眩いばかりの光を放つ巨大なターゲットマーク、ミラーとライトで派手にデコレーションされた2台のベスパ、そして加藤ひさし(Vo)が身に纏ったユニオンジャックのジャケット。モッドでヒップでチャーミングなオープニング映像に導かれて姿を現したのは、まがうことなきモッズの象徴たち。それらはTHE COLLECTORS が35年という長い歳月に渡って貫き通して続けているスピリットの表れである。しかし、それは“Anniversary”を謳った時のひと区切り感やある種のノスタルジーを醸し出すものでは決してない。なぜならこのステージで彼らが一発目で鳴らしたのは、バンドにとって最新のナンバーである。息苦しく生きづらい現状を受けて《Do what you want》と加藤が叫ぶ「裸のランチ」だったのだから。
この“やけっぱちソング”(インタビュー時の加藤の発言)からエナジー全開のまま、孤独をポップなサウンドに乗せて歌う「クルーソー」、異国から異次元へとトリップさせるサイケディック・スペースロック「ヒマラヤ」、古市コータロー(Gu)のリズミカルなギターがメロディーを緩やかに支える「ひとりぼっちのアイラブユー」と立て続けに披露。抜けの良い爽快なサウンドビューがアリーナーで灯されるたくさんのペンライトで、より色彩感を増していく。
2度目の武道館公演であることを話しつつ、“次回は東京ドームで...野球”とジョークもおり混ぜたMCで場内を和ませたあと、加藤がアコースティックギターを抱いての5曲目には、微かな夏の香りを漂わせるロマンチックな青春ソング「GIFT」を。ピンク&ミントグリーンの柔らかな光がステージと客席を包み込んでいく演出との相乗効果にも、思わず胸をキュンとさせられる。古市のギターソロにムービングライトが呼応する「たよれる男」はプレイされるたびにスケールアップしているが、“ヒロト”というワードが出てくるこの曲をこの日に選んだのは、どうやらちょっとした洒落っ気もあるような...。
タイトルにTHE COLLECTORSを形成する要素が凝縮されていると言っても過言ではない「Stay Cool! Stay Hip! Stay Young!」で山森“JEFF”正之(Ba)が刻む跳ねるモータウンビートが心を躍らせ、続くメロウなサウンドの向こう側から永遠の少年性が語りかけてくるような「扉をたたいて」からは濁った視界を拭っていくようなトーンが切実さを持って伝わってきた。
“やりたいことは、全部やれ!”という力強い呼びかけに始まるパンキッシュな「全部やれ!」の能動性に満ちあふれたメッセージ、そのメッセージの裏づけともなるであろう「ノビシロマックス」のポジティビティー、そして完全に肯定せざるを得ない
“ユニオンジャックの俺を見たいんでしょ?”という軽妙な加藤のひと言に、さらに清々しい心持ちに。
“歌”を主軸に置いた近年のソロワークスの賜物で、その歌声に味わいと軽やかさが共存していた古市のリードヴォーカル曲「マネー」、古市、山森、古沢“cozi”岳之(Dr)の3ピースによるインストゥルメンタルのブルースロックチューンと、THE COLLECTORSのライヴの定番的なシーンであり、大きなフックでもある2曲を挟んで、ここからは怒涛の後半戦へ。
ブルーを基調とした市松模様のジャケットに加藤の衣装もチェンジされ、それとともに放れた「ロボット工場」で、再び場内の高揚感は急上昇。そして、大きな愛が広く深く鳴り響いていく「愛ある世界」、ターゲットマークを青と黄のウクライナ・カラーに染めた反戦歌「NICK! NICK! NICK!」を続けて披露した流れは、このライヴのひとつのハイライトと言える。1993年にリリースされた「愛ある世界」(アルバム『UFO CLUV』収録)とインディーズ時代の代表的なナンバーのひとつである「NICK! NICK! NICK!」が、今、こんなにも激しく胸を撃つとは...。いや、それこそがこのバンドが、加藤が、恒久的なメッセージを歌い続けてきたことの証なのだ。
“ロックンロール! これがロックだよ”
そう、加藤のこの言葉に尽きるだろう。そして、声を出せないオーディエンスもクラップで加わった「お願いマーシー」は、メンバー4人の楽しそうなプレイと表情がロック少年少女たちの希望を照らす。あぁ、それから...ここでマーシーの名が歌われることで、「たよれる男」のヒロトとの関連性に気づいて思わずニヤリとした人も少なくなかったのではないだろうか。
アインシュタインの話が古沢のタイトなビートに乗って繰り出される、これもまた反戦色を滲ませた「限界ライン」に続き、本編ラストに届けられたのは、なんと「虚っぽの世界」。この日、この場、この瞬間のために生まれていたようなこの楽曲に込められた想いには、泣けてしまうほどのカタルシスを感じずにはいられなかった。
Deep Purpleの「紫の炎(原題:原題 Burn)」をジャブ代わり(?)にチラッと聴かせてからのアンコール1曲目は、古市の奏でる美しいフレーズで幕を開ける「世界を止めて」。胸を焦がすようなシンプルで真っ直ぐなラブソングは、時を重ねて熟成した味わいも湛えていた。続く、バンドの代名詞とも言える「僕はコレクター」では、サビのコール&レスポンスの代わりにペンライトが大きく振れ続ける。小さな物語を歌ってはいるけれど、起爆力は最大級。しかし、この変わらぬフレッシュネスには、ただただ敬服するばかりだ。
ダブルアンコールは「僕の時間機械」をTHE COLLECTORSのライヴ史上最速(おそらく)で投下。モッズのあの生き急ぐような魂を体現した疾走するサウンド、モッズコート姿の加藤の熱くパワフルなヴォーカルに、オーディエンスの熱狂度も絶頂へ。35周年のアニバーサリーをこんなにも高いテンションで締め括るとは!?
メロディーは夢を奏で、ビートは今を鳴らし、歌声は希望へのメッセージをカラフルに彩る。そして、その姿は終始エネルギッシュ。心と身体にたくさんの刺激と栄養をプレゼントしてくれた、素晴らしく充実した音楽時空間。さて、次はどこに連れていってくれるのか? 何をどんなふうに鳴らしてくれるのか? まだまだ続く、“This is Mods”であり続けるTHE COLLECTORSの旅の行方にワクワクが止まらない。
撮影:後藤倫人/取材:竹内美保
THE COLLECTORS
ザ・コレクターズ:1986年初頭、ブリティッシュビートやブリティッシュサイケに影響を受けた加藤ひさしと古市コータローを中心に結成。2014年に山森“JEFF”正之、17年に古沢“cozi”岳之が加入し、現在のメンバーに。メジャーデビュー30周年を迎え、17年3月1日には初の日本武道館を開催し、18年11月には初のドキュメンタリー映画『THE COLLECTORS 〜さらば青春の新宿JAM〜』が公開された。20年11月には、加藤ひさしの還暦記念ワンマンライヴ『THE COLLECTORS, HISASHI KATO 60th BIRTHDAY LIVE SHOW “Happenings 60 Years Time Ago”』を開催。そして、21年6月はバンド結成35周年記念公演を大阪城音楽堂で開催し、22年3月には5年振り2回目の日本武道館を実施。