海の世界をテーマに、ライヴハウスを潜水艇に見立て、シナリオアートならではの物語性と演出で展開してきたツアーもいよいよ大詰め! ファイナルのEX THEATER ROPPONGIは地下深くにライヴスペースがある上、素晴らしい音響を誇る、今回のコンセプトに打って付けのハコだ。入場時には乗船パスが配られ、開演前には潜水に向けたアナウンスがあったり、水音などがさりげなく響いていたりと、観客をワクワクさせる心遣いも嬉しい。
そして、潜水艇“EX THEATER ROPPONGI号”のゴボゴボ潜る音とともに、失った心を取り戻す“深海”への旅が始まった。赤、青、緑の照明の下で悪しき現状をぶっ壊しにかかる「シニカルデトックス」、混沌を映し出した強靭なビートに乗せて《ごめんね ダメだ“しあわせ”がわからない》と叫ぶハットリクミコ(Dr&Vo)作詞の「レムファクション」と、まずは3rdミニアルバム『dumping swimmer』の鋭いナンバーを続けて披露。やさしくあれた時を追い求めて吐き出される黒の感情を、オーディエンスは受け止め、自身に重ね合わせていく。一方、ハヤシコウスケ(Gu&Vo&Programming)とクミコのヴォーカルにフェイクが入り、ヤマシタタカヒサ(Ba)の低音渦巻く間奏も最初のハイライトとなった「プライドモンスター」では、ツアーを回ってきたバンドの確かな成長が見て取れた。
「ナイトフライング」からは、シナリオアートのファンタジックな世界観でカラフルに、ポップに魅了する。深海には美しい景色や明るい場所、宇宙だってあるんだよ。そう物語るような3人の演奏、お馴染みのナンバーの数々に、グングン盛り上がるフロアー。この第2ブロックでは、今までのファンがしっかり付いて来てくれていることも再確認できた。
...と、順調に進んでいた航海だったが、「シュッシュポップ」の途中、潜水艇は突如何かに衝突するアクシデントに見舞われてしまう。さっきまでの楽しさがフッと消えて、場内は暗転。ふいに訪れる容赦なき現実、もの悲しい光彩に包まれながら、乗員・乗客たちは自身の心と静かに向き合うことになる。《消えたい》と歌う「フユウ」で少しだけ視界を取り戻すも、まだ不安は拭えない。それでも、「ナイトスイマー」「カオティックダウナー」で愛を探して彷徨う。やがて、黒い感情を吸い込んだモンスターに別れを告げるコウスケ。深海から地上へ。冒険はラストスパートに入る。
メランコリーすら輝きに変え、潜水艇を引き上げるシナリオアート。光が集束するようなクライマックスの代表曲コンボは鮮やかだった。「アオイコドク」の《僕が世界を救うんだ》も、「ホワイトレインコートマン」の《きみを守りたいよ》も、これまで以上の説得力で響いてくる。“みんなのおかげで心を取り戻せたよ。一緒に旅をしてくれて本当にありがとう”と語るコウスケ。感謝にあふれた言葉は、この旅がメンバー3人の物語だったこと、ファンの支えで今の自分たちがあることをシンプルに伝えていた。旅を締め括るのは、もちろん最新シングル曲「エポックパレード」。“新海”へ辿り着き、目の前の愛に気付けた。そんな彼らの晴れた表情を見ると、胸がいっぱいで仕方ない。
MCを排した本編を終えて、アンコールはリラックスした様子で話す3人。「ジンギスカンフー」では真っ赤なチャイニーズ服の陳さんが謎のゲストとして登場し、ヤマシタの代わりに演奏、振付指導までやってのける! 福岡ソフトバンクホークスの『鷹の祭典2016 光のセレモニー』のテーマソングに起用されたアッパーな新曲「エンドレスプレイヤー」も飛び出し、最後は万感の想いを託して「ワンダーボックスII」。“今は弱っちいヒーローだけど、絶対に強くなってみんなを助けられるようにしたい”と誓い、新たなスタートを切ったシナリオアートは、9月にバンドのオフィシャルモバイルサイトを開設、11月にはその会員限定ライヴを渋谷WWWで行なう。