新内「明烏」より 浦里

不幸の匂いが わかるのか
逢うた初手から 相惚(あいぼ)れて
花の吉原 賑わう闇に
愛し恋しの 起請文(きしょうもん)
何百交わせど 苦界(くがい)では
夫婦になれない 篭の鳥

「お許し下さい…
お店にかかりのある時次郎さんゆえ、
浦里が手引きをして
二階へ上げたのでございます。
ああ酷(むご)い、寄ってたかって時次郎さんを
打つの蹴るのと仕放題。
その責め苦、どうか私に下さい…
この浦里が悪いのです。
心底惚れた時次郎さんの身替りなら、
どのような目に
遭おうとも、私は厭(いと)いません……」

ご法度破りの 折檻(せっかん)に
哀れ浦里 身をさらす
物見高いは 色里ごのみ
雪も連れだち 覗きみる
どのよな憂き目に 会おうとも
主さんあるなら 耐えられる

「時次郎さん、
どうして戻ってきたのですか…
ここで死ぬのは容易(たやす)いけれど、
廓で死ぬのは恥の恥。
早くこの縄、早くこの縄を断ち切って、
箱梯子のぼり塀を乗り越えましょう。
大門(おおもん)抜ければ自由の身…
浦里嬉しゅうございます……」

この世の旅路の 行く先は
右も左も 行きどまり
いっそ二人で 手を取り合うて
渡る三途の 夫婦船
闇夜の名残りを 告げるよに
啼いてせつない 明烏
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