1曲ごとに「何年何月何日、場所はここ」ってわかる歌詞。

―― Emiさんは、どんなときに「書きたい!」衝動が生まれることが多いですか?

自分の悩みやうまくいかなかったことをノートに書いているので、やっぱり一番多いのは葛藤しているとき、悲しいことがあったとき、ツライときですね。どこに矛先を向けていいかわからない気持ちが歌詞になっていくし、その気持ちを表す勢いが最も強いです。逆に幸せなときは、もう自分のなかで「わぁー、ハッピー!」って簡潔にしたいので(笑)、あまり歌詞になることはありません。

―― 歌詞のインスピレーションはどんなところから得ますか?

人との会話とか、誰かのインタビューとか、気になった物事は全て携帯にメモしてあります。たとえば…これは言うほどのことじゃないかもしれないんですけど、美容院でシャンプーしているときに、美容師さんとアシスタントさんとお客さんが“わっしゃっしゃっしゃ〜!”って大爆笑しているのが聞こえてきたんですね(笑)。わりと美容院って静かで、お洒落な会話が飛び交っているじゃないですか。だからこそ「あぁなんか、思いっきり笑っている声っていいなぁ」って感じて、その状況と自分の気持ちをメモしたり。

あと、そのとき『地図から消された島』という廃墟の本を読んだんですけど、そのタイトルの言葉がすごく印象的で。もしも自分がこの人間界から消される存在になったらどうしよう…とか、想像したりしました。そういうこともメモしてあります。他にも、救急車のサイレンの音とか、隣の女子高生の会話とか、着信の音とか、喫茶店の雑音とか、何でも歌詞が生まれるきっかけになるので、作詞をするときにはよく外に行ったりしますね。

―― 作詞の際に、好きでよく使う言葉、逆に使わないように気をつけている言葉はありますか?

よく使うのは<花>です。自然界のモノが発する力って、目には見えない凄さがあるし、とても儚いものだからこその強さや美しさがあるから、そこに憧れているんです。なので<花>に関するワードはよく使います。

使わないように気をつけているのは<愛>とか<好き>とか。もちろんこの言葉をうまく使えているアーティストさんはたくさんいるんですけど、私はうまく使えないんです。だからこの感情を、自分が見た景色や抱いた感情で、どう表すかというのが、今の私の美学になっています。なので、ストレートな言葉がダメだというわけではなく、それを違う表現で表すことを、楽しんでいる感覚ですね。

―― 歌詞を書くとき、いちばん大切にしていることは何ですか?

とにかく嘘がないこと。気取って書かないこと。そういう気持ちがいつもあるので、自分のなかで1曲ごとに「何年何月何日、場所はここ」ってわかる歌詞になっていますね(笑)。誰でも書ける歌詞ではなくて、自分が産まれてからここまで、見てきた世界や、感じてきたものを歌詞にしたいと思っています。

―― 本当にEmiさんの楽曲は、とても具体的かつ個人的な出来事の描写をしている楽曲が多いですが、聴いている側がまったく同じ経験をしていなくとも深く共感できるのが魅力だと思います。ファンの方からもそういう声が多いのではないでしょうか。

そうなんですよねぇ…。ありがたいことに。最初はすごく不安だったんですよ。私は趣味で音楽を始めて、好き勝手に書いていたけれど、こうしてオーガスタという事務所から声をかけてもらって、コロムビアさんからメジャーデビューをさせてもらって。こんな超自分勝手な歌詞を、人様からお金をもらって聴かせて良いのだろうかって悩みました。

でも少しずつ自分のライブにお客さんが増えてきて、仕事帰りの女性が「この曲が自分の思いと重なって…」って泣きながら話してくれたり、介護をしている50代のお母さんが本音をワーッと吐き出してくれたりして。そこで、こんな100%自分な歌詞だけど、誰かのそばにいられるんだ、誰かの生活の役に立てるんだって、教えてもらったんです。そして、それを一緒に広げてくださる2つの会社があるんだったら、このまま頑張ってみよう!と思いました。今もその途中ですね。

―― Emiさんにとって歌詞を書くこととはどんなことですか?

日記のようなものですかね。自分を落ち着かせるためというか。誰かにうまく発しきれなかった言葉とか、誰にも言えない胸の内の言葉って、それぞれあると思うんですけど、私の場合、それを作品にする努力をしたことにより、ただぶちまけている気がしなくなるんですよね(笑)。だから、自分の日記ではあるけれど、ちゃんと音楽にすることで、より救われている部分があると思います。

―― 歌の主人公はどれも、Emiさんの感情の分身のような感覚ですね。

まさにそうです。よく「曲は自分が産んだ子どものよう」とか聞きますけど、近いものがあります。今まで、書いたけどボツになっちゃった曲もたくさんあるんですけど、すぐにその歌詞を入れ替えたりはできないんですよね。その子を分解することができないんです。もう産んじゃったから(笑)。だから何年もずーっと取っておいて、いつかはこの子たちをうまく世に出せたらいいなぁ…って思い続けているんです。

―― ありがとうございました!最後に、これから新たに挑戦してみたいのは、どんな歌詞ですか?

今回、アニメ『ラディアン』のタイアップでファンタジーと関わらせていただいて、初めて“羽が生える”とか“空を飛ぶ”というワードを使って歌詞を書くことができました。これまでは“地面”とか“土”とか“コンクリート”とかが多かったけど(笑)。この曲では、ストリングスも壮大にしてもらって、空を飛ぶイメージが広がったりして、ファンタジーに新しい魅力を感じています。だから、ファンタジーな言葉をはじめ、自分がまだ使えてないワードと実体験をうまく合わせながら歌詞を書くことにも、これから挑戦してみたいですね。

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NakamuraEmi
Digital Release 『ちっとも知らなかった』
2019年10月10日配信
日本コロムビア
直筆色紙プレゼント

NakamuraEmiの好きなフレーズ
毎回、インタビューをするアーティストの方に書いてもらっているサイン色紙。今回、NakamuraEmiさんの好意で、歌ネットから1名の方に直筆のサイン色紙をプレゼント致します。
※プレゼントの応募受付は、終了致しました。たくさんのご応募ありがとうございました!
NakamuraEmi(ナカムラエミ)

神奈川県厚木市出身。1982年生まれ。山と海と都会の真ん中で育ち幼少の頃よりJ-POPに触れる。カフェやライブハウスなどで歌う中で出会ったHIPHOPやJAZZに憧れ、歌とフロウの間を行き来する現在の独特なスタイルを確立する。その小柄な体からは想像できないほどパワフルに吐き出されるリリックとメロディーは、老若男女問わず心の奥底に突き刺さる。

2016年1月20日、日本コロムビアよりメジャーデビューアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST』をリリース。収録楽曲の「YAMABIKO」が全国のCSやFM/AMラジオ52局でパワープレイを獲得。2019年2月20日には4thアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.6』をリリース。10月2日からNHK Eテレで放送されているテレビアニメ『ラディアン』第2シリーズのエンディングテーマ「ちっとも知らなかった」を10月10日にデジタルリリースした。