首振りDollsが8月30日、ニューアルバム『アリス』のレコ発ツアーファイナルとして、ある種念願でもあった新宿ロフトでのワンマンライヴを成功させた。この日プレイされた曲はアンコールも含め、新旧そして新曲も交えた全26曲。それをまさにフル回転させる素敵なロックンロールパーティーとして昇華させたのであり、現メンバーでの確立と飛躍、そして今後へのさらなるポテンシャルと希望がうかがえた一夜でもあった。
“いつかこのロフトでワンマンを行なってやると誓って4年。この間、いろいろとあり、途中でやめたくなった時もあった。でも、やめなくて本当に良かった”——4年前の同地でのイベント出演時にて初めてこのステージに立った時の彼らに、この日のワンマンの大成功を伝えたら何と返すだろうか。もしかしたら“えっ!? そんなにかかったの?”と返されるかもしれない。しかし、彼らが今、目指している日本武道館のステージに立った時に、この日のことを想い返す際には、きっと“あの新宿ロフトのワンマンの成功までの4年の懸命さがあったから今の自分たちがいる”と思うではないだろうか。そんな尊く大切なエポックな日に立ち会えた気がしてならない。
登場SEが場内に流れ、ステージ前のスクリーンがゆっくりと上がる。ステージ背後には彼らのロゴのバックドロップ。見えるのは真ん中にドラムが配された独特のステージセットだ。まずはステージが緑のライトで浮かび上がる。そこにフラッシュが加わり、さらにストロボへとシフトしていく。フロアーからは数々の嬌声とクラップ。そんな中、メンバーがひとりひとり、ゆっくりとステージに現れる。そのSEに生演奏の「PSYCHO CLUB」が重なり、そのまま同曲に。てっきり掴み的にスピーディーでノリの良い曲でくると予想していただけに、ファンク調の曲からのスタートにはいい意味で裏切られた。
“会いたかったぜ! 東京~!!”とはナオ(Vo&Dr)。ショーン・ホラーショー(Ba)のオクターバーを効かせたベースと楽曲のキャッチーさが絶妙なマッチ感を魅せ、まずは会場を横に揺らすと、続くヘヴィでストーナーな「ティーネイジ」がそこにうねりを加える。これに会場も力強く呼応。早くもエネルギーの交歓が生まれるが、そのうねりを上手く引き連れて「唐紅」に入り、よりヘヴィさが場内に育まれていく。ここではジョニー・ダイアモンド (Gu&Vo)のギターソロも炸裂したのも特筆に値する。それらに対して、彼らの従来性とも呼べるロックンロールさが現れたのは「蜃気楼」から。ドライブ感たっぷりな同曲が場内にゴキゲンさを寄与。ショーン加入後、変わり、進化した自分たちをあえてアピールした感もある、この日のここまでの流れ。うーむ、確かにこれまでと違い、そのハネる部分の強化はもとより、グルーブ感はとてつもなくアップしている。
“お待たせしました。首振りDollsです。私、まるでこの日のために生まれてきたみたい。最高のロックンロールショーを一緒に作り出していきたい”とのナオの言葉を機にライヴはさらなる加速度を上げていく。「wanted Baby」で会場のボルテージをグッと上げれば、ロカビリーテイストの「INU」で会場を痙攣させ、「地獄に堕ちた野郎ども」では場内から無数の拳を上がり、同曲の間にはショーンによる超絶ベースソロも。引き継いでジョニーもギターソロをかまし場内を魅了。対して「ホール」に入ると、彼らの特性のひとつとも言えるウェットで影のある部分がようやくここで提示され、「鏡地獄」ではこれまた彼らの魅力のひとつのホラー性も現れた。
“私は生まれてきて今日が一番楽しい。このロフトでワンマンができて嬉しいし、それを実現させてくれたみんなにも感謝している。このロフトは私たちの武道館への登竜門だと思っている”とのナオのMCからのミディアムゾーンは聴く者たちの胸を締め付け、ロマンティシズムがあふれるものばかり。ナオの歌の艶やかさも印象深い「lazy」では間の三拍子にてミラーボールも地獄のサーカスのように怪しく幻想的な光を撒き散らし、やさしく柔らかく伝えられた「BROWN SUGAR」ではロマンチックでいてどこか哀しい、そんな不思議な安堵感に包まれていくのを覚えた。
一変しブードゥな「浮気夜」に入ると、激しい中、徐々に上がる上昇感を得、「産声」では場内に哀しさを広げつつも、そこから光に向けて浮上していく物語性と、その向こうに待っている光の存在をしっかりと感じた。いい曲路線は続く。情熱的ながら三拍子も交え、楽曲にアクセントを付けて進んだ「シャボン玉」、ライジング・サン的なナンバー「星屑のメロディ」がアンセムのように場内に響き渡っていった。
後半に向けては会場に襲い掛かってくるかのような曲たちが連射された。“派手なヤツいこうか”と入ったラテンポップも混じった「黒い太陽」にフロアーも応戦。タオル大旋回の光景を作り出し、彼らのリスタートのような曲「イージーライダー」が嵐のロックンロールを場内に吹き荒らさせれば、今度は拳で応酬。相乗効果で両者の高揚感が昇華していく名場面を生んだ。
“大事なのは今日ここで何を成すかだ。こんなに人がいれば伝説のライヴができる気がする。俺たちに伝説のライヴをやらせてくれ!”(ナオ)、その願いを成就させるべく、伝説を作らんと、ここからは怒涛のラストスパート! ド派手にやらせてくれと「ニセモノ」が会場を沸点へと近づければ、フロアーにズンズンと音塊が突込んできた「サンドノイズ」では一緒に地響きを起こすようにフロアーの床が揺らされ、作品での叙情性なんて知るか!とばかりに別曲のように響いた「カラリカラマワリ」を経て、この日一番の一体感を体感したのは「悪魔と踊れ」。地獄まで道連れだ!と投下された同曲に場内がグイグイと惹き込まれていく。
そして、それを上回るこの日最大のハイライトはやはり「ロックンロール」が飾った。サイレンが鳴り響く緊張感の中、神々しくバースト。お互いのテクニックを力の限りぶつけ合うお馴染みのシーンはこの日も健在で、最高潮を場内に生み出す。超絶ベースソロやスラップ交えた超絶さを我が物顔で披露してくれたショーン。対してギターを歯で弾き、今夜もフロアーで延々とギターソロを披露してくれたジョニー。まさにこのバンドは心技一体、そして各人が名うてのプレーヤーだからこそあり得る楽曲や世界観を改めてアピールしているようにも映った。そして、“俺たちがロックンロールの黄金時代を取り戻してやる!”と「とびきりの愛を込めて」&「タイムマシン」へ。特上のパーティー感にてこの日の本編を締め括った。同曲ではジョニーとのツインヴォーカルにてドラムマイクで一緒に歌う場面も。“武道館まで一緒に行こうぜ”の言葉を遺し彼らはステージを去った。
再度SEに乗り3人が登場したアンコール。彼らの昭和歌謡的テイストの片りんがうかがえた「切花」を経て、ここで未発表の新曲が。ショーンが作詞作曲を手掛けたという同曲は、鳴るサイレンとギターリフも特徴的。それでいてサビの開放感も印象的な曲であった。これは作品化も楽しみだ。そして、正真正銘の最後は“ロックンロールゴールドを近くに感じたい”と会場全体で一緒に歌った「ティーンネイジャーロックンロール」が飾り、同曲が神々しくも場内にアンセムを巻き起こす。“約束しよう武道館の舞台に立つまで私は死なない”(ナオ)との言葉を遺し、次に舞台に移すようにロフトのステージを去った彼ら。その無人のステージに武道館のステージがオーバーラップしたのは、私だけではないはずだ。
この日の成功をもって、より武道館をグイッと自身の手元に引き寄せた感のある首振りDolls。彼らこそ“武道館に向けて”ではなく、“武道館のほうから手繰り寄せられ、その夢が実現していく稀有なバンド”なのかもしれない...と、この日のステージを想い返し、本気で思った。
撮影:青木カズロー/取材:池田スカオ和宏
首振りDolls
クビフリドールズ:2012年1月結成。爆発的成長を続ける今最も危険な三人組。ドラム&ヴォーカルをフロントとした3Pバンドであり、ナオの昭和歌謡やガレージをルーツとした楽曲に、ジョニー・ダイアモンド(Gu&Vo)とショーン・ホラーショー(Ba)の初期パンクやハードロックのルーツを融合した独自のサウンドを武器としている。ホラーテイストなメイクとド派手でシアトリカルなパフォーマンスに乗せた捻じ曲がった感情を吐き出すような歌唱はひとつの舞台を見ているようだと好評を博している。