あ、ひとりじゃ無理だ。長屋、お願い、助けて、って。

―― 今作は月9ドラマ『真夏のシンデレラ』主題歌と挿入歌ですね。先ほどもお話されていたように、ドラマ自体が王道ラブストーリーですが、緑黄色社会の楽曲でここまで真っ直ぐなラブソングは初めてな気がします。

長屋 そうなんですよ。こんなに高揚感があるアップテンポなラブソングって今までなかったので、すごく新鮮でした。でもやっぱり“王道”というテーマだからこそ、何が正解かわからない難しさがありましたね。

―― 曲を作るにあたり、ドラマ側の方からはどのようなオーダーがありましたか?

長屋 かなりいろんなディスカッションを重ねながら時間をかけて作りました。「Aもしたいんだけど、Bもしたい」みたいな気持ちはあるけど、それを成立させようとすると辻褄が合わなくなるところって出てくるじゃないですか。そういう部分で、自分たちの書いてきたものと、プロデューサーさんの意見とのすり合わせがなかなか難しかったですね。

たとえば「サマータイムシンデレラ」に関しては、最初はもう少し「シンデレラ」要素があったし、わりと具体性を帯びた歌詞を書いていたんですね。ただ、ドラマの曲なので、具体性によって断定されちゃうシーンがあったり。「シンデレラ」要素も見方によっては幼く感じられてしまったり。だからもうちょっといろんなシーンに使えるように、という話をして、最終的に今の形に至りました。

小林 これはもう、曲タイトルが「サマータイムシンデレラ」じゃないと成り立っていない歌詞ですね。

―― あえてドラマと同じ『真夏のシンデレラ』ではなく、違うタイトルだけど同じ血が通っているような「サマータイムシンデレラ」という言葉を選ばれたんですね。

長屋 まずタイトルも関係なく歌詞を書いていって、先ほどの辻褄的なところも調整して、じゃあどんなタイトルだったらもっとも納得できるだろう?って。より長く聴かれる曲にしたい、よりこの子に合ったタイトルにしたい、といろいろ考えた結果「サマータイムシンデレラ」にたどり着きました。

―― 「サマータイムシンデレラ」は作詞が晴子さんと壱誓さんの共作。作曲は穴見真吾さんですね。どのような流れで制作されたのですか?

長屋 作曲が先ですね。主題歌のお話をいただいて、メンバー全員でいろんな曲を書いて提出した結果、真吾の楽曲に決まり、そこから壱誓が歌詞を書いていったんですよ。そして、プロデューサーさんとのディスカッションがあり、手直しをするタイミングで私が加わったという感じです。普段の私たちでは珍しい作り方でした。

photo_02です。

小林 僕が限界を迎えたんです(笑)。あ、ひとりじゃ無理だ。長屋、お願い、助けて、って感じでした。

―― いちばん最初に生まれたのはどのフレーズでしょうか。

長屋 どこだろう…。かなり変わったもんね。

小林 うん、ほとんど長屋の言葉になっている。でもそのなかで僕がずっと守ってきたのは<波飛沫はぜるような偶然は重なる>というフレーズですね。もともとは“夏飛沫”にしていたんですけど、少しずつ調整して。

―― 先ほどの歌詞タイプの違いにも通じますが、晴子さんが加わったことでより心情的な歌詞になっていったのでしょうか。

長屋 まさにそのとおりですね。プロデューサーさんから、「具体的なワードじゃなくて、もう少し内面的なものにしよう」という意見をいただいて。やっぱりドラマって毎話のエンディングで主題歌が流れるじゃないですか。しかも誰にスポットが当たるか、どの感情が切り取られるかもわからない。だから、どのシーンにもハマるように、かつ主人公を断定させすぎない要素を私が足していった感じですね。

―― 今作はすでに配信リリースされていますが、みなさんからはどんな声が印象的ですか?

photo_02です。

長屋 いちばん多いのは「テンションが上がる」という感想で、それがすごく嬉しいですね。

―― 「どこか平成感があって好き」という声もよく見かけました。

小林 これはもう完全に曲の力ですね。

長屋 ドラマサイドからも「懐かしい感じに」というお話をいただいていたので、それぞれ意識して懐かしさのある曲を作りました。平成感のある音って何なんだろうね。どこか落ち着くような…。

小林 きっと大きいアレンジもあるよね。何かひとつの楽器が飛び抜けているというより、イントロが全体感で聴こえてくるというか。

長屋 真吾はかなり計画的に練って作ったんだと思います。彼は感覚派というより狙って作るタイプなので。平成の曲も好きだし、「懐かしさ」というお題からいろいろ聴き込んで。何か参考にしたって言っていたよね?

小林 林哲司さんだ。林さんが作る夏の曲のような雰囲気を「サマータイムシンデレラ」の参考にしたみたいです。

―― では、この「サマータイムシンデレラ」でおふたりがとくにお気に入りのフレーズを教えてください。

長屋 私はDメロかな。

小林 あ、僕も同じですね。メロディーが上がっていく感じにもあっているし。

長屋 ここがある意味、いちばん自由に書けたなと。<8月のカレンダー 夏の終わりが近付いた 胸が騒ぐ やめてまだ終わらないでよ 「好き」をまだ伝えていないのに ああ ようやく答えに会えた>この6行で場面が急に変わる感じが好きですね。

―― また、心情にスポットを当てた主題歌「サマータイムシンデレラ」と、情景描写が美しい挿入歌「マジックアワー」は対になっているようにも感じました。

長屋 偶然だったんですよね。最初は挿入歌のお話はなくて。主題歌に向けてみんな曲を書いて、「サマータイムシンデレラ」が決まったんですけど、プロデューサーさんが「マジックアワー」も気に入ってくださって、「これも使いたい」と挿入歌に決まりました。そして結果的に、この2曲が対のようになってくれたんです。

―― 「マジックアワー」のようなしっとりしたタイプの曲も主題歌の候補として書かれていたんですね。

長屋 本当にいろいろ候補があったんですよ。最初は、「弾けるようなポップでフレッシュな感じ。夏らしくて青春っぽい感じ」というオーダーで、みんなそれぞれ書いていって。その段階で「サマータイムシンデレラ」があったんですね。でも1回、「まったく違う感じで、大人っぽさもほしい」という話が挙がって。その2回目の提出タイミングで作った路線の曲たちのひとつが「マジックアワー」でした。

小林 ドラマの制作サイドの方も、毎日撮影してだんだん映像ができていくなかで、求めるものが日に日に更新されていくじゃないですか。そういうなかで最終的にはやっぱり、最初の提出で聴いていただいた「サマータイムシンデレラ」が主題歌としていちばんハマる、ってなったんだと思います。「マジックアワー」も挿入歌に使っていただけてよかったです。

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