以前に小袋成彬を取材した際、ライヴにおける彼の意識へと話が及んだ。その時に彼は“僕の中で2タイプの自身が居て、それが歌ってる間中にディベートしているんです。互いに間合いを取り合い、隙を探り合い一瞬で勝負を決めようとしている。僕はそれを“フェンシング”と呼んでます”と語った。フェンシングか...なるほど。一瞬でつく勝敗、歓喜か静寂かの両極、間合いや隙、そして試合中漂う独特の緊張感。それらはまさしくフェンシングなのだろう...やったことがないので、あくまでイメージだが (笑)。
彼のライヴをこの春~秋にかけ4回観た。驚くことにそれは4度とも違った感受を私に与えた。この日は久々のワンマン。会場は渋谷WWW Xだ。同日の私のライヴ後の感受は“浄化”。前回のワンマン同様、1時間半ノンストップで一切のMCやアンコールを排除したこの日は、さまざまな歓喜や寂寥を乗り越え、最後には私を浄化へと誘った。以下はその記録だ。
ひとりでステージに現れ、下方から当てられるライト中、センターの椅子に座り「再会」を歌い始めた小袋。上手と下手に配された白色ライトが交互に彼を照らす。淡々としたビートにグリッチ音、そんな中、彼の歌が段々と高揚し生命力を帯びていく。続く「Game」からは立ってハンドマイクにて歌い始めた。ファルセットを多用した歌声も印象的だった同曲では、あらかじめプリセットされた歌声と自身の声を重ねていく。また、硬質なスネア音と韻を多用に踏んだフロウが印象的な「茗荷谷にて」を経た「Lonely One feat.宇多田ヒカル」では、こちらもプリセットされた宇多田の声とのデュエットも楽しめた。
ギターと鍵盤の演奏陣が加わったのは「Summer Reminds Me」以降であった。ギターカッティングとオルガン音をバックに歌われた「Summer Reminds Me」、また「Good Boy」ではディストーションギターが、そして後半より小袋の声がふくよかで伸びやかになっていった「E.Primavesi」が作品よりポップで明るく響けば、「Daydreaming in Guam」では小袋もギターを手にノイジーさを重ねていく。
この日は5曲の未発表曲も披露された。インダストリアルなビートに騒めきの声ネタも印象的な楽曲や、ポツンと物悲しい気持ちにされてくれる曲、チェロを始めとした弦楽器も混じったトラックと共に伸びやかな声を響かせた曲や、《突き放してくれよ》のフレーズのリフレインと脳髄に響く低音も特徴的な楽曲等、それらは作品化の期待を募らせた。
中盤ではAlicia Keysの「If I Ain't Got You」のソウルフルでウォームなカバーも聴けた。小袋が座りギターを爪弾きながら歌われた同曲は、感情のこもったその伸びやかな歌声を場内いっぱいに広げていった。そんな中、この日最も私が惹かれたのは「愛の漸進」であった。オリジナルよりも高めのキーで歌われた同曲が神聖で神々しく響き、全てを白色化するかのような浄化へと導いた。最後は再びひとりでセンターの椅子に座り、上からのピンスポを受け、新曲を披露。緊張感からスタートしたこの物語の最終地点にはとてつもない至福感が待っていた。
構築性の高いバックトラックとその上をたゆたうフレキシブルな生演奏、そしてその時々の感情の起伏や機微を交えた歌表現や歌描写を用い、会場の雰囲気や空気を一曲一曲、一瞬一瞬で変えいった彼の歌声。歌であり、楽器であり、ストーリーテラーでもある、その歌声に今回も魅了されっぱなしであった。
この日に受けた“浄化”は次回触れた際にはどのような感受に変るのだろう? 気が早いが私は今から既にそれが楽しみでならない。
取材:池田スカオ和宏
【オンエア情報】
『LIVE SPECIAL 小袋成彬 10.10.2018@WWW X』
※日本最大の音楽専門チャンネル スペースシャワ―TVにて独占放送
初回放送:11月08日(木)22:30~23:00
リピート放送:11月27日(火)26:00~
視聴方法:http://sstv.jp/howto