―― 松下洸平としてのデビューシングル『つよがり』と今回のミニアルバム『あなた』、どちらもタイトル曲はプロデューサーの松尾潔さんが歌詞を手掛けていますね。あえてタイトル曲をご自身で書くのではなく、プロデューサーさんにお願いされたのは何故でしょうか。
やっぱり応援してくださる方の中でも、俳優としての僕を知って興味を持ってくださった方が多い中で、自分で作るものにはない広がりが欲しくて。僕はR&Bやソウルを聴いて育ってきましたけど、やっぱりJ-POPも大好きだからこそ、その最高峰の方にお願いしたいというところで、松尾さんのお力をお借りしました。
実際、一緒に作品を作らせていただいて、松尾さんだからこその楽曲をセンターに置いて歌わせて頂くことができたのは僕にとってすごくいい経験になったし、自分一人では絶対に作れないような普遍的で真っすぐなラブソングが仕上がって本当によかったなと思います。
―― とくに松尾さんの歌詞のどんなところが魅力的だと思いますか?
ストレートな言葉の選び方や落とし込み方ですかね。松尾さんのルーツもR&Bとかソウルだから、ロマンティックDNAが強いというか。照れが出て自分ではなかなか入れられないようなフレーズを惜しげもなく入れてくださいます。
「あなたが好きだ」と表現するのに、もし僕が同じテーマで曲を書いてくださいと言われたら、ちょっと上手いこと言ってやろうかなって遠回しなフレーズを書きそうで。好きだということをこんなふうに例えてみたらどうだろう、というおもしろさをつい考えてしまいがちなんですけど、松尾さんは「いや、この曲ではそんな必要はない。何を恥ずかしがっているんだ!」って(笑)。そういうスタンスでいてくれるのが心強いし、刺激的でした。だから一緒に作っていても楽しいんですよね。
―― 洸平さんも根っこにロマンティックDNAがあるので、歌ってみると想いが入りやすかったのではないでしょうか。
そう、だから音楽っていいですよね!誰しも歌だから言える想い、格好つけられる部分ってあると思うんですよ。そういう音楽の素晴らしさを松尾さんと一緒にやって、改めて体感しました。「あなた」だけじゃなくて、ミニアルバムに入っている全楽曲。
―― 「あなた」はどストレートなラブソングなのですが、どこか「つよがり」に通ずるような切なさも感じられました。たとえば冒頭の<もうこれ以上 待ってられない これ以上 平気なふり続けられない>とか。
ハッピーなはずなのに、悲しみを帯びているというかね。いつもどこかちょっと切なく儚い部分があるのも松尾さんの歌詞の魅力だと思います。あと、主人公とその相手が恋人同士なのか、告白する前夜ぐらいの微妙な距離感なのかとか、具体的な関係性をどこまで説明するか。明確にしすぎてしまうとその分リスナーの共感できる幅も狭まってしまう可能性があると思うんですけど、その絶妙な塩梅がきっと松尾さんの作詞家としての魅力の一つなんじゃないかなって。
―― <L ではじまる 終わらない物語>というフレーズも余白を与えてくれますよね。もし<L>に「Lie(嘘)」を当てはめたら、曲の意味合いも変わってきますし。
たしかに!<L>に「Lie」を当てはめてくださった方は初めてです。それすごくいいですね。僕が歌うときは、どストレートに<Love>を思い浮かべたんですけど、本当に<L>に入れるワードによって曲の捉え方が変わると思います。なかには、我が子を思って泣けてくるという方もいましたし、対象が広いですよね。
あと<ふたり 心も未来も分かちあいたくて 夜明け間近の闇に祈っている>ってフレーズがあるじゃないですか。「夜明け前」って、いちばん空が暗い時間なんですって。それを、まだ見えないふたりの未来をそれでも信じていることの比喩として使ってくるところがもう…松尾さん!って思います(笑)。なんてロマンティックで素敵な人なんだろうって。読めば読むほど、味がしてくる歌詞ですね。
―― とくに「あなた」の核になっていると感じるフレーズを教えてください。
核というか、いつも歌いながら好きだなぁと思うのは、<だけど これから僕があなたの傘になれたら>ですね。ここで「なりたい」って言わないところが、黙って俺についてこい的なひとではないんだろうなって。決して強くはない。それでもサビで確実に<あなたが好きで 好きで 好きで 好きで 好きで>と伝える想いの熱さは持ち合わせている。そんな主人公の性格がすごくよく出ているフレーズだなと思います。
―― 洸平さんが作詞作曲を手掛けている「FLY&FLOW」は、どのように生まれた曲ですか?
今回のツアーでもこの曲を1曲目に持ってきているんですけど、まずライブでしっかり上がれる曲を、というところでいつも一緒に音楽をやっているカンノケンタロウと作りました。前作『つよがり』のカップリングで入れた「STEP!」もわりとアップ系の曲だったんですけど、それに付随するようなイメージで。
あと、僕を含め、様々なしがらみのなかで生きているひとたちに向けての想いもあります。ライブっていろんなことを一度忘れられる空間だからこそ、思いっきり弾けてほしい。とくに今はこういうご時世なので、だからこそ、脱いで剥いで、ありのままの自分で楽しんでほしいってメッセージを、大げさなぐらい強調した歌詞にしました。
それと、現状は決してうまくいってないかもしれないけれど、夢を追いかけて頑張っているひとたちに届いたらいいなと。ドラマの現場で一生懸命に働いている、僕よりもずっと若いスタッフの背中を見ながら、現場で歌詞を書き進めていきました。
―― 洸平さんは<誰の為の自分だろう>と考えてしまうマインドから、<誰のためでもない一度きりの LIFE>と思えるようになったタイミングはありましたか?
20代の頃はずーっと<誰の為の自分だろう>って考えていました。変わることができたのは、30歳になってからですかね。自分のための人生なんだからって吹っ切れた。考えても仕方ないし。20代の頃は恰好つけたり、いろんなものになってみようと思って試したりしたけど、結果どれも性に合わず。いつも帰り着くところは飾りっ気のないただの自分だったから。だったらもうそのままでいいじゃんと思えた。そのきっかけが30歳という節目だったのかなぁと思いますね。
頭ではわかっていても、変わることってなかなか難しいじゃないですか。でも誰かや何かの力によって、意外と簡単にふっと踏み出せる瞬間ってあると思うんですよ。まさにそういうきっかけに「FLY&FLOW」がなってくれたらいいなぁと思います。