古都の春

鎌倉の坂道を父と行く昼下り
嫁ぐ日を前にして 訪れた春の寺
お前なら 幸せになると つぶやく父の
後姿が今日は小さく とても小さく見えます
おとうさん もう一度 背中で甘えていいですか
できるなら もう一度 背中で眠っていいですか
帰りたい昔が あなたにあるように
帰りたい昔が 私にもあるのです

嫁ぐ日が近づけば 不機嫌な顔になり
やめていた煙草まで ここへきて吸いだした
いい彼(ひと)にめぐりあえたねと ほめてくれても
揺れる心の裏に気づけば 何も言えない春です
おとうさん もう一度 私を叱ってくれますか
振りむいちゃいけないと 厳しく教えてくれますか
大人への旅とは 哀しいものですね
父と子はいつでも 父と子のはずなのに

桜にはまだ早く 梅の香の円覚寺
嫁ぐ人 送る人 ひっそりと花の中
こんな日は二度と来ないねと つぶやく父の
そのひとことが胸をしめつけ そっとうなずくだけです
おとうさん もう一度 背中で甘えていいですか
できるなら もう一度 背中で眠っていいですか
帰りたい昔が あなたにあるように
帰りたい昔が 私にもあるのです
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