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INNOSENT in FORMAL ライヴレポート

【INNOSENT in FORMAL ライヴレポート】 『INNOSENT in FORMAL presents the LIVE How to drink Mix Juice』2022年2月13日 at 渋谷WWW

2022年02月13日
@渋谷WWW

全9曲中、イントロ、インタールード、アウトロという位置づけの3曲を除く6曲がそれぞれに異なるアーティストとの共演となったINNOSENT in FORMAL(以下、イノセン)のコラボミニアルバム『INNOSENT 3~High Purity Mixed juice~』。野心作となった同作の試みをライヴに落とし込んだ2月13日の渋谷WWW公演『INNOSENT in FORMAL presents LIVE How to drink Mix Juice』は、ジャンルの垣根を越えた対バンを迎えると同時に多くのゲストとの共演も楽しませる、それこそリリース記念ライヴに相応しいパーティー感を演出しながら、タイトルに掲げたとおりイノセン流のミスクチャー哲学もアピール。そして、何よりもライヴバンドとしてのイノセンの成長を印象づけるこれまた野心的なものとなったのだった。相互のリスペクトに根差した交歓だけに終始せず、しっかりと対抗意識も感じさせたところが観ながら心地良かった各アーティストの熱演を出演順にお伝えする。

■ Nagie Lane ■

“トップバッターなんですけど、ここが今日のピークだと思ってるんで、よろしくお願いします!”(mikako)

1曲目に選んだR&B調の「愛以外に用はない」で見事なハーモニーを印象づけた直後、このあとに出てくるRAU DEFやイノセンを向こうに回して、堂々とそう宣言したNagie Laneは、“楽器を持たないネオシティポップバンド”を掲げる男女混成の6人組アカペラグループ。前述の「愛以外に用はない」をはじめ、年9月にリリースしたメジャーデビューアルバム『Interview』の収録曲中心に全6曲を披露。リードとコーラスが巧みに入れ替わるrei、mayu、mikako、keijiによるハーモニーワークに加え、バンドサウンドを奏でるbarattiのヴォイスパーカッションとeuroのベースヴォーカルというこの6人ならではの魅力を存分に見せつけた。強面のラッパーたちが顔を揃えた『INNOSENT 3』のゲストの中でNagie Laneは異色に思えたが、前掲の宣言や6人が歌い踊るストリート感覚あれるパフォーマンスを考えると、全然そんなことはないのかも。

そんな魅力が一番感じられたのが、一瞬、同期で鳴らしているんじゃないかと思ったほど、barattiとeuroがヒップホップのトラックを巧みに鳴らしたラップナンバーの「I need you here.」から「Friday Night」につなげ、mikakoがソウルフルなシャウトをキメた後半戦。観客全員が体を揺らしながら、手を叩いている光景からはNagie Laneが見事、観客の気持ちを鷲掴みにしたことがうかがえた。そして、ラストナンバーは正調アカペラナンバーの「花と蜜」。ポップな曲調とは裏腹の大胆な歌詞が最後の最後に大きな印象を残して、Nagie LaneはRAU DEFにバトンを渡した。

■ RAU DEF ■

“(『INNOSENT 3』に)誘ってもらうまで、(イノセンのことは)存じ上げなかった。カッコ良いミクスチャーのバンドの人たちだと思いました。よろしくお願いします”ーー。ライヴの中盤、RAU DEFが言った、この言葉はイノセンのフロントマン、ぽおるすみす(Vo)にとってとても嬉しいものだったはず。なぜなら、“THE REAL HIPHOP”とぽるすみすがリスペクトするRAU DEFは、彼がラップを始めるきっかけになったヒップホップMCだからだ。

DJとともにオンステージしたRAU DEFはNigie Laneと同じ持ち時間で全14曲を披露。トラップ、R&B、ジャズ、ダンス・サウンドと曲ごとに趣向を凝らしたトラックに乗せ、たたみかけるようにラップやフロウを繰り出しながら、立ち振る舞いも含め、彼が漂わせるヒップホップ特有のマチスモの対極にあるエモさに、ぽおるすみすが惹かれるのも分かると思ったりも(いや、ぽおるすみすの真意とは違うかもしれないけれど)。もしかしたら、ヒップホップに不慣れな客層という意味では、若干のアウェイ感はあったんじゃないか。しかし、RAU DEFはそんなことはお構いなしに“知ってる人も知らない人もついてきてください。ゴリゴリのヒップホップ、行くぞ! バウンス! バウンス!”と煽りながら、どんどん観客を自分のペースに巻き込んでいった。客席の盛り上がりにRAU DEFは思わずニヤリ。

“今日のライヴで、俺、一番ですよね”

後半戦では、昨年10月、韓国のラッパー、SKLRとASIAN PIRATES名義でリリースしたEP『PIRATES VISION』から「dirty」「candy」「good shit main」も披露。最後は跳ねるピアノの音色を鳴らしながら、sugbabe(PUNPEEのシンガーネーム)のフィーチャリングも話題になったポップなラップナンバー「freeze」で一際大きな盛り上がりを作り上げた。

■ INNOSENT in FORMAL ■

そして、RAU DEFから熱いバトンを渡されたイノセンがスクリーミン・ジェイ・ホーキンスが吠えるように歌う「I Put Spell On You」が流れる中、ステージに登場。“よろしくどうぞ”と魔術師のようないでたちのぽおるすみすがボソッと言った短い挨拶から、『INNOSENT 3』収録の「愛じゃ崇ワナ」で演奏がスタート。CANDY MAN(Gu)のカッティング、Kuni the ripper(Ba)のスラップが熱を加えながらも、ぽおるすみすのラップをはじめ、若干抑えた調子の演奏を、固唾を呑んで見守る客席の静けさは、まさに嵐の前のそれだった。

「愛じゃ祟ワナ」から間髪入れずにTOY BOY(Dr)のドラムでつなげ、2曲目の「footloose」に雪崩れ込むと、“Ladies and gentlemen!! 調子はどうだい!?”というぽおるすみすの激しいシャウトを合図にバンドの演奏は一気にヒートアップ。ギターのリフが痙攣するように鳴るミクスチャーロックに観客が手を振り始めると、ぽおるすみすはステージを激しく動きながら、観客をさらに煽っていった。そして、バンドの演奏はそのまま「No.1」へ。なんだ!? なんだ!? なんだ!? いきなりの怒涛の展開に面食らいながら感じたのは、3曲で今日イチと言えるピークまで盛り上がりを持っていったバンドの格段のパワーアップと、フロントマンとしてのぽおるすみすのスケールアップだった。ぽおるすみすがよく口にする“食らった”とは、こういうことを言うのだろう。しかし、ぽおるすみすは言い放ったのである。

“Nagie Lane、RAU DEFそれぞれに今ここが一番のピークだと思ってるって言ってましたけど、ここから秒単位でピークを更新していくんで。ぶちアガッてください!”

つまり、コラボミニアルバムの試みをライヴに落とし込んだそこからが「Mix Juice」を掲げたこの日の本番というわけだが、単純に『INNOSENT 3』の再現だけで終わらなかったところにライヴを特別のものにしたいというイノセンの思いがうかがえるような気がした。

昨年2月20日の渋谷WWW公演における草ラップ集団、quon6との共演から生まれた『INNOSENT 3』収録の「Hang out」を再びquon6を迎え、同じ渋谷WWWで披露するというストーリー作りのうまさにもニヤリとさせられたが、“ライヴを特別なものに!”という意味では、あえて選曲した「Jackin’ rock beats」「日向が少ないこの街で」といった過去曲もしっかりと観どころになっていたんじゃないだろうか。The White Stripesの「Seven Nation Army」他、ロック史に残る必殺のリフを換骨奪胎した前者ではイノセンのメンバーたちがリスペクトするレーベルの先輩、THE PINBALLSの中屋智裕(Gu)がぽおるすみすによる“俺たちのアイコン!”という紹介とともに登場し、切れのあるプレイとスーツでキメたスタイリッシュないでたちでステージにひと味違う華やかさを加え、たたみかけるようにつなげた後者ではCANDY MANとソロをリレーして観せ場を作った。

“こんなふうにたくさん出てきます。最高でしょ?(笑)”(ぽおるすみす)

茶目っ気たっぷりの言葉を挟んでからの後半戦は、『INNOSENT 3』収録の「カメレオン」と「my peaches」を、それぞれ音源と同じようにRAU DEF、ラッパーのPESとともに投下し、メロウなミクスチャーロックサウンドの中にエモさをにじませた前者、空間系の音作りの中にラテンの風を吹かせた後者といった具合に観客を揺らしまくった前半戦の狂騒とはまた違う――例えば観客がワイプで応えるような振り幅もアピールした。そこからさらに4人だけで演奏した「Highway」で都会的な洗練も自家薬籠中の物としていることも印象づけると、バンドは「after song」で持ち前のエモさを観客と分かち合いながら本編を締め括った。

「after song」を演奏する前に、ぽおるすみすは観客が会場に足を運んでくれたことと、観客の反応がライヴの醍醐味を改めて味わわせてくれたことに感謝を述べると、“俺たちには音楽しかない。INNOSENT in FORMAL、今年もバチバチにやっていくんで”と宣言。そんな思いとともに締め括るという意味では、音楽しかないという覚悟と再起も含めた始まりを歌った「after song」ほど相応しい曲はなかったと思う。

そして、アンコールではNagie Laneと共演した『INNOSENT 3』収録のイノセン流のシティ・ポップ「doo dah!! Winter!!」を打ち込みのトラックに合わせ、Nagie Laneの6人とぽおるすみすで披露。コラボミニアルバムの成果をダメ押しでアピールすると、オーラスはもちろんイノセンのメンバーを呼び込み、4人だけで演奏した「Junkie’s never enough」でバンド・サウンドを炸裂させる。ダンサブルなサウンドに合わせ、観客がバウンスする中、パートごとに声色を使い分けるぽおるすみすのシャウトが響き渡った。

最後の最後にバンドの格段のパワーアップを今一度、観客の脳裏に焼きつける熱演だった。中でもぽおるすみすの壮絶な姿は、何かが憑依したんじゃないかと思えるほど。豪華ゲストとの共演も確かに観どころだったと思うが、筆者がこの日、何よりも“食らった”のは、イノセンの圧倒的なライヴパフォーマンス。そのことを最後にしっかりと記しておきたい。また、3月にはビッグニュースが発表されるそうだ。

撮影:白石達也/取材:山口智男

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