この数年間で“アニソンフェス”という括りのイベントは数えられないほどに増えた。そのぶん、その年の流行歌や若手を主体とした出演者が集結することが多い印象があるが、今回開催された『DIAMOND FES 2021 AUTUMN ANIME SONGS』のような“アニソンの歴史”“レジェンドたちのすごさ”を肌で痛感することができたイベントにはなかなか出会うことはないと思う。
2019年に日韓アーティスト共演で産声をあげた『DIAMOND FES』。同フェスも他のフェス同様にコロナ禍で大きな影響を受けているが、特に今年は勢力的に有観客&生配信にて開催を続けている。J-POP、K-POP、ヒップホップなど、多種多様にわたるアーティストをラインナップしている『DIAMOND FES』だが、本公演ではアニソンアーティストが出揃った。しかも、そのラインナップは誰もが鳥肌を感じずにはいられないレジェンドばかり。“アニキ”の呼称で誰からも愛されている水木一郎を筆頭に、松本梨香、きただにひろし、奥井雅美、米倉千尋、そして若手枠としてオーイシマサヨシが参戦。最後には全員による「マジンガーZ」も披露された歴史的な一夜の模様をお届けしよう。
■ 米倉千尋 ■
同イベントのMCを務めたお笑いコンビ・がっつきたいかの呼び込みで登場したトップバッターは、今年でデビュー25周年を迎えた米倉千尋。1曲目に披露したのはエレクトロなイントロに心が踊るTVアニメ『仙界伝 封神演義』OP主題歌の「WILL」。満面の笑みで客席を盛り上げる米倉。パワフルな歌声はもちろん、何年経っても少女のように全力でライヴを楽しむ無邪気な姿が特に印象的だ。続くMCでは“みなさんも歌いたいと思っているのは伝わっていますので、その想いだけでもここでコミュニケーションが取れればと思います!”と、コロナ禍で制限があるファンとも気持ちで直接つながりたいという想いを観客へ届ける。そして、2曲目に披露されたのはTVアニメ『RAVE』OP主題歌の「Butterfly Kiss」。湧き上がる拍手の中で楽曲がスタートし、中盤の間奏では優雅に舞い踊る姿がまさに可憐な蝶そのものだった。2001年に発表された楽曲だが、米倉の変わらぬ歌声と流麗な曲構成、楽曲の世界観に色褪せることのない名曲だと再確認させられる。その後のMCで話した“コロナ禍でのイベントで、お客さまが立ち上がって観てくれているのは今年初めてなので、涙が出るくらい嬉しい気持ちでいます”という言葉には、コロナ禍でのライヴにも少しばかり光が見えてきたように感じたし、感動を覚えた。続いてTVアニメ『機動戦士ガンダム第08MS小隊』のED主題歌「10 YEARS AFTER」とOP主題歌「嵐の中で輝いて」を2曲連続で披露。「嵐の中で輝いて」は1996年に発表された米倉のデビューシングルだが、長年愛され続ける楽曲が持つ力にアニソンの良さを改めて感じることができた。
■ きただにひろし ■
ユーロビートのイントロが流れ出し、テンションを爆上がりした観客が激しくもアツくペンライトを振る中、きただにひろしが登場! 観客の心を鷲掴みにした1曲目は『仮面ライダー龍騎』3rdエンディングテーマ「Revolution」。伸びやかで力強い歌声に筆者の鳥肌が止まらない。サビで拳を振り上げる姿に、自然と脳裏に『仮面ライダー龍騎』の戦闘シーンが流れ始め、テンションがマックスになる。そんな興奮の一曲を披露し、MCでは“やっぱり、お客さんの前で歌うのは気持ち良いですね”とライヴの楽しさを伝え、先日発表された『全仮面ライダー大投票』についても話す。ちなみに「Revolution」は数えきれないほどある楽曲の中で21位にランクインした。“短い時間ですけど、よろしくお願いします! それじゃ、残りの曲いくぞー!”とTVアニメ『ONE PIECE』の主題歌2曲を連投。1曲目は「ウィーゴー!」。サビ終わりの《いち、に、Sunshine/よんっ...ウィーゴー!》では、観客も力いっぱいに腕を振り上げる。その熱気に負けじと歌声で応えるきただにのアツいステージパフォーマンスを観て、筆者は観客ときただにのぶつかり合いが“もう、これはある種の戦闘だ!”と感じずにはいられなかった。続けて披露された「OVER THE TOP」のCメロでは、“みんなの出番です!”と観客と一緒にクラップでコミュニケーションを取る場面に感動した。そして、“長年楽曲を愛してくれてありがとう”という感謝の想いを伝えるきただに。最後に投下されたのは同じく『ONE PIECE』の主題歌で、きただに自身も“何万回も歌ってきた”という「ウィーアー!」。イントロで観客のボルテージは最高潮に達し、飛び跳ねながら全身で歓びを表現する人も多かった。最後の《ウィーアー!》で会場全員がバシッと腕を振る光景は本当にきれいで、観客の歌声すらも聴こえた気がした。
■ 奥井雅美 ■
“奥井、いきまーす!”と言いながら登場したのは、可憐な黒い衣装を身に纏った奥井雅美。そんな彼女が1曲目に選んだのはTVアニメ『少女革命ウテナ』OP主題歌の「輪舞-revolution」。ファルセットの使い分けやウィスパーヴォイス、こぶしなど、難しい歌い方がところどころに入る楽曲だが、何気なくこなしてしまう奥井のスキルの高さが再確認できる一曲で、筆者は勝手ながら“奥井らしい楽曲”だと思っている。間奏では笑顔で会場全体を見渡しながら“ちょっと、感動して泣きそうです”と話す奥井の姿に、こちらもライヴ序盤から感動させられる。MCで米倉と同じく観客に立ってライヴを観てもらえる光景が“500万年振りなんじゃないかなという感覚”と話しており、その気持ちが先ほどの“泣きそう”という言葉につながっていたのだろう。続いて披露されたのはゲーム『ラングリッサー リインカーネーション-転生-』主題歌の「Blood Blade ~光と闇の彼方~」。スピード感がありエレクトロかつロックなサウンドが特徴的な一曲で、観客のテンションも一気に上がっていく。ロックなギターリフのあとに爆発的なエレクトロサウンドで始まるゲーム『マブラヴALTERED FABLEトータル・イクリプス』の主題歌「INSANITY」が続けて投下され、その勢いに観客もペンライトを振って応える。ステージを縦横無尽に歩きながら観客を煽っていく奥井のカッコ良いパフォーマンスには全身が震えた。...が、その後のMCでは楽屋の裏側の話をして会場の笑いを誘っていたのも彼女らしい一面。そして、“ステージで歌を歌える喜びを感じています”と感謝を告げながら“80歳まで歌わないといけないので”とこれからも走り続ける決意を述べるのだった。ラストに投下された楽曲はロックサウンドに彼女の歌声がより一層カッコ良さを生むTVアニメ『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』OPテーマの「Shuffle」。力強い歌声で観客を圧倒し、“会場も配信も、みんなの気持ちが伝わるわー!”と最後のひと音まで楽しそうに歌うシンガー・奥井雅美の素晴らしさを改めて体感できたステージだった。
■ オーイシマサヨシ ■
幕間でクールダウンした会場を特撮テレビドラマ『ウルトラマンR/B』OPテーマの「Hands」で焚きつけたのは、本日最年少枠で出演したオーイシマサヨシ。きれいで伸びやかな声で歌いながら、楽しそうにステージを歩き、観客ひとりひとりと目を合わせてしっかりとコミュニケーションを取る姿が印象深い。《決して絆を諦めない》、そのアツい気持ちがビシビシと身体に伝わってくる。観客もそんなオーイシに応えるように全身でライヴを楽しんでることは言わずもがな。1曲目からフルヴォルテージでステージを開始したオーイシは、“アニソン界のおしゃべりクソ眼鏡ことオーイシマサヨシです!”といつものキャッチフレーズで自己紹介をし、“41歳で最年少、アニソンの世界は深いなぁ”と笑いを誘いながらもアニソン界のレジェンドたちと共演できる喜びを伝える。“結構、カロリー高めのセットリストです”と自身で話した通り、続く「インパーフェクト」(TVアニメ『SSSS.DYNAZENON』OPテーマ)も冒頭からテンションマックスになる一曲で、疾走感溢れるメロディーに自然と身体が動いてしまう。一緒に歌いたい気持ちをクラップに変えて会場全体がひとつになっていくのが分かった。少しMCを挟み、続けてオーイシがTom-H@ckと組んでいるユニット・OxTの楽曲「UNION」(TVアニメ『SSSS.GRIDMAN』OPテーマ)をひとりで披露。大きな拍手が鳴る中で始まった冒頭のサビから会場のボルテージは最高潮に達した。この曲をオーイシのソロバージョンで聴けることはとても貴重で、『DIAMOND FES』というイベントの面白さを再確認した場面でもある。“珠玉の名曲です”と紹介し、オーケストラが印象的なイントロが流れたので、どんな壮大な曲がくるのかとドキドキしていたら、なんと自身も出演している『キンカン』のCMソング「キンカンのうた2020」(笑)。『キンカン』を手に持ちながらCMでお馴染みの振り付けで歌うオーイシ。最後まで観客を楽しませるエンターテインメント性があふれるアクトだった。
■ 松本梨香 ■
フェスもいよいよ終盤。続く松本梨香はユーロビート調のイントロが流れる中、赤いライトに染まったステージに登場! “行くぜー! Zepp Yokohama!”とハスキーヴォイスで客席を煽り、『仮面ライダー龍騎』のOPテーマ「Alive A life」が投下される。力強い松本の歌声に圧倒されながら、やはりこの人は唯一無二の女性アニソンシンガーだと実感したのは筆者だけではないはずだ。MCでは松本も『全仮面ライダー大投票』の話題となり、「Alive A life」が13位、『仮面ライダー龍騎』がシリーズの中で6位だったことを嬉しそうに話す。その上で作品が愛されていることへの感謝の気持ちもファンへ伝えた。“他ではあまり披露していないけど、詞の内容がコロナ禍の今に合うんじゃなかと思って。練習をしていたら歌詞で泣けてきたんです。アニソンってこういうところだよね”と楽曲に対する想いを話してから披露されたのはアニメ『伝説の勇者ダ・ガーン』OPテーマの「風の未来へ」だった。歌詞にも注目して歌唱を観ていたが、確かに松本が言うように歌詞がコロナ禍の時代でもみんなで力を合わせて頑張ろうというメッセージであるかのように感じられた。観客と一緒に振り付けをしたいということで、MCのがっつきたいかをステージに呼び込み、振り付けのレクチャーをしてから始まったのは、長年歌い続けているKiroroのカバー曲「生きてこそ」。先ほどのアップテンポなナンバーで魅せるパワフルな松本とは打って変わり、楽曲に対する彼女の想いを観客ひとりひとりの心へ届けるようにしっとりと丁寧に歌い上げた。そして、松本梨香と言えばこの曲、「めざせポケモンマスター 〜20th Anniversary ~」(TVアニメ『ポケットモンスター』初代オープニング主題歌)を投下! そのパフォーマンスを観ながら、誰もが口ずさめる国民的な楽曲が何年経っても色あせず新鮮に聴こえるのは、松本梨香がこの曲を歌うからなのだろうと強く感じた。
■ 水木一郎 ■
そして、大トリはアニソンデビューから半世紀、アニソン界の“アニキ”こと水木一郎だ。 “ゼーット”と雄叫びを響かせて登場した水木。この時点で鳥肌が収まらないのだが、そんな気持ちをさらにヒートアップさせたのが「マジンガーZ」(アニメ『マジンガーZ』OPテーマ)の熱唱! これほど一気にテンションが上がる幕開けがあるだろうか。“これぞアニソン!”と言える同曲の“21st century ver.”を色褪せない歌声で力強く歌い上げていく。そんな頼もしいアニキだが、MCではコロナ禍で“歌い続けられるのか?”という不安に駆られたこともあったと吐露する場面も...。そして、50周年を迎えた『仮面ライダー』のメドレーへとライヴは進んでいく。この選曲には今年4月に亡くなった作曲・菊池俊輔への想いも込められている。数多く歌っているライダーソングの中から披露されたのは《セタップ セタップ セタップ》のフレーズが耳から離れなくなる「セタップ!仮面ライダーX」(特撮『仮面ライダーX』OPテーマ)、歌声の力がヒシヒシと身体に伝わってくる「仮面ライダーストロンガーのうた」(特撮『仮面ライダー ストロンガー』OPテーマ)、最後は《燃えろ(ジャンプ!)》で会場全員がジャンプした「燃えろ!仮面ライダー」(特撮『仮面ライダー(スカイライダー) 』前期OPテーマ)で締める。続くMCでは、春に公表した声帯不全麻痺に触れ、リハビリを重ねてここまで回復したと近況を報告。会場中から大きな拍手がエールのように贈られた。そして、“コロナ禍で大変な中、戦っている全ての人に届けたい”と披露されたのは壮大なサウンドと水木のビブラートが心地良く響くミディアムバラード「はるかなる愛にかけて」(特撮『仮面ライダー(スカイライダー) 』前期EDテーマ)。戦う意思や想いが詰まったこの曲が、どんな逆境も乗り越えてきた水木のテーマソングのひとつになるのかもしれない...そんなことを考えると自然と涙が浮かんでいた。しかし、最後のMCではがっつきたいかが加わり、まさかの漫談を披露!(笑) そんな楽しい時間も終わりが近づく。ラストは今年5月に亡くなった作曲家・小林亜星に捧げるメドレーで2曲を歌唱。ラインナップされたのはアニメ『プロゴルファー猿』OPテーマ「夢を勝ちとろう」、アニメ『超電磁ロボ コン・バトラーV』主題歌「コン・バトラーVのテーマ」だった。最後はVを表したピースサインで、笑顔を見せながら力強くライヴを締め括った。
■ ENCORE ■
アンコールでは本日の出演者全員がステージに登場し、なんと水木はトレードマークのピーンっと立てた赤いマフラーを着用して再登場。それぞれがライヴの感想を述べたあとに披露されたのは全員による「マジンガーZ」。レジェンドアニソンシンガーたちがズラッとラインナップする光景だけでもお腹いっぱいなのに、全員の声が重なるサビはもう言葉すら出てこない。改めてアニソン・特撮ソングの力を感じずにはいられなかった。
アンコール終了後にもクスッと笑ってしまうシーンがあった。出演者がひとりひとり名前を言われてからステージをあとにしたのだが、水木が去り際に“みんな!”と放った声に、他の出演者が慌てた様子でステージに走って戻り、全員が滑り込むように(きただには実際スライディングで加わる(笑))集まると同時に水木の“愛してる、ゼーット!”に合わせて、全員が決めポーズを決めてフェスの幕を閉じたのだった。そんな最後のシーンを観て、アニソン・特撮ソングの歴史はここに並ぶレジェンドたちによって引き継がれているのだと強く感じた。そして、昭和・平成・令和と時代によって、サウンドのジャンルや楽曲の質は変わってきているが、どの世代も色褪せない名曲があり、そしてどんな人にも勇気や希望を与えてくれるアニソン・特撮ソング。このコロナ禍だからこそより一層、いつまでも“元気をもらえる音楽ジャンル”なのだと改めて知ることができた2時間30分だった。
撮影:青木早霞/取材:岩田知大