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TrySail ライヴレポート

【TrySail ライヴレポート】 『LAWSON presents TrySail Live Tour 2021 "Re Bon Voyage"』 2021年11月13日 at 東京ガーデンシアター

2021年11月13日
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TrySailが11月13日に東京ガーデンシアターにて『LAWSON presents TrySail Live Tour 2021 "Re Bon Voyage"』を開催した。TrySailと言えば、昨年春にユニット結成5周年を迎え、今年9月には最新アルバム『Re Bon Voyage』を発売。同作を軸とする本ツアーでは、そのタイトルになぞらえ、大きな“リボン”をかけたプレゼントボックスにステージ全体を見立てるなど、彼女たちからの“贈り物”的な側面をライヴで打ち出していた。そんな祝祭感に満ちあふれたステージより、本稿では東京2日目公演の模様を振り返りたい。

まずは、この日の船出に際して“出席確認”のような時間が。1曲目の「Re Bon Voyage」でメンバーが《(はい はい はい はい)》と、再会を待ち焦がれたかのように前のめりにコールを放つ。出席確認が取れ、“希望の帆”を掲げる準備は整った。そのまま「バン!バン!!バンザイ!!!」「adrenaline!!!」と、“こんな序盤で!?”と驚かざるを得ないパワーチューンでさらに畳みかける。特に「adrenaline!!!」ではワクワク心を抑えきれなかった夏川椎菜。“じゃあ最後、みんないくよー!”と煽る場面もあるなど、開幕から3曲にして、ステージ上の本人たちですら終盤戦に突入したと錯覚するほどの熱気を感じたようだ。

そんな彼女たちの強力な武器のひとつは“ハーモニー”。これまでは、麻倉ももがキュート、雨宮天がクール、夏川がパワフルな歌声を放つというイメージがどこかにあった。だが、それが変わったのが7曲目の「オリジナル。」。分かりやすく言えば、前述した従来の持ち味をベースにしながらも、これまで雨宮が担ってきた力強さや芯の太さといった歌声の要素を、他ふたりがこれまで以上に持ち得るようになっていたのだ。ここでのユニットとしての“一体感”がものすごかったのは語るまでもない。想像するに、各自がソロシンガーとしても経験を重ね、表現の幅を広げたことで、歌声の芯の部分が逞しくなったのだと思われる。

それだけではない。続く過去の失恋を懐かしむような弦楽四重奏のバラード「モノラル」では、歌詞で描かれる映画のワンシーンのような思い出の数々を、彼女たちは時に愛しく、時に切なく3人の歌声で表現し、リスナーの心を動かす。特に麻倉に感じた部分だが、表情の作り込みもまた見事だった。すると《ゆっくりと あなたと私の歩幅あわせた》で、たっぷりと“溜め”を持たせたところから、この楽曲で初めてメンバー全員の歌声が重なる流れに感動を覚える。圧巻だったのは、彼女たちの歌声がますます人として洗練された印象があり、過去にはないほど大人びていたことだ。

本人たちはこの日のMCで、活動7年目を迎えたユニットを“セミフレッシュ”だと冗談混じりに語っていた。嫌な意味ではなく、ひとりひとりが個人として、デビュー時に比べて“素敵な女性”としての磨きがかかったのだろう。デビュー当時から流れた時間の全てに、改めて感謝をしたくなるほどオーラのあるハーモニーを味わうことができた。

ライヴの折り返しには2022年第一弾シングルより、表題曲「Lapis」を早くも披露。深海を思わせる瑠璃色の照明に照らされながら、メンバーが時に背を向けてバラバラな方向に視線をやりながら、引き裂かれるような感情をぶつけていく。かと思えば、楽曲終盤に向けて、ステージ中央に腰を下ろし、お互いを慰めるかのように小さな肩をか弱く寄せ合う場面も。“歌う”というより、かすれた声で打ちひしがれた想いの歌詞を呟くシーンには、思わず心をキュッと締めつけられた。

その後のMCでは、TrySailにかかわるあらゆる人が“愛を伝え合うこと”こそ、本ツアーのテーマだと明かされる。そこから“愛”つながりで、人差し指と中指でハートマークを作るのが若者のオントレンドなポーズだと紹介しながらも、ポーズを取るのがとにかく難しいと話しながら盛り上がっていた。

そんな話題もひと段落したところで、次曲に向けて給水中のファンに、メンバーが立ち上がるよう呼びかけた。...のだが、ここでメンバーが“急かしてないよ”や“私たちは心が広いから”と口々に唱えた際、麻倉が前述のハートマークを手元で作りながら“(これ)ちょっと便利だね”と思わずぽろり。それに対して、夏川がすかさず“愛を便利って言っちゃダメだよ!”とパンチラインを放ったところから歌唱されたのが、愛情に満ちた何気ない毎日がかけがえないと歌う「この幸せが夢じゃないなら」。なんともタイミングが良すぎる。

本編終盤のハイライトは「マイハートリバイバル」。イントロのシンガロングは、社会の鬱屈なあれこれを世界の隅に追いやるかのような可愛らしい振り付けとともに披露。1番では内容とフロウともに鋭角なラップを放ったかと思えば、最後のキメには雨宮が豪快な“ぷはーっ!”の声ガヤで、日頃の疲れを炭酸飲料の爽快さで吹き飛ばす(あくまでも“炭酸”飲料だ)。さらに、2番では彼女の歌の“こぶし”を真似て、夏川もが原曲にない自由なアレンジで続く。とにかく語りどころが多く、今後のライヴでも人気曲に食い込むこと間違いなしだとうかがえた。

アンコールでは「ひだまりの場所」「君となら」など全3曲を歌い上げたところで、最新アルバム収録曲全てを惜しみなく披露しきった。ここで最後に強烈なインパクトを残したのが、彼女たちのライヴ定番曲「Baby My Step」。メンバーのソロパートが用意されているこの楽曲。まずは麻倉の歌唱時、夏川が彼女の顔を覗き込みまくり、それに気づいた麻倉がいぶかしげに指差し。すると、夏川が満面の笑みをこぼして、相変わらずの“黄色い厄介”ぶりを露呈する。すると、お次は雨宮が《思わせぶりなセリフで君にアタック》のフレーズのラストを、アドリブでわざと艶っぽさたっぷりに歌ったところで夏川が大爆笑。続く自身のパートをしばらく歌えず、腹を抱えてもだえていた。そして、主役は夏川本人に。楽曲の最後に片足立ちするところで、まさかのバランスを崩しかける。彼女こそ紙一重で持ち堪えていたが、感染対策徹底に努める客席側は、あわやクスッと吹き出しかけるばかりだった。まさに“夏川椎菜タイム”と呼ばざるを得ないコミカルなひと幕に、我々の心も《(ホップ・ステップ・ジャンプ!!)》状態である。何はともあれ、そんなドキドキする場面も含めてTrySailのライヴはいつだって幸せなのだ。

「この幸せが夢じゃないなら」の歌詞にも通ずるところだが、TrySailと過ごす非日常で、日常の延長線上にあるライヴのひと時は、掛け値がないほど愛おしい。彼女たちの織りなす音楽はもちろん、その存在こそが何よりもの“贈り物”だと改めて感じる一夜だった。

撮影:江藤 はんな/取材:一条皓太

TrySail

麻倉もも(あさくら もも)、雨宮天(あまみや そら)、夏川椎菜(なつかわ しいな)による女性声優ユニットのトップランナー。レーベルはSACRA MUSIC。2015年にCDデビュー。2017年には初のアリーナライブを敢行するなど積極的にライブも展開。2021年9月に4枚目のアルバム『Re Bon Voyage』を発売し、オリコン週間ランキング5位を獲得。各メンバーはソロアーティストとしても精力的に活動中。