“本当に嬉しかったです”。ライヴ終盤、星野源はそんなふうに万感の思いを伝えた。集まった1万1000人もまったく同じ気持ちだったはず。昨年7月から病気療養のため延期となっていた初の武道館公演。人前で歌うのは1年2カ月振りだという。待っていたファンの思いに100パーセントの音楽愛で応える、完全復活のステージだった。
定刻を少しすぎると、星野はミニスカ姿のナースふたりに抱えられて登場。“おかえり!”という歓声が飛ぶ。MCの第一声が“ただいま○こー!”だったり(病院のベッドでずっとこれを言おうと考えていたらしい)、曲中の転換で数々の“一流ミュージシャン”になりきったレイザーラモンRGや椿鬼奴など芸人たちのビデオレターが届いたり、ところどころ笑えるネタを放り込んでくる星野らしいユーモア満載の展開だ。それでも曲が始まると雰囲気は一転、時に躍動感たっぷりで、時に胸が一杯になるほど切ない、彼独特の豊かな音楽の世界に包まれる。演奏陣は、バンドに加えてペダルスチールやマリンバ、ストリングス、ホーンセクションも登場する豪華な編成。
中盤では「電波塔」やナンバーガールのカバー「透明少女」を弾き語りで披露、ギター1本で会場の空気を掌握する。終盤は「フィルム」「知らない」「夢の外へ」と、人懐っこいメロディーに幸福感あふれる楽曲を連発。アンコールでは布施明に扮した“ニセアキラ”としてカバー曲「君は薔薇より美しい」を歌い、最後は「地獄でなぜ悪い」で華やかに終幕。サービス精神満点の約2時間半、音楽の喜びを詰め込んだようなステージだった。