シンガーソングライター・有華の全国ツアー『有華 メジャーデビューワンマンツアー 2023』のセミファイナル公演が3月24日に東京・恵比寿LIQUIDROOMにて行なわれた。今回のツアーは2023年1月にリリースされた「Baby you」でメジャーデビューを果たした有華が、全国10カ所を巡ったツアーであり、この東京公演にも彼女を祝おうとする多くのファンが集まった。
バンドセットで行なわれたこの日のライヴの1曲目に届けられたのは、「Bestie」。この曲は有華自身の友人への感謝や愛を歌った曲ではあるのだが、《今の私がいるのも/あなたが支えてくれたから》や《私たちに怖いのもなんてないよ/帰る場所はここにあるから》という歌詞は、彼女とファン、そしてライヴハウスとの関係性を歌ったようにも思えた。リアルな友人との関係と、ファンとの関係。それらはもちろん違う距離感ではあるのだが、有華はその距離をひょいと飛び越えてくるような親しみやすさを持ったアーティストであるからこそ、歌の聴こえ方も変わってくるのだろう。「プラス=マイナス」演奏時もバンドメンバー含めた全員でのアクションで場を盛り上げ、ファンが振り付けを真似るのを見て“完璧! さすが!”と声をかけたり、「Hey girl !!!!」ではミュージカルさながらの表現力と身振り手振りで、歌詞の中の主人公である女の子の心情を伝えようとしたりと、チャーミングなキャラクターで会場を初っ端から明るい雰囲気にしていった。ちなみに、そんな彼女の様子を観て、“有華ちゃん可愛い!”との声も飛び交っていた。
マスク着用時の声出しがOKになったことで“一緒に歌えるところは歌ってくれますか?”と言葉を投げかけつつ、女性特有の憂鬱やイライラ、情緒の不安定さをそのまま歌った女子の味方ソング「Girls Trouble」、結婚への憧れを等身大のまま綴った「Marry me」を伸びやかに、愛情豊かに歌い上げると、バラード「一蓮星」では雰囲気が一変。じっくりと歌われる淡くてやさしい恋心に、まるで自分自身の心境を重ねて聴いているかのようにじっと聴き入るファンの姿が印象的だった。さらに、今回の東京公演と大阪公演をともにするバンドメンバーをひとりずつ紹介し、地元・大阪を離れ、東京の電車に揺られながら聴いた時に改めてその良さを感じたという「パズル」と、ほろ苦い恋愛を綴ったバラードソング「捨て猫」を披露。こうしたバラードでは有華の歌唱力と表現力の高さがしっかりと伝わってくる。ポップソングの中ではなかなか垣間見ることができなかった彼女が持つ心の陰りの部分が、こうした楽曲内で見えてくるからこそ、有華という存在が聴き手の中でより立体的になるのだろう。
しんみりとした空気を自ら跳ね除けるかのような軽妙なトークで、今回の10都市ツアーでの想い出を振り返りつつ(エピソード毎にちゃんとオチがあるのもすごいし、話し方がうまいのにも驚く。ラジオパーソナリティーを任せられているのも納得だ)、ファンが自身の結婚式で流してくれたというエピソードを踏まえて「愛が溢れて胸いっぱい」や、「君は君」「ずるいね。」とポップチューンを一気に放出! さらに、動画撮影OKとなった最新曲「Baby you」や「リングノート」を一気に畳みかけ、会場は眩しいくらいの明るい雰囲気に。有華自身も“最高ー!”と飛び跳ねて感情を露わにしていた。そして、「バースデーソング -2022 ver.-」ではマイクを向けるたびに湧き起こる特大のシンガロングに感動して、有華の目に涙が浮かぶ場面も。有華はTikTokを筆頭としたSNSの動画で曲が使われることで一気に人気が出たアーティストではあるし、それは事実であることに違いない。けれど、たった十数秒切り抜かれたサビの部分だけなく、ここにいるファンはそれがAメロであろうとCメロであろうと、マイクが向けられれば迷うことなく歌っていた。その光景に感動したし、きっかけは何であれ、目まぐるしく変化していく流行の中でも、いい音楽は届く人にはちゃんと届いているのだということが分かった瞬間でもあった。そうした美しい景色の中で有華は“年齢で夢を諦めないで良かった”と言葉にしつつ、“もっともっと大きな場所に、みんなを連れて行きたい”というメジャーデビュー以降の夢を語り、最後に「Partner」を盛大に届けた。
熱望されたアンコールではピアノの弾き語りにて、コロナ禍で生まれた楽曲「うたでつなごう」と、“亡くなってしまったおじいちゃんに届くように”と話して「ミルクコーヒー」を大事そうに、丁寧に歌い上げた。いつも彼女の歌には“人を想う”気持ちが込められている。その温かさややさしさに救われる人が、メジャーデビュー後のこれから、もっともっと増えていくのだろう。そんな明るい未来が想像できた、素晴らしいワンマンライヴだった。
撮影:鈴木友莉/取材:峯岸梨恵
有華
ユカ:幼少期からピアノと合唱を始め、18歳から大阪を中心にシンガーソングライターとして活動開始。2015年以降、Instagramに写真や動画を公開したことをきっかけに、大好きなお喋りと容姿のギャップが共感を得て、現在までに約11.7万人と異例のフォロワー数を獲得。22年4月発表の配信シングル「Partner」は、同年7月現在でストリーミング総再生回数が4,000万回を突破。同年6月発表の配信EP『Stamp Rally』を引っ提げて、全国4カ所にて『有華ワンマンツアー2022 「Stamp Rally」』を開催した。23年1月に配信シングル「Baby you」をリリースし、日本コロムビアよりメジャーデビュー。