法師の宿

雨が止みました いい月ですよ
みて下さいと 窓をあける女(ひと)
湯上がりなのか 黒髪の
甘い香りに ふりむけば
一輪のカトレアが
夜風に白く 咲いていたよ

淋しさを友に 暮らしていると
人恋しくて たまらないんだろう
生々(ういうい)し気に お酌する
細い手首に 傷の跡
“みつめてはいやです”と
小袖で隠す 山家の女(ひと)

虫の音(ね)をききに ぜひもう一度
約束してと 別れ惜しむ女(ひと)
一度だなんて 水臭い
三度四度(みたびよたび)を 待ちますと
言わせたい 泣かせたい
湯情が宿る 法師の宿
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