春隣

帰らぬ人の名指で書く
外は吹雪のガラス窓
冷たすぎます こたえます
これが十八番(おはこ)といっていた
森繁節の『枯れすすき』
挽歌(ばんか)がわりに歌おうか
………おれは河原の枯れすすき
同じお前も枯れすすき
どうせ二人はこの世では
花の咲かない枯れすすき

祝福されない恋ゆえに
じっと宿命(さだめ)に耐えながら
心燃やした二人です
親や世間に背を向けた
報(むく)いでしょうか 倖せは
たったひと冬あっただけ

大事な命を宿(やど)す身で
後を追ってはいけないと
きっとあなたに叱られる
全て失(な)くしたわけじゃない
まだまだ春は遠いけど
今が我慢ね 春隣
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