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irienchy ライヴレポート

【irienchy ライヴレポート】 『irienchy夏の終わりの ミニツアー2023 〜What a wonderful house!〜』 2023年9月16日 at 渋谷Spotify O-Crest

2023年09月16日
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8月末より『夏の終わりのミニツアー』を開催してきたirienchyが、ファイナルの対バンに指名したのはBentham。事前に行なった対談取材では、結成当初から誘いたかったけれど、当時はまだ自分たちの実力に自信がなかったこと、ここ数年ライヴを積み重ねてハイレベルな相手に挑みたくなったことなど、irienchyのメンバーの想いが語られるとともに、両者の関係性についても明かされた。そんな憧れの先輩であるBenthamを迎えた念願の一夜の模様をレポートする。

■ Bentham ■

先攻のBenthamは初めの一音をバーンと鳴らした瞬間から、すぐさま自分たちの空気を作り出す。ギラギラとした照明に加え、オゼキタツヤ(Vo&Gu)のハイトーンヴォイスが際立ついきなりのキラーチューン「TONIGHT」を皮切りに、「タイムオーバー」「恋は白黒」と続くにつれて、須田原生(Gu&Cho)の心地良いカッティング、辻 怜次(Ba)のバキバキに唸る低音、鈴木 敬(Dr&Cho)のダンサブルなビートなど、個々のキャラクターもじわじわと発揮。鮮やかなテンポチェンジやキメを含め、さすがのライヴバンドぶりでirienchyのファンをも惹き込んでいく。

“irienchyと対バンするのは初めてなんだけど、彼らが前にやっていたバンドからつき合いがあるので、今日は楽しみにしてきました。ライヴに向けて対談取材もさせてもらってね。そしたらお互いにすごくマインドが近かったりして、何かと縁を感じております!”

オゼキが嬉しそうに話したあとは、決められた運命に抗う姿勢と爆発力に満ちたサウンドが眩しい「FATEMOTION」、陽気なコーラスやラテン調のダンサブルなノリで場内をより明るく彩った「HEY!!」、夢を追っている人の背中を押すような《世界が聴こえなくても 僕が聴かせてあげる》のメッセージがグッときた「アナログマン」と、さらにギアを上げて躍動する4人。息が合ったキレキレの演奏を通して、楽曲のキャッチーさを改めて思い知らされたのはもちろん、独立後の活き活きとしたバンドの今、そしてメンバー同士の信頼関係までもが垣間見られた感じがして嬉しくなる。

“Benthamも3〜4年振りくらいにツアーをやっている最中なんですけど、irienchyのツアーに混ぜてもらえるこの空気感もすごくいいなと思います。しかし、ミニツアーのわりにはいろんなところに行ってるよね”(須田)
“俺らは6公演だけで“ツアーやってます!”と言いきっている感じなのに(笑)”(鈴木)
“昨日、博多から帰ってきたんだってさ。おみやげに通りもんをもらいました”(辻)
“えっ? 俺、もらってないんだけど...。おい、どうなってんだよ!”(オゼキ)

和気あいあいと話しつつ、irienchyのライヴを初めて観るだけに、リハーサルの時点から楽しんでいると明かすメンバー。Benthamが10月29日に新宿LOFT/LOFT BARで開催する2ステージ往来イベント『FASTMUSIC CARNIVAL』の告知タイムでは、“もしかしたらirienchyも出ます!”という嬉しいフライング発表も。

“こうやって初めて観てくれる人が増えてきて、コロナ禍を経てまた観に来てくれる人もいたりして、最近はとても楽しいです。いろいろうまくいかないこともあると思うんですけど、この場所は、ライヴハウスは変わらないので、ぜひまた俺らだけじゃなくて、いろんなところに足を運んでください”

そんなオゼキのMCから“みんなが安心できるような曲を”と、バンドの最新曲「and」を聴かせる流れも素晴らしい。オーディエンスにやさしく寄り添う温かいムードがじんわりと高まる中、対談時にirienchyサイドが好きな楽曲として挙げた「僕から君へ」「夜な夜な」をクライマックスに組み込むなど、先輩らしく粋で懐の深いステージングを見せたBentham。最高のパフォーマンスで主役へとバトンをつないだ。

■ irienchy ■

Benthamにたっぷりと刺激を受けた主催のirienchyは、お揃いのワークシャツ調の衣装で登場。《みんなハッピーになるさと本気で思ってるんだ》と歌う名詞代わりの「スーパーヒーロー」から、持ち前の人懐っこいポップなメロディー、満面のスマイルで鳴らされるポジティブな熱を帯びたバンドサウンドがキラキラと輝きを放つ。

井口裕馬(Ba&Cho)と本多響平(Dr&Cho)が織りなすビートがスケールアップした感じでどっしりと響き、諒孟(Gu&Cho)ものっけから得意の背面弾きソロを発動するなど、“自分たちが今出せる全てを出す、絶対に後悔しないライヴにします!”と宮原 颯(Vo&Gu)が対談で話していたとおり、メンバーはそれぞれに気合十分な様子だ。

“ここ誰ん家!?”“イリエンチー!!”のコール&レスポンスで始まる「ライライライ」は、《ただいまって言わせてよ》の歌詞がツアーファイナルに打ってつけ。宮原が父親とのエピソードをもとに作った「ずっと」も清々しく、ハッピーな空気感がいっそう膨らむ。対談の際、Benthamのオゼキがirienchyのサウンドをメロウと評していたが、まさしく彼らの楽曲は心にスッと染み入る独特の甘美さがあって、観ていて自然と笑顔にさせられるような魅力がある。

“Bentham、カッコ良かったね。こわかろ? すごかろ? なんかもう、バーン!ってくる感じでさ(笑)。そやけん、本当に今日は嬉しいと!”と博多弁で喜びを伝える宮原。“大阪、名古屋、福岡とやって来て、俺たちはめちゃくちゃいいバンドになっとるけん”と自信ものぞかせ、続いては「ヒトミシリ流星群」へ。Benthamの須田もお気に入りだという夏の終わりに映えるラブソングを、星空のようにきらめく照明の中で味わい深く聴かせた。

Benthamが好きなのになかなか対バンに誘えなかったこと、“なんでもっと早く言ってくれなかったの? 好きなら好きってちゃんと言ったほうがいいぞ。時間がもったいないだろ!”とオゼキにツッコまれたことを、宮原がちょっぴり悔しそうに話すひと幕も。

そんなエピソードを前段に届けられた「Message」は、irienchyの結成前、自分の思っていることを全然言えなくなってしまった宮原が、このままじゃいけないという想いで書いた曲だけに、過去イチと言っていいほど気持ちが強く乗っていた。《このままじゃ終われないや》《いつかは言いたいことも言えるかな》のラインが胸を打つ。

繊細な心模様を歌ったミディアムナンバーから、困難に立ち向かっていく姿勢を示した「ソルジャー」へとアッパーに転じる展開がまたドラマチック。《そうだよな 負けたくないよな?》と全員でパワフルに歌う部分は、メンバーが宮原の背中をがっちりと後押ししているような美しさがあったと思う。

そして、このツアーでお披露目となった新曲「最強のぼっち」も会心の仕上がり! 宮原曰く“うまくいかない時、自分に自信がなくなってしまった時に、側に置いといてほしい曲”とのことで、“自己否定に入ったときも、この曲があれば大丈夫。あなたにはあなたを絶対に大切にしてほしい”という気持ちが込められた、弱さを知るirienchyならではのマイノリティー全力肯定ソングは、初聴きのオーディエンスにも間違いなく刺さっていた。

抜群の包容力で歓喜を呼んだirienchyは、ラストスパートとして鉄板曲「ドリームキラー」「バイバイ」を畳みかける。先のMCで宮原が話したみたいに、忘れられない悔しさを味わって、そこからなんとかして立ち上がり、またハッと気づくような失敗を繰り返すという、どうしようもないほど人間らしい生きざまを瑞々しく描き出した、バンドの真骨頂と言える歌を印象づけ、大盛況のうちに本編が終了。

アンコールでは新曲「ne?」「最強のぼっち」「ミラクルダンサー」「カレーなる休日」を10月から4作連続で配信することを発表。さらに、12月7日にはなんとirienchy結成4年目にして初となるフルアルバム(タイトル未定)をリリースすることも発表し、ファンを驚かせてくれた。

最後はバンドの現在地を確かめるように、全国デビュー時の初心を思い出すように、始まりの曲「メイビー」を力強く演奏。irienchyはどこまで行けるのか。正念場となるここからの歩みにも注目していきたい。

撮影:伊東実咲/取材:田山雄士

irienchy

イリエンチー:2020年1月、元MOSHIMOの宮原 颯(Vo&Gu)と本多響平(Dr&Cho)が新たに結成。恥ずかしいほど正直な心の声や日常に潜んだセンシティブな感覚を紡いだ詩と、どこかほっとするメロディー。ポップにまとまりながら攻撃的な一面のあるテクニカルな演奏など、4人それぞれの感性が絡み合い、先が読めない非凡な可能性と美学を秘めた4ピースバンド。結成同年4月に1stミニアルバム『START』、21年10月に2ndミニアルバム『〇〇者(読み:ナニモノ)』を発表。22年4月には初の全国流通盤としてミニアルバム『AMPLITUDE』をリリースした。

Bentham

ベンサム:2010年結成。16年4月に初ワンマンとして代官山UNITにてフリーライヴを開催することを発表すると、キャパシティーの10倍となる約5,000人から応募が殺到。17年4月にシングル「激しい雨/ファンファーレ」でメジャーデビュー。同年7月には1st アルバム『Re: Wonder』、19年2月には2ndアルバム『MYNE』、同年11月にはバンド初となるベストアルバム『Bentham Best Selection「Re: Public <2014-2019>」』をリリース。結成10周年の節目を迎えた21年は、周年記念プロジェクトの一環として365日×10年をテーマに「3650」を発動。同年9月には全10曲入りアルバム『3650』を発表した。