“せっかくデカい会場なのに、何の演出もなくてすいません。このあと火柱が......立ちません。紙テープが......飛びません。そういうのは実力がないやつがやることです。Zepp TokyoのMOROHAワンマン、完全ソールドアウト。もしもこの時点で感動してるなら、そのぬるい感情は今すぐ捨ててくれ。誰のライヴを観に来たんだよ。ボーッとしてると終わっちまうぞ。行くぞ!”
アフロ(MC)が序盤にそう話したとおり、この日も変わらぬ信念と気迫を持って、MOROHAは臆することなく存在していた。ロゴのみをあしらったシンプル極まりないバックドロップをステージ後方に掲げ、最小かつ最強の編成で。
今年メジャーデビューを果たしたMOROHAの、結成10周年を締め括る自身最大キャパのワンマン。ふたりはゆっくりとステージに姿を現し、アフロはいつものように体をほぐしながらスタンバイ、その左隣のUK(Gu)は台座にあぐらをかいてチューニングする。落ち着いた様子でアフロが左手を軽く上げてBGMを止め、薄明かりの中「二文銭」でライヴは始まった。「奮い立つCDショップにて」になると赤いライトが灯り、ふたりの精悍な表情が徐々に見えてくる。《戦場にて》を《Zepp Tokyoにて》と歌い替えたアフロの語勢は凄まじく、1stアルバム『MOROHA』からの泥臭く強気に天下を狙う2曲をまずストレートに放ってきたこの段階で、“あくまで自分たちらしく勝負したい”という想いを嗅ぎ取ったファンも多いはず。発声や奏法がリリース当時とは比べものにならないほど磨かれているのは言うまでもない。
さらに、UKが熱いフレーズで魅せる「一文銭」。《お前が人生に付けた名前は妥協や惰性じゃなかった筈だ》《本気になった自分が好きだ》《正論以外で納得できる瞬間をずっと追いかけてるんだ》のリリックが突き刺さって、たまらない感情が込み上げる。MOROHAのライヴは誰もが固唾を呑んで真剣に聴き入ってしまう。ノリを求めるのなんか忘れて。むしろ、自身のぬるい生き方に気付かされたりすることのほうが多い。「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」「三文銭」と続く中、ふたりのヒストリーも脳裏に浮かぶ。1stアルバムを出した頃、初のワンマン、『りんご音楽祭』、『フジロック』......どのステージよりも今のMOROHAが一番ヤバイ。“1アコースティックギター、1マイクロフォン”のみからなる彼らの音楽はZepp Tokyoでも強烈に響いていた。
“ここまで拍手の少ないライヴってのは、なかなかないんじゃないでしょうか? この曲は拍手も歓声もいらないから、胸の中だけでもいいから、聴いてくれた人が好きな人の名前をつぶやく、そんな曲になったらいいなと思いました。俺は愛を歌いたい”と前置きし、やさしく柔らかな照明の下で届けた「ハダ色の日々」。その後、件の巨大バックドロップを“一体どこに保管するよ?”と話したり、物販で使うカードダス機がなんとかメルカリで買えたこと、“いつか宙吊りで歌ってみたい”など、ふたりの和やかなMCがあったのもよかった。何気ない日常がずっと続きますようにと願う「スペシャル」へと、きれいに繋がっていたから。
そうかと思えば、ドラマ『宮本から君へ』のエンディングテーマに起用された次の「革命」で、パシッと頬を引っぱたかれるような迫真のメッセージに面食らう。MOROHAのライヴはいつだって気が抜けない。「四文銭」のパフォーマンスに対する喝采に、“それ、本当の拍手か? 本当の歓声か? ずーっと疑ってる”なんて突き放すアフロの言葉にも驚く。“金払って、期待して、愛してくれるお客がくれるものでさえ疑ってる。俺が俺のことを信じてないからだ”と始まった「tomorrow」、そして「バラ色の日々」「恩学」。季節の移り変わりをもイメージさせながら、物語が流れていく。
「恩学」を披露したあと、“ありがとうございました!”とアフロが言った。おそらくここまでが一区切りで、“闘いの代名詞”MOROHAの真骨頂はここから。UKのパーカッシブなリズムに合わせ、アフロがファイティングポーズを取り、怒りや悔しさをバネに生まれた楽曲「ストロンガー」へ。“せっかくのZepp Tokyoなんだし、バンドサウンドにしたほうが見栄えがいいんじゃないですか?...なんて言ってくるやつがいたよ。黙っとけ、バカが! 青春パンク、メロコア、ハードコア、パンクロック、ヒップホップ。全部掻き分けて、ここまで来たのがMOROHAだ。いいかげんこの国もバカばっかりじゃないから、そろそろ気付き始めてる。行こうよ、もういいだろ? 行こうぜ、胸を張ってさ!”と曲中に猛れば、オーディエンスのボルテージはさらに跳ね上がる。
最後は新曲の「五文銭」。UKが悩ましい音色を敷き、アフロが言葉を畳みかける。竹原ピストルのNHK『紅白歌合戦』初出場を目に焼き付けたこと、SUPER BEAVERにパンパンの日本武道館公演を見せつけられたことにも触れた、選ばれなかった自分たちを抉るような悔しさあふれる楽曲だった。その中には《歪まないギター 怯まないラッパー》《食っていくためにやる音楽はやめた 世界を変える音楽に決めた》と闘志を燃やすラインも。納得できる答えを求め、MOROHAは絶えずもがきまくっている。
“Zepp Tokyoが埋まったから、次は武道館だ! そのあとはアリーナだ!!”と息巻くアフロに対し、大きな歓声が沸く。一方で“は!?”と戸惑ってしまう自分。しかしながら、続いて放たれたのはこんな言葉だった。
“そんなことを一瞬でも考えちまった自分に吐き気がするよ。バカ野郎って思うよ! LIQUIDROOMも通過点だった。Zepp Tokyoも、武道館やアリーナだって通過点だ。何も持ってなかったハタチの頃の俺とUKが、音楽やろうぜって誓い合って目指した場所は、そんなちっぽけな場所じゃなかったはずだ。俺たちが目指すのはあなたの、お前の、君の、心だ! 触らせてくれ、ぶん殴ってくれ、抱きしめてくれ!!”
よかった。やっぱり、MOROHAはMOROHAのままだった。媚は売らない。半径0mの世界を変える。それがMOROHA。うっかり喜んでしまった人はグサリと胸を刺されたに違いない。このあたりも含めて、終始スリリングなライヴ。「五文銭」のラスト、アフロは“いつか俺は、俺のことを幸せにしたい!”と言い切った。自分以外の人の幸せを願っていた「恩学」とは異なる、何か新しい視点や感情の芽生えが彼の中であったのかもしれない。
アンコールを起こさせないかの如く、Q-ILLの「Smoking Gun」が爆音で流れた。帰らないオーディエンスの反応を見てか、しばらく経ってステージに戻ってきたアフロ。“ありがとうございます。出し切りました、アンコールはありません! それを誇らしく思います。みなさんが集中して観てくれたおかげなので、アンコールがなかったことをどうか胸張って帰ってください”と話し、フロアの出口を指差して“あれは入口なんだよ”と添えた。ここで受け取ったものを日常のアクションに活かしてほしい。そんなMOROHAの願いが伝わる瞬間だった。
再録ベストアルバム『MOROHA BEST~十年再録~』の全曲を入れ、《俺たちは、もっと 強くなりたい》と誓う「ストロンガー」、行く先を照らす「五文銭」を加えた、振り返ってみれば実に美しいセットリスト。来年5月リリースのニューアルバム『MOROHA IV』、7月の日比谷公園野外大音楽堂『単独』公演と、MOROHAのドラマは続く。
撮影:MAYUMI-kiss it bitter-/取材:田山雄士
MOROHA
モロハ:2008年結成。今年10周年を迎えるアコースティックギターのUKとMCのアフロからなるふたり組。互いの持ち味を最大限に活かすため、楽曲、ライヴともにギター×MCという最小最強編成で臨む。その音は矢の如く鋭く、鈍器のように重く、暮れる夕陽のようにやわらかい。道徳や正しさとは程遠い、人間の弱さ醜さを含めた真実に迫る音楽は、あなたにとって、君にとって、お前にとって、最高か、最悪か。