腐れ縁だけど、音楽の話だけはすごく合います

イチオシ!
腐れ縁だけど、音楽の話だけはすごく合います
今回のうたコラムでは、特別企画として"山崎あおい"×"リリィ、さよなら。"の対談を第1弾~第3弾に分けてお届けいたします!同じ大学の同級生であり、アーティストとしてもお互いにリスペクトし合ってきたお二人に、作詞について、ルーツの音楽について、あの名歌詞についてなどなど、じっくり語っていただきました。本日は第1弾! ― お二人は大学時代から仲が良かったのでしょうか。 山崎・リリィ:仲が良いわけではないんです(笑)! リリィ:でももう7年くらいの付き合いになるかなぁ。まぁ…ここの力関係は見ていただければわかると思います。僕が人間的なことで迷惑をかけすぎたので(笑)。1つ2つの話ではなく、実はこの対談のお話をいただいた前日にも僕がやらかしてしまって、山崎にすげー怒られて、半年から1年は口をきいてもらえないだろうなと思っていたところだったので、めちゃくちゃ気まずくてどうしようかと…。 山崎:本当にね!大学の同級生の腐れ縁ですよ。ただ、お互いの音楽に関してはリスペクトし合っているし、音楽の話だけはすごく合います(笑)。 ― ではまず、お互いの音楽についてはどのように感じていますか? 山崎:う~ん、彼の歌詞はカメラワークが秀逸だと思う。よくあるラブソングが、ずっと同じ位置のカメラで寄ったり引いたりを繰り返しているとしたら、彼の場合は急に別方向のカメラが入ってきたりするんですよ。たとえば「snow ~君がくれた物語~」のこのフレーズとか、初めて聴いたとき、わぁ…すげぇ…と思った。 机の上に置いていかれたキーホルダーの小さなネコ そんな冷たい目で僕のこと睨んだって お前のご主人様はもう二度と帰って来ないんだぞ? 分かってくれよ… 「snow ~君がくれた物語~」/リリィ、さよなら。 リリィ:その言葉めっちゃ嬉しい!わりとあの曲、実話だしね。貸していた着替えと一緒にキーホルダーが返ってきた…。 山崎:ツラ…。 リリィ:人って追い詰められると、本当にモノが喋っているように感じるんだなって思い知りました。あと、山崎には「思い出を美化する天才」って言われたことあるよねー。僕は彼女と違って、そんなに私生活が充実してないというか、モテないので。失恋したときくらいしか書くタイミングがないからかな。 山崎:そうそう、だから綺麗だよね、歌詞の世界観が。主人公もすごく切実で、良いやつで、可哀想という表現が正しいかはわからないけど、なんかグッとくる。だけど、歌っているのがこのひとだと思うと…美化する天才だなって思う。 リリィ:僕は、山崎の素のキャラも、基本は強い女性であることも知っているので、初期の頃の楽曲は、はたから見ていて「大丈夫なのかなぁ?」と思ってた。主人公がすごく優しくて、可愛くて、柔らかかったから。だけど最近ようやく「鯖鯖」とか「アイソレイト」とか素が見えてきたよね。より彼女のパーソナルな、攻撃的な部分を表すようになったきたんだろうなって。それがみんなにも受けていて(笑)。 山崎:悪口合戦じゃん…(笑)。 リリィ:でも良かったなと思うよ!去年の夏に初めて「鯖鯖」を聴かせてもらったとき、ついにやったか…!と思ったもん。本当に素の山崎あおい。しかもそれがリアルな女性の意見にも近づいているんですよね。僕は今シェアマンションに住んでいて、女性の友達も住んでいるんですけど、みんな「鯖鯖」の歌詞に共感していて。やっぱり実際に付き合ってみたら、彼氏が鬱陶しいことってあるよねーとか。一人になりたいよねーとか。昔もきっと等身大だったんでしょうけど、ちゃんと本人の成長に合わせて歌詞が変化していて、それがすごいと思う。 カレシ、遠洋漁業の人がいい サバサバが私に丁度いい たまに会えたその日に港で 新鮮な鯖が食べたい 遠洋漁業の人がいい あっさりな態度が丁度いい たまに会えたその日に港で 新鮮なあさり食べたい 「鯖鯖」/山崎あおい 山崎:とくに意識している部分じゃなかったけど、まぁここ2~3年はなんか「自分で生きていかなきゃ!」みたいな気持ちがすごく強くて。自立というか。どんどん曲を書いて、どんどん稼ぐぞ!という男性ホルモン優位なモチベーションだったので(笑)。歌詞もそっち寄りの性格が反映されていったんじゃないかな。 リリィ:あと山崎はちゃんと時代に沿って、今の若い子に受けそうな新曲を作り続けているのもすごい。僕は最近それが悩みなので。たとえば、現代を反映させたワードとかなかなか作詞のときに出てこないもん。視野が狭くなって、わりと心情重視の歌詞になりがちかもしれない。 ― ワードと情景描写の関係といえば、リリィさんの「未送信のラブソング」は冒頭フレーズが強烈ですよね。 明け方の部屋に散らかってる 潰された空き缶とぐちゃぐちゃの服 「まだ眠れるよ。」って笑っていた 吸いさしのタバコ 抜け殻のコンドーム 「未送信のラブソング」/リリィ、さよなら。 リリィ:これは…。 山崎:物議を醸したよねぇ。 リリィ:懐かしい…。この曲はデビュー前のアマチュア時代からあるんですけど、当時、大学が一緒だった山崎とよく町田駅周辺で遊んでいて。曲を聴かせたあと、町田のミスドでちょっと怒られて。わーゴメン!みたいな(笑)。若気の至りですねぇ。もう今はああいう歌詞は書けない…。 山崎:完全なファンとして聴いてみたかったわ。だって彼の人間性を知っていて、当時住んでいた家も知っていたことによって、より想像ができてしまったわけですよ。友達としてちょっとあれは聴きにくかった。 リリィ:でも僕にも違う意味で、聴けなかった曲はありますよ!たとえば「カランコロン」とか。歌詞の<太陽が沈んだら 部屋を出なくちゃ 知らない人と仲良くしなくちゃ>というフレーズがリアルで。あー、歌手ってつらいんだなぁと思った。あと山崎は北海道出身なんですけど<疲れてしまったら 帰っておいでと みんなが背中押してくれた でもこんな姿じゃ きっと帰れない 誰も私の手を握れない>ってフレーズは、九州出身の僕にも重なったし。なんか新作が出るたびに心配だったよ。 山崎:あのデモを提出した翌週から、スタッフが優しくなったもん(笑)。 ― あおいさんは今なら、喜怒哀楽でいうと“怒”を描くことが多い気がしますね。 山崎:そうそう。数年前くらいまでは、すべての怒りが哀しみに転換されていたんですよ。「私、こんなんじゃダメだ…」みたいな。でも最近はとにかくイライラしていて(笑)。何に対しても「なんだよ!」って。だから野獣になろうと思って、ちょっとモードを切り替えてみました。そうしたら、また新しい曲が生まれてくるようになりましたね。「アイソレイト」もそう。もう…ムカつくんですよね! アイソレイト 上等なもんだぜ あなたと一緒にはならない アイソレイト 怖がってばっかで 頷くようじゃ つまらない 一人で嫌え 一人で怒れ きょろきょろ仲間探すなよ アイソレイト 愛した者だけ 本当の人生があるよ 「アイソレイト」/山崎あおい リリィ:怒りのエネルギー持ちたいよ!なんか僕は年々、落ち着いてきちゃって。だからちょっとした感情の動きでも歌に変換しようと思って、すぐメモするようにしているんだけど…。山崎が“怒”だとすると、僕の場合は90%くらい“哀”ですね。でもさ、山崎も同世代のギタ女のなかでも、まぁ歌詞が病んでいるよね。 山崎:そう? 交差点に飲まれる 線路越しに人が立つ そこらじゅうで巡り合わせは起こる 私が君を好きになる 君も私を好きと言う もう君だけが 私を不幸にできる 「スクランブル」/山崎あおい ― たとえば初期の「スクランブル」とか、ストレートな胸キュン系ラブソングに見えて<もう君だけが 私を不幸にできる>というフレーズが印象的です。 リリィ:ね!強烈だよ。初めて聴いたときビックリしたもん。山崎はシンプルな想いを上手い言い回しで伝える天才。「愛している」よりも、いっそう「愛している」が伝わるような表現。「さようなら」よりも、いっそう「さようなら」が切なくなる表現。そういうフレーズが、聴いたほうの胸をよりヴーッと締めつけるんですよね。いつも勉強になります。 【第2弾】に続く! (取材・文 / 井出美緒) ◆紹介曲「 snow ~君がくれた物語~ 」 作詞:ヒロキ 作曲:ヒロキ 「 鯖鯖 」 作詞:山崎あおい 作曲:山崎あおい 「 未送信のラブソング 」 作詞:ヒロキ 作曲:ヒロキ 「 アイソレイト 」 作詞:山崎あおい 作曲:山崎あおい 「 カランコロン 」 作詞:山崎あおい 作曲:山崎あおい 「 スクランブル 」 作詞:山崎あおい 作曲:山崎あおい 【第2弾】はコチラ! 【第3弾】はコチラ!