ただ風のために

わたしが動くのは ただ風を起こすために
彼から誰かへと そしてまた べつの人へ
風がとまるたびに わたしは すりぬける

夕暮れがおりてきた 湖の小舟の中
あなたが つぶやいた はじめての謎のような
遠い国の言葉 答はさがさない

言葉や約束には 何の力もない
本当にやさしいものは ただ ひたいの汗と 吐息

あなたの背中で 地球が ざわめいてる
わたしは 山になる 森になる さかなになる
さがしていたものが 今 この手の中に

愛という名前の 小さな部屋を捨てて
今はただ 風のためにだけ
ただ 風のためにだけ

はずした時計を 湖に投げ落として
少しずつ影になる その顔を みつめてる
このまま 消えていい 大きな風の中
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