母恋しぐれ笠

片手拝みで 故郷をすてた
野暮を承知の 旅がらす
あの日ながめた まんまる月が
今宵(こよい)無宿者(むしゅく)の 背を照らしゃ
おっ母(かあ)恋しや 風がおっ母(かあ)の声になる

枯れたすすきの 葉擦(はず)れの音が
荒(すさ)む心に なぜ優(やさ)し
意地で流れた 二年と三月
飾る錦も ないままに
おっ母(かあ)達者か せめて逢いたや 草枕

あすは東か それとも西か
ちびた草履(ぞうり)の 向くままに
義理に引かれて 情けに揺れて
故郷(くに)は遠くに なるばかり
おっ母(かあ)ごめんよ 泣くな未練のしぐれ笠
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