“今日を ありがとう”。入場時に配られたパンフに記された直筆コメント。念願だったという公演は、2夜限りのプレミアム。クラシックホールで30人から成るビッグバンドオーケストラを従えたスタンスは、イメージからすれば異次元空間に思える。“お上手に歌うのではなく、心を込めて一曲ずつ大切に、今という時間を過ごしたいと思います。一生懸命歌います”。言葉通りに2曲を歌い終えたMCだが、客席に緊張の色はない。なぜか?... 幕開けは、静かに立ち上がるクラシカルなイントロに歓声より感嘆が漏れ渡った。だが、相反するようにソデから現れたのは華やかな黄色のつぼみ。着ぐるみ??的な驚きの連鎖が客席を波打つと同時に、空気が和んでいく。これが何をしても絵にできる、天賦の才。環境は関係ない。中盤MCで、公演が決まった喜びで気合いを入れて作ったと衣装説明。“エチケットブラシのようと言われた...(笑)。ホコリは取れませんが、皆さんの心のほころびを取ります”とさりげなく笑いを誘う。ジャジー、スウィング、最良のアレンジが施された楽曲たちを巧みに操る中、圧巻は「ティンカーベル」。“みんなの声をステージに投げてほしいの”と煽り、一体化するさまはゴスペルのクワイヤーさながらで、客席とビッグバンド、双方の想いをYUKIが紡ぐ瞬間だった。そして、随所で目を惹いたのは、バレエダンサーのような振舞いだ。ターン、ステップをしなやかに彩り魅せ、まるでミュージカルでも見ているような錯覚に陥らせた。そして、アンコール「恋愛模様」の冒頭で聴かせたスキャットは、“すっごい練習したの”と言うだけあって、この日に馳せた秀逸の極みだった。テーマである“今”を大切に楽しむ“全肯定”の意味を、五感フルパワーで堪能させてくれ、プレゼントしてくれた一夜。今日を、ありがとう。