すみだ川

銀杏(いちょう)がえしに 黒襦子(くろじゅす)かけて
泣いて別れた すみだ川
思い出します 観音さまの
秋の日暮の 鐘の声

(セリフ)
「あゝそうでしたわね。あなた
が二十歳(はたち)、わたしが十七。いつも清元の
お稽古から帰って来ると、あなたは竹谷
の渡しで待っていてくだすった。 そして
二人の姿が水にうつるのを眺めながら、
ニッコリ笑っていつも淋しく別れたけど、
はかない恋っていじらしいもんだわねぇ」

娘心の 仲見世歩く
春を待つ夜の 歳(とし)の市
更けりゃ泣けます 今戸の空に
幼馴染(おさななじみ)の お月様

(セリフ)
「あれからわたしは芸者に出た
もんだから、あなたは逢ってくれないし、
いつも観音様へお詣りする度に、廻り
道してなつかしい隅田のほとりを歩きな
がらあの時分を思い出しては、一人で泣
いていたんですよ。でももう泣かないわ。
だって初恋のあなたに逢えたんですも
の。まあ一緒に行って下さる。竹谷の渡
しへ」

都鳥さえ 一羽じゃとばぬ
むかしこいしい 水の面(おも)
逢えば溶(と)けます 涙の胸に
海岸(かし)の柳も 春の雪
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