1stアルバム『上々』を携えて東名阪で行なってきた『ポップしなないで 神頼みツアー』。3月20日に開催されたファイナル公演は、かわむら(Dr)の“2021年は、やります!”という宣言も含めて、彼らの決意表明と言えるライヴだった。神田明神ホールを会場に選び、タイトルに“神頼み”と掲げているが、ポップしなないでは何かに縋りたいのでなく、“自分たちに縋ってもらっても構わないぞ!”くらいの覚悟で音楽を届け続けることを決心し、この場で誓っているように映った。
開演前にはVJでお焚き上げの様子が映し出され、それを観客が黙々と見つめる少し異様な光景から始まった。かめがいあやこ(Key&Vo)のピアノインストが会場に力強く響くと、雷の如くストロボが焚かれ、“We are ポップしなないで”の合図で「ヤンキーラブ」へ。この日はMCでも多くは語らず、コロナ禍の話をすることはなかったが、ライヴ中にふたりから一番に感じたのは、何かに立ち向かおうとする気迫。各曲の中にいる臆病でわがままな主人公のヒリついた想いが痛いくらいに伝わり、中でも「SG」は息を飲む迫力だった。何かを失った虚しさを埋めるように《まだ君はあのダサいバンドを続けてるのかな? 下手くそなメロディーが頭から離れないや》と熱唱するかめがいの歌声がどこまでも切なく、ポップしなないでがピアノとドラムの編成で見せていきたい等身大のステージを目の当たりにした。
アルバム『上々』の制作時から“ライヴでどんなことができるか?”を意識していたそうだが、本公演はふたり編成での魅力をとくと堪能しつつ、ミツビシテツロウをマニピュレーターに迎え、サポートで山内かなえ(Gu)、カワノアキ(Ba)が登場した、かわむら曰く“神バンド”編成でのパフォーマンスも楽曲に広がりを見せていた。バンド編成でよりリズミカルになった「前頭葉」は溌剌とした印象で、続く「UFO surf」ではムードを変えて瑞々しいサウンドの心地良さに浸る。気持ちひとつで世界が変わっていく様子を歌った「Life is walking」と、まだ迷いながら彷徨っている「魔法使いのマキちゃん」の相対する2曲に続けて、かめがいが“お前らを救いに来たぜ!”と「救われ升」を投下。もやもやとした感情を少しやけになりながら歌い上げるさまを観ていると、ポップしなないでは孤独を打ち鳴らすバンドなのだと確信する。
VJを使い、神バンドを率いて今までにないライヴを作り上げていたが、後半はどんどんポップしなないでの素顔に迫っていく感覚もあった。舌を捲し立てながら《隠し持ったナイフも/おもちゃみたいに思えた》(「言うとおり、神さま」)、《正気の沙汰ではないけれど わたしこれしかないから》(「Creation」)と歌う中には本音と叫びがあふれ出し、絶望感を音楽にすることで気持ちを救い出しているかのよう。言葉遊びを交えて呪文のような言い回しもするバンドが、この2曲では張り詰めた感情をダイレクトに見せていて、ポップしなないでの真の姿が垣間見えた。そのあとに披露した新曲「支離滅裂に愛し愛されようじゃないか」は、明るいサウンドに乗せて《僕らはやっぱり支離滅裂に愛し愛されようじゃないか》と何度も繰り返し、葛藤の末、ひとつの結論に辿り着いた一曲にも思える。
そして、“今年、ひとつでも生きる理由が見つかる夏になるように”と想いを込めて「夢見る熱帯夜」を届け、「2人のサマー」ではVJで夏の景色を切り取った写真が映し出された。MCで“人を好きになったり、嫌いになったりする感情は季節と紐づけられることが多い”と話したかわむらの言葉も相まって、この曲の《パパパ...》のメロディーを聴きながら、最後に観客それぞれにとっての夏を思い出す時間が流れたのも素晴らしかった。
かめがいが“私にとってのポップしなないでは、人生のど真ん中にあるもの”と言っていたが、この日のライヴではその想いを少し体感できた気がする。バンドのさまざまな側面を見せた上で、リスナーに対する“いつでも頼っておいで!”という励ましと、これからも音楽をやっていくと心に決めたふたりの姿を確認したステージだった。
撮影: Kazma Kobayashi
取材:千々和香苗
ポップしなないで
ポップしなないで:2015年結成。かめがいの踊るようなラップでの心地良い2次元的声質と、ソウルフルなヴォーカルスタイルも駆使する癖の強い魅力的な声、加えてかわむらのソングライティングが相まって、ドラム、キーボード、ヴォーカルのミニマムな構成ながら完成された世界観の音楽性を持つ。