“2023年8月3日Zepp Shinjuku。
世界中のすべての熱狂、興奮、混沌、祭りを集めて、
『CULT POP WORLD』開催します!”
そんな玉屋2060%(Vo&Gu)の宣言とともに幕を開けたWiennersのワンマンライヴ『CULT POP WORLD』。その言葉どおり、世界中のありとあらゆるリズムとサウンドをパンクな熱に乗せてぶっ放す、愛とロマンとイマジネーションに満ちた一夜。つまりは、徹底的にWiennersらしさに彩られたライヴは、さまざまな意味とメッセージを携えて、最後まで全速力で駆け抜けていった。
そもそも“CULT POP WORLD”というタイトル自体彼らの1stアルバムである『CULT POP JAPAN』を彷彿させるものだし、“世界中の祭りを集める”というコンセプトもWiennersの音楽性に強く結びついたもの。この“CULT POP WORLD”はその意味で2008年の結成以来Wiennersが表現し続けてきた世界観の集大成といっていいものだった。さらにこの日は2015年以来バンドを支え続けてきたドラマー、KOZOのラストライヴという節目でもあった。オープニングの映像とSEに続いてメンバーがステージに登場した瞬間から“KOZO!”と彼の名前を呼ぶ声が飛び交っていたことからも、ファンにとって、そしてバンドにとって、いかにこの日が特別かを物語っていた。だが、同時にいい意味でそのことを忘れるような、つまり今のWiennersを刻みつけるような瞬間もたくさんあって、そんな雰囲気こそKOZOにとっては何よりの餞になったのではないかと思う。
さて、ライヴは名曲「蒼天ディライト」から始まり、コロナ禍に生まれた音楽とライヴハウスへの讃歌「GOD SAVE THE MUSIC」で早くもフロアーに熱狂の渦を生み出していった。手をあげ、その手を叩き、さらには体ごとステージに向かって突っ込んでいくオーディエンス。Wiennersのライヴでは何度も見てきた光景だが、久々に一切の制限のないワンマンライヴということもあってその盛り上がりはますますとんでもないことになっていった。イベントのテーマソングのような「Cult pop suicide」、∴560∵(Ba)のスラップも冴え渡る、ゴージャスなZepp Shinjukuにぴったりの「ジュリアナ ディスコ ゾンビーズ」、アサミサエ(Key&Vo)のヴォーカルが炸裂した「ULTRA JOY」に「SHINOBI TOP SECRET」...新旧織り交ぜてノンストップで進む序盤から怒涛の勢いだ。
“頑張れKOZO!”という励まし(?)の声がフロアーから飛んでくる中、玉屋は“そっち、超楽しそうじゃん! いいな!”と笑顔を見せ、その楽しさを途切れさせたりはしないとばかりに次々と楽曲を繰り出していく。「おおるないとじゃっぷせっしょん」を経て投下されたのは「恋のバングラビート」。インド・パキスタンの民俗音楽をベースにしたこの曲こそ、この「CULT POP WORLD」に相応しい。“Yes、バングラ!”の合言葉とともにZepp Shinjukuが最高のダンスフロアーに変貌していく様子は痛快ですらあった。バングラビートをロックに取り入れたバンドを彼らの他に日本で見たことはないが、さすがWiennersのファン、どんなビートやリズムが来ても瞬時に吸収し貪るように楽しみ尽くすスキルは超一流だ。
「Justice 4」では今度はサンバのリズムがライヴハウスにカーニバルの熱狂を連れてくる。“うー、サンバ!”のかけ声とともにホイッスルを吹きタンバリンを打ち鳴らすアサミサエも楽しそうだ。そのアサミサエと玉屋の2MCがラップを披露する「ASTRO BOY(Black Hole ver.)」でヒップホップのグルーブを届けると(このバージョンは2022年2月発表のリミックスアルバム『Wiemixes』に収録されているのだが、何度聴いてもリミックスの枠を遥かに飛び越えた完成度とオリジナリティーには脱帽する)、KOZOの叩き出すビートをきっかけに「シャングリラ」に突入。“世界一美しい歌声、ハーモニーを聴かせてもらっていいですか?”という玉屋の呼びかけから《HOLI T.O.K.Y.O》のコール&レスポンスが鮮やかに広がった。続く「天地創造」では∴560∵もフロアタムを叩いてお祭り騒ぎだが、そんな中、それまでとは違うムードで玉屋が歌い始める。「午前6時」だ。ミュージシャンとして、あるいはソングライターとしての孤独や焦りや諦めを赤裸々に歌った楽曲だが、じわじわと力強さを増していくバンドサウンドがその孤独や焦りや諦めを包み込み眩しく輝かせていくようでとても感動的だった。
ここで玉屋はじめメンバーがコロナ禍で行なった『リプライ作曲』(ファンからSNSアイディアを募集しつつ、メンバー間でリモートでやりとりしながら曲を作っていく企画)について振り返りつつ、そこで生まれた楽曲「カフノリカ」と「Yahman」をライヴで初披露。ファンの声も楽曲に使われているため、声出しが解禁されるのをずっと待っていたのだ。“コロナ禍の3年という空白を埋めたい”という玉屋の想いに応えるように、フロアーからは大きな歌声が巻き起こった。ステージ後方の巨大スクリーンにはそのやりとりをTwitter(現X)で行なっていた様子が映し出される。コロナ禍という特殊な状況ゆえに生まれた2曲だが、こうしてライヴでドカンと鳴らされたことで、初めて完成したといっていいのかもしれない。
“こんな散らかったバンドを楽しんでくれて、
愛してくれる。
みなさん、変態です!
ありがとうございます!”
ここで玉屋がファンに感謝の言葉を向ける。“歌を歌うのが楽しくてやってるし、感情を揺さぶりたいからやってる。俺は感情が動かないと生きてるといえないと思っている。喜怒哀楽の向こう側に俺たちは行きたい。どんな景色が広がっているのか、4人でずっとずっと追いかけてきた”というメッセージには、改めてKOZOとアサミサエが加入してから積み上げてきた今のWiennersへの自信と自負が滲む。そうして披露されたのが「みずいろときいろ」だった。2015年にKOZOとアサミサエが加入し、最初に作ったのがこの曲。上にも書いたとおりこの日はKOZOのWiennersでのラストライヴであり、このパートはそんな“この”4人で進んできた道のりを明るく、優しく照らし出すようだった。「SUPER THANKS」「LOVE ME TENDER」と続く楽曲たちは、筆者にはまさにバンドでの役割を終えて新たな旅に出るKOZOへのWiennersからのエールのように響いてきた。
そしていよいよライヴは終盤。すっかりWiennersのアンセムとなった「UNITY」でZepp Shinjukuに大合唱の輪を生み出すと、この猛暑の夏にぴったりの「SOLAR KIDS」を経て、メンバー紹介から本編ラストへ。鳴らされたのはKOZOにとってWiennersでの最後の曲となった「TOP SPEED」だった。文字通りあっと言う間に終わってしまう曲だが、だからこそ痛快。KOZOの気持ちの入った8ビートが炸裂するなか、ライヴは見事なフィナーレを飾ったのだった。
アンコール代わりの“KOZO”コールが聞こえてくる中、ステージに戻ってきた4人。最後ということでKOZOはマイクを手に持ちステージの前方まで来てファンに“何をしゃべろうかずっと考えていたんだけど、そんなの関係ないなってくらい楽しかった”と語りかける。当時ドラムをやめようか考えている時に誘いを受け加入してから8年。KOZOは“運が良かった”と語るが、逆に言えば彼がWiennersに加わらなければこの8年間はなかった。玉屋も言っていたが、KOZOというドラマーはWiennersを救ってくれたのだと思う。そんなKOZOの最後の挨拶を経て、アンコールでは「Hello, Goodbye」に始まり「レスキューレンジャー」、そして「子供の心」を披露。「子供の心」ではフロアーからのシンガロングも巻き起こった。さらにこの日はダブルアンコールも。1stアルバムからの「Idol」に加えて、この日2度目の「Cult pop suiside」で最後までお客さんをアゲきってついにライヴは終わりを迎えたのだった。玉屋はこの『CULT POP WORLD』を続けていくと断言していた。Wiennersの何たるかをライヴそのもののコンセプトとしてぶっ放すようなこの企画。これからもいいかたちで続いていくことを期待したいと思う。
撮影:かい/取材:小川智宏
Wienners
ウィーナーズ:2008年に吉祥寺弁天通りにて結成。予測不可能な展開、奇想天外かつキャッチーなメロディーに人懐っこい男女ツインヴォーカル絡み合う、類を見ない独自の音楽で、子供から大人まで聴くもの全ての喜・怒・哀・楽を電撃的にロックする銀河系パンクバンド。予測不可能な展開、奇想天外かつキャッチーなメロディーに人懐っこい男女ツイヴォーカル絡み合う、類を見ない独自の音楽で、子供から大人まで聴くもの全ての喜・怒・哀・楽を電撃的にロックする。