
―― アルバムタイトル『Rooom』とは、どのようにたどり着いた言葉でしょうか。
Aoooの結成当初は、こんなに本格的にやるとは思っていなくて。「楽しいことをやろうよ。自分たちなりの遊び場を作ってみようよ」という気持ちからスタートしたんです。そして、そうやって音楽をおもしろがる感覚や楽しさは、どんなときも自分たちのモチベーションになっていました。その延長線上をずっと歩んできたなかで、改めて“遊び場”というものについて考え直してみたんですよね。
すると、Aoooというバンド自体がそれぞれにとっての心地よい“居場所”になっているなと気づきました。あと、本当にいろんな顔を持った楽曲があるから、まだまだいろんな“部屋”を見せられたらいいな、とも思いましたし。それで『Rooom』というタイトルにたどり着きました。
―― アルバムタイトルの『Rooom』も然り、曲タイトルの「Yankeee」や「Geeek」、「CRAZZZY」も然り、同じアルファベットが3つ並んでいるというのも、ひとつの“Aooo印”になっていますね。
そう、なんか可愛いんですよね。つい勢いで入れてしまいます(笑)。
―― 理子さんが歌詞を手がけられた今作の収録曲のなかで、とくに思い入れの強い楽曲を教えてください。
6曲目の「ユメユキ」ですね。何回も歌詞を書き直したこともあり、愛着があります。まず、制作を始める前にひかるちゃんと、「こういう曲を作ろう」というディスカッションをしました。それで私が入れたい単語や、書きたいことを箇条書きにしたものを投げてみて。そこからひかるちゃんがイメージを汲み取って、サビなどを形にしてくれて。さらに、もらったサビに私が歌詞を乗せて。そんなふうに少しずつ作っていきましたね。
―― 何回も歌詞を書き直したとのことですが、最初はどんなイメージだったのでしょうか。
「ユメユキ」の歌詞になる前は、2パターンくらい別の歌詞があったんですよね。いちばん最初は、幼い子どもの視点で書いていました。たとえば、「小さい頃ってなんとなく神さまがいると思っていたよね」とか、「最終的には救いがあると思っていたよな」とか。そういう、ぽつりぽつりとしたボヤキのようなものです。でも、「アルバムに入れるには違うかもしれない」と思って、書き直しました。
次に書いたのは、シスターフッド的な歌詞でした。「ユメユキ」と同じく夢と現実の狭間を描いてはいたのですが、受け取り方によってはわりと現実寄りの内容だったんです。珍しくメンバーから、「楽曲が求める世界観と乖離しているかもしれない」という違和感を指摘されて。ただ、私としては、その違和感こそがキーポイントになっていたので、「そこを変えるなら、すべてを変えよう」と思って、「ユメユキ」にたどり着きました。
―― <廻るパノラマ 巻き戻して ガラス越しの風船 果てまで飛んでいけちゃいそうさ>など、情景描写がファンタジックで美しいですね。
この曲にはそういう要素が必要だったのだなと気づきましたね。自分のなかでは、『千と千尋の神隠し』で千尋とカオナシが電車に乗るシーンのようなイメージです。どこに向かっているのかわからない、あの感覚。意外とまだ「ユメユキ」というタイトルの意味にピンと来ていないファンの方も多いんです。“電車”というワードを出しているわけではないですし。だから、“夢雪”ではなく“夢行き”という感覚で聴いてもらえたらなと思います。
―― この曲では、二人称がないことも印象的です。だからこそ、特定の誰かに対する思いというより、過ぎ去った時間に対する感情のようなものを感じました。
そこはこだわりました。あと、だんだん夢に潜っていくような曲にしたかったんです。時間としては一瞬かもしれないけれど、夢のなかにいると時間経過があまりわからなかったりするじゃないですか。でも、最終的にはハッと目が覚めて、現実に引き戻されてしまう。そういう“曖昧さ”みたいなものを、曲全体を通して描けたらいいなと思って書いたのが「ユメユキ」ですね。
―― 11曲目「Portrait」は、ツミキさんとの共作ですが、おふたりでどのように作っていったのでしょうか。
これは私が歌詞の世界観をツミキに提示して、「いいね」と言ってくれたので、そのテーマをもとにメロディーを考えていきました。お互いにメロを送り合いながら、いいものを採用する形で曲を完成させていって。そこから歌詞も投げ合いながら作っていきましたね。私はAメロやラストサビを書いています。
この歌の主人公は、愛や感情に疲れているイメージです。他者が求める自分の像と、本当の自分との乖離を感じているというか。肖像画も、描けば描くほど、最初ははっきりしていたものが何なのかわからなくなっていったりするじゃないですか。そういう感覚を、<描き足されるたび ぼやける輪郭 抗えないまま 溶けだしていく>というフレーズなどで表現したかったんです。
―― <言葉は何処までも泳いでいくのさ>というフレーズは、“自由”をイメージしましたか? それとも何か“掴めないもの”なのでしょうか。
ここはツミキが書いたフレーズなのですが、誰かに言われた言葉って、「どういう意味だったんだろう」と何度も反芻して、自分のなかで巡ってゆくことがあるじゃないですか。とくに恋愛で、相手とうまくコミュニケーションを取ることができないときには、聞き返せないですし。自分の心の内を<何処までも泳いでいく>しかないというか。私としてはそういう意味で受け取って、歌いましたね。
―― 「愛や感情に疲れている」主人公の思いが伝わってくるなか、最後には<行こう 夜の先へ>というどこかポジティブにも聴こえるフレーズがありますね。このベクトルはどこに向かっていると思いますか?
私は、このワンフレーズで主人公は前向きになっているわけではなく、強い覚悟をして、“落ちようと思って落ちている”と感じましたね。いっそ行けるところまで行って、気持ち的に沈んでみよう。受け止めよう。向き合ってみよう。そういう意思が<行こう 夜の先へ>と2回繰り返されることによって、はっきりするような気がします。
ここは、もともとオケがあった場所で歌詞は入れないと思っていたんです。でも、ひと通り完成したあとにツミキが、「歌詞があったらおもしろいかもしれない」と乗せてきたんですよね。すると<行こう 夜の先へ>というワンフレーズが、曲の印象を変えるキーポイントになったので、「やっぱりツミキってすごいな」と思いました。
―― 他のメンバーの方が歌詞を手がけた楽曲で、とくに印象が強かった楽曲を教えてください。
すりぃの歌詞はどれも好きなんですけど、とくに「クエスチョン」ですね。2番Bメロの<一人きり影法師 わかり合うってなんだろね 黄昏の空を仰いでる 君が愛した映画でさえ 今はまだ理解できない虚しさ>とか、「よくこんなシーンが浮かぶな」と驚きました。あと、歌詞全体から日本語の美しさというか、わびさびのようなものが感じられるところも好きですね。
―― その日本語の美しさを表現するうえで、歌い方も意識されたのでしょうか。
ひとつひとつの言葉を丁寧に聴き取りやすいように歌いました。とくに<謎めいた君のココロに恋焦がれ 雪解けを待つ花びらのように 何を思い馳せ涙を流すのだろう 惹かれ幽玄な時の輝きに 美しさを抱いて>というフレーズは、水滴がぽちゃんと落ちて広がる絵が見えるようなイメージで。「クエスチョン」はそうした音像の完成形を目指して、作っていった曲でもあります。
―― 先ほど、理子さんは「“孤独”から生まれる感覚を歌詞にすることが多い」とおっしゃっていましたが、一方でAoooの楽曲からは、“わかり合う”ことや“繋がる”こと、“信じ合う”ことを諦めない姿勢も感じられます。
ああ、そうかもしれません。私はもともと「ひとりでいい」と思っているタイプだったんです。でも、Aoooというバンドによって心持ちが変わってきました。
そして、「クエスチョン」はまさに、すりぃがAoooのメンバー同士の関わり方を改めて見つめ直したタイミングで書いた曲でもあって。一聴すると<あたし>と<君>のラブソングなんですけど、その背景にはAoooのメンバーへの想いがあるんです。すりぃ本人も、「俺ら、もうちょっと話し合おうよって言いたかった曲」だと話していました。
私とすりぃは、ひととの関わり方もわりと違います。私は交友関係が狭いですし、決まったひととしか話せない。すりぃは社交的で、普段からいろいろなひとと向き合って話すことが多い。共通点が少なくても、その違い自体をおもしろがることができる。だから、彼のそういう人間性が歌詞にも反映されていて。<わかり合う>ことの難しさと、<わかり合う>ことの美しさ、その両方を伝えようとしているのだと感じますね。
―― すりぃさんはバンド内でもとくに“わかり合う”ことを信じているのですね。
本当にそう思いますね。一度、酔った勢いですりぃに、「石野はもっとわかり合おうとしたほうがいいよ。わかり合えないと思っているでしょ」って説教されたことがあって(笑)。たしかにそうかもしれないなと。<さあ曖昧さとまた向き合って 対岸でもほら愛せるさ>というフレーズにも、苦しみながら頷いたのを覚えています。
でも、これを私が歌うから一人称を<あたし>にしたり、いろいろ考えてくれたんだろうなとも感じていて。だからこそ、私は「もっとこの曲のことをわかりたいな」と思いながら、毎回歌っています。改めて、すりぃにしか書けない歌詞だなと思いますね。