スタートから圧倒的だった。登場とともに高橋ケイタ(Gu)がピンクのアンガスホーンを客席にバラまくと、「幻想のマボロシ」でライヴは勢いよく幕を開け、イントロで早くもオーディエンスの歓喜の声が上がる。「悲しい歌が鳴り響く前に」が始まる頃にはフロアのモッシュ&ダイヴが過熱! ケイタは荒っぽく飛び込んできたダイバーとも肩を組んで笑い合い、猪股ヨウスケ(Gu&Vo)はマイクスタンドをなぎ倒されても何のその、歌うごとに調子をグイグイと上げていく。「バビロンタウン」の間奏では小石トモアキ(Dr)と星野サトシ(Ba&Vo)のリズム隊を筆頭に、カオティックなグルーブで魅せ、「パンクロック音頭」でその熱量をまた引き上げては、形振り構わぬロックンロールで駆け抜けるのだった。
“今日は長いんですよね。こんなに長い時間やるの初めてだから、なんか緊張するよね? 星野さん、ちょっと飛ばしすぎちゃったんじゃないですか?”と話す猪股の表情は嬉しさで満ちている。神奈川県横須賀市発のロックバンド、Dr.DOWNER初のワンマンとなったこの日のライヴは念願叶ってのソールドアウトを記録するも、メンバーに余計な気負いはなかった。それは以前、初台WALLで行なった企画名が原点を見つめるようにタイトルになっていることからも伝わる。中盤では、3月発表のcosmicnoteレーベル10周年記念コンピにも収録される懐かしい「ANARCHY IN THE 逗子」をニューアレンジで聴かせ、“足りないもの 数えてばっか”と猪股が怒号のように叫ぶサビが胸を打つ「MAYONAKA」、冴えわたる小石のドラミングが軽やかな疾走感を生んでいた「ウェザーニュース」という2曲の新曲でも会場を大いに沸かせてみせた。そして、「六浦コーリング」が始まって反射的に起こった美しいコールアンドレスポンス。それは古くからのファンが彼らの晴れ舞台を祝うために集まったゆえに生まれたもの、と言っていいだろう。
ライヴは後半へ。猪股の“オンドラムス、トモアキ小石”というNUMBER GIRLイズムな紹介からなだれ込む「さよならティーンエイジ」で青い衝動を爆発させると、その後も「レインボー」「ライジング」などの人気ナンバーで畳みかけ、ギターソロのコーナーではピンスポに照らされたケイタがフロアーを練り歩き、エディ・ヴァン・ ヘイレンばりの豪快さで弾き倒してみせる。旧友であるASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文とともに作り上げた2枚のフルアルバム『ライジング』『幻想のマボロシ』のリリース、それに伴うツアー、大型フェスの出演などはやはり彼らを著しく成長させたようで、声を荒げてシャウトする猪股、鬼神のごとき風貌でハードロッキンにバーストするケイタ、パンチのあるビートを刻む星野と小石が繰り出すバンドアンサンブルは泥臭くもタフな輝きを放っていて、過ぎていく日々のような刹那的な魅力もあった。
“2013年は嫌なことがたくさんあったんだけど、今年は自分でいい年にしようかなと思ってます。今年始まったばかりですが、みなさんでいい年にしていきましょう! 世界はよくなるぜ!!”。そんな猪股の強気でポジティブな言葉もMCで聞くことができた。本編クライマックスで演奏されたとっておきのキラーチューン「暴走列車」、アンコールの「ユーウツ祭りスタイル」では怒涛のクラップ&シンガロングで狂喜乱舞の盛り上がりに。ラストはこの日2回目の「ドクターダウナーのテーマ」で締めた。初のワンマンながら感傷的になることもなく、ハードコアパンクシーンの潔さをもって等身大のライヴを見せてくれた彼ら。それはきっと、今の自分たちに自信があるからだ。アンコールでの4人の笑顔は特に印象深く、猪股の目は確かな手ごたえを感じ取ったのかキラキラしていた。結成10周年のDr.DOWNER。“今年はチッタでワンマンやりたい”という願いもぜひ実現させてほしい。