“列車は17時の発車を予定しております。お乗り遅れのないようご注意ください。到着駅は決まっておりません。目的地はあなたの想いのままに...”
列車の乗車券を模したチケットに加え、開演が間もないことを告げるアナウンスにも、観客を現実の世界から「夜しかない街」に誘う仕掛けがされていた。
Poet-type.M(以下PtM)こと門田匡陽(Vo, Gu)が足掛け1年かけて、「夜しかない街」の物語を語ってきた『A Place, Dark & Dark』四季4部作。その集大成とも言える今回の独演会『God Bless, Dark & Dark』は、「夜しかない街」を離れる列車(From here to Eternity号)の旅というコンセプトの下、観客は座席に座ったまま(だって列車の旅なんだから)、列車の窓に映る景色(さまざまな物語)と位置づけたステージを楽しむという趣向で行われた。
ライヴは『A Place, Dark & Dark』が生まれるきっかけになったという「冬盤」のオープニングを飾る、メロウな「もう、夢の無い夢の終わり(From Here to Eternity)」でスタート。吐息交じりの歌いだしから徐々に熱を込めながら、門田が朗々と歌声を響かせ、固唾を呑んでステージ......いや、車窓の景色を見守る観客の気持ちを鷲掴みにする。その曲の中盤、門田ら4人のメンバーを背後から照らす眩いライトが一瞬、4人の姿を消すという演出にはハッとさせられた。
その後、バンドは「春盤」「夏盤」「秋盤」「冬盤」の通称でお馴染みの4枚のミニアルバムからの曲を次々に披露。時折、曲間にナレーションが流れるが、それ以外、MCは一切入らない。観客もちゃんとそこはわかっていて、曲が終わっても誰一人、拍手もしないし、歓声も上げない。もちろん立ち上がることもない。座ったままじっとステージを見つめている。
だって、これは列車の旅なんだから......とは言え、2階席から眺めるその光景は、不思議とか奇妙とかいう表現がふさわしいものだった。PtMのファンなら、それが観客を現実からファンタジーの世界に連れ出す演出であると同時に、現在のミュージック・シーンで誰もが当たり前のものと錯覚している一体感と、言い換えられた馴れ合いに対する門田によるアンチテーゼであることは理解していたにちがいない。それをライヴで実践する試みはこの独演会のテーマの一つだったはずだが、素晴らしい曲の数々を、優秀なミュージシャンが熱演して、そこに的確な演出が加われば、踊ったり飛び跳ねたり、馬鹿みたいに手を振ったり声を上げたり、輪になったりしなくても、ライヴは十二分に楽しめるという真理を、今一度、証明してみせたことには大きな意味があったと思うし、それもまた『A Place, Dark & Dark』の成果の一つだった......と終演後のスタッフから、観客が終始、バンドと一緒に歌を口ずさんでいたと聞き、筆者は確信することができた。
「だが、ワインは赫(Deep Red Wine)」「性器を無くしたアンドロイド(Dystopia)」「永遠の終わりまで、「YES」を(A Place, Dark & Dark)」ではアルバム同様に弦楽四重奏との共演が実現した。また、第1部でメンバー4人が黒いスーツの下に着ていた黒いシャツが第2部では白いシャツに変わり、さらにスーツがアンコールでは「氷の皿(Ave Maria)」のミュージック・ビデオで着ていたマント風のコートに変わるという衣装チェンジからも、ライヴのコンセプトを徹底させるバンドと制作サイドのこだわりが窺え、それもまたこの独演会を見応えあるものにしていた。
四季4部作のレコーディングでも門田をサポートしてきた楢原英介(Gt)、宇野剛史(B)、水野雅昭(Dr)によるポスト・パンク/ニュー・ウェーブ色濃い演奏が素晴らしかったことは言うまでもない。
最後、1年かけて4部作を作るというわがままを許してくれたファンとスタッフに感謝の気持ちを述べると、門田は“『A Place, Dark & Dark』は終わるけど、インターミッション(途中休憩)だと思ってください”と言った。1年で計24曲、フルアルバム2枚分の曲を発表した今回の経験は、ソングライターとして大きな糧にもなったはずだ。この日、『A Place, Dark & Dark』の物語を締めくくった「永遠の終わりまで、「YES」を(A Place, Dark & Dark)」で、ありったけの愛を込めて、「YES」というメッセージを訴えかけた門田がインターミッションを経て、今度はどんな曲を届けてくれるのか、『A Place, Dark & Dark』に大好きな曲がいっぱいあることを、この日、再確認した筆者は今から楽しみでしかたない。