋人ができてふたりで住んで、やがて子どもができて、そのたびに部屋が変わっていく、みたいな。あと、間取り図とかも見て、「なるほどな」と。そこから、自分もイメージを膨らませていきました。

新しい町にひとりで引っ越す。その町には<古ぼけた町中華>がある。で、最初は一見さんとして行くんだけれど、だんだん馴染んでいって、お店の常連さんになっていく。そして、家族もできていく。自分のなかに描いたそういう情景と、絵コンテの空気感を出すことができればOKと思っていたので、すべてをそのまま歌詞に落とし込めた気がして、気に入っています。

―― 映像が見えてきそうな歌詞ですね。<小さなアーケイド 古ぼけた町中華 色褪せた暖簾にも期待膨らむ>、ここは和義さんのなかで想定している町はありますか?

イメージ的には、戸越銀座の商店街みたいな規模感ですね。1回くらいしか行ったことないけれど。立派な屋根のアーケイドがあるわけでもない、駅前の100mくらいの商店街。チェーン店というより、個人経営でやっているようなお店が並んでいる感じ。自分は古い人間だから、どうしても昭和の町並みを思い浮かべてしまいます。この歌の町は、決して代々木上原ではなく、戸越銀座って感じですね(笑)。

―― そして、アルバムのラストには「Sweet Little Sixty」という、還暦という大きな節目を迎えられた今ならではの曲も収録されています。いろんな気持ちに揺られていながらも、たどりつくところは<とりあえず一服>、<なんだかんだで>、<まぁまぁ飲めよ>と非常に軽やかな印象を受けました。

「Sweet Little Sixty」は、ロックンロールの初期に、チャック・ベリーの「Sweet Little Sixteen」という曲があって、それをパロディーにしてみたタイトルですね。なんか、まったく実感がなくて。自分が“60歳”とか字面で見ると、「えー。やだー」って感じ。まぁどうしようもないから、受け入れざるを得ないんですけど。

でも、とくに体力的に急に衰えた感じはしていなくて。適当なところは、より適当にやっている感が強くなっているし。やりたいことだけをやれればいいし。イヤな仕事はしないし。そういうのが許されるようになってきたような気がして、そこはよかったなと思います。だから、自分としてはそれぐらいの変化で、ガラッと変わったわけではないんですよね。そんな感じが「Sweet Little Sixty」には出ていると思います。

―― ちなみに、今の60歳の斉藤和義さんは、何にいちばん興味があって、心が動きますか?

なんだろうなぁ。まず、この歳になってくると、まわりに病気のひとたちも出てくるじゃないですか。自分は今年、久々に人間ドックに行って、おかげさまで「どこも悪くない」と言われて。それもそれで頭悪そうな感じもするんですけど…(笑)。とにかく「健康でいたいものだな」と思っていますね。

あとは、昨今の世界も日本もきな臭い感じだから。「どうかおかしなことにならないでくれよ」という気持ちは常々あります。やっぱり今作『日常Days』を作るうえでも、そのあたりの思いがいちばん大きかったですね。

―― では、アルバム収録曲のなかで、とくに「これは書けてよかった」と思うフレーズを教えてください。

「透明の地図」だと、最後の<おばちゃん いつもの>ですね。単純に<町中華>というワードを使えたことも嬉しいですし、馴染みになって<おばちゃん いつもの>と言えるようになった感じを表現することができたので。

あとは、「鏡よ鏡」の<ここは天国か それとも地獄か 鏡よ鏡 どっちが答えですか それはあなたの心次第>という頭の3行。もともとは、メロディにハマりのいい言葉を考えるなかで出てきたはずなんですけど、自分でも「たしかにそうかもしれないな」と思いながら作りました。

そして、このアルバム『日常Days』で言いたかったことという意味では、「乙」の<ぼんやり進んでいく なにもかも なにもかも>というフレーズも気に入っています。

―― ありがとうございました。最後に、斉藤和義さんにとって歌詞とはどんな存在ですか?

歌詞を書くのは、すごくイヤなんですよね。

―― ええ! そうなんですか?

サントラとかは、「歌詞を書かなくていいんだ!」って、ものすごく楽しく自由にわー!ってやるんですよ。でも、あとで歌詞を考えなきゃいけないと思うと、げんなりする(笑)。

ただ、なんとなくラララとか、適当な英語とかで歌っているうちにふと、口をついてワンフレーズが出てくることがあって。それをいろいろいじっても、座りが悪いというか。もう、“そう歌いたい”ということだろうなと。最初に出てきたものを活かして、膨らませていくことが多いんですね。すると、自分でも、「へー、こんなことを思っていたんだ」というものが出てきたりします。

自分は、ただの詩というものを絶対に書かないし、あくまでメロディあっての歌詞というものしか書いたことがなくて。メロディと譜割りと言葉数という制約のなかで、書くしかない。それが面倒であり、すごくイヤなんだけど。だからこそ、歌詞ができたときがいちばん嬉しいかもしれません。曲よりも、「やっとできた!」という気持ちが強いですね。

―― 歌詞が大事だからこそ、感じる負担も大きいのかもしれませんね。

そうだと思います。せっかく気に入っているオケなのに、しょうもない歌詞で台無しにしたくないですし(笑)。

あと、そうやって頑張って書いていると、ごく稀に、最初から曲と歌詞が同時に出てくることがあるんですよ。「この曲はもともと存在していたんじゃないか」と思うくらい、全部がパッ!とできるときもある。だから、「作詞か~、歌いたいことなんてひと言もないよ~」と思いながらも、そういう瞬間を待っているところもありますね。まぁ、そんなことは滅多に起きないんですけどね。

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斉藤和義
23rd Original Album『日常Days』
2026年9月9日発売
SPEEDSTAR RECORDS
ジャケット画像1です。

初回限定盤
(2CD+書籍「和とロック」写真集+全曲弾き語り用コード譜)
VIZL-3060 ¥6,600 (税込)

通常盤 (CD)
VICL-67060 ¥3,630 (税込)
VICTOR ONLINE STORE限定商品
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斉藤和義

1993年8月25日にシングル「僕の見たビートルズはTVの中」でデビュー。翌年にリリースされた「歩いて帰ろう」で一気に注目を集める。代表曲である「歌うたいのバラッド」「ウエディング・ソング」「ずっと好きだった」「やさしくなりたい」は様々なアーティストやファンに愛される楽曲となっている。自他共に認めるライブアーティストであり、弾き語りからバンドスタイルまで表現の幅は広い。

また、自らの音楽活動に加え、様々なアーティストへの楽曲提供、プロデュースの他、他ミュージシャンとの活動も積極的に行っている。2011年には稀代のドラマー、中村達也とのロックバンド“MANNISH BOYS”を結成。2018年には寺岡呼人・奥田民生・浜崎貴司・YO-KING・トータス松本と共に“カーリングシトーンズ”も結成。さらに、2024年からはソロアーティストとして30年以上に渡り独自のスタイルを歩み続けてきた岡村靖幸とのユニット“岡村和義”の活動もスタート。デビュー30周年を迎え、なお、多岐に渡るスタイルでの精力的な活動が続いている。
斉藤和義 Official Site