私の場合は「好き!」というよりも「なんか愛おしい」なんです。

―― アルバムのラストを飾る「13月」は、悲しみとともに怒りも強い1曲ですね。

いちばん最後にレコーディングした曲で、今回はわりと綺麗にまとまった曲が揃っていたので、ちょっとドスの効いた「おりゃー!」って曲も書きたくなっちゃったんですよ。あと本当は私、口が悪いんです、結構(笑)。その口の悪い部分をさらけ出したかったんでしょうねぇ。

―― 季節がテーマのアルバムだからこそ、最後に四季が不明の「13月」という月を入れたのでしょうか。

まさにそうですね。この曲はどの四季にも当てはまらない気がするし、仮に13月があったらだいぶ淀んだ月になるのかもなと。でも最後のフレーズが<心で心を殺すの ほら、簡単なことでしょう?>だと、どんよりしたまま終わってしまうので、ラストだけはできるだけ希望的に<僕の生き様は 僕が作る僕だけの 証だ>と、春に繋がるような想いを書きました。この希望があることで、前にある闇もより深く感じられると思います。

―― 歌詞には、実際にひとみさんが普段、肌で感じていることを綴られたのですか?

はい。なんか…病んでいたんでしょうね。いろんなことがイヤだったんだと思います。たくさんのひとに知られるのはありがたいけれど、やっぱりその分いろんなコメントを目にする機会も増えて。今、とくに世間でも言葉の暴力に苦しんでいるひとがたくさんいるし、私もそこまで激しいものではないにしても受けることがあるし。だからそういうものに対して「このやろう」みたいな気持ちで書いた気がします。

―― <ねぇ僕がなりたかったものは>の先が言葉にならないところもリアルです。考えれば考えるほどわからなくなりますよね。

「今、私が言っていることって合っているんだっけ?」みたいな気持ちにもなりますし。ここで答えが出なかったことも含めて、本当にこの曲は心が葛藤している状況をありのまま映し出した歌詞になったなと思いますね。

―― また、<善も悪も立場が変われば 真逆になること知ってるから>というフレーズは、「届く、未来へ」の<例えば正義だって立場が変われば 悪になることなど 知らないわけじゃなかったんだ>というフレーズにも通じていますね。

そうなんですよ。ただ、アルバムを通してみると、似たフレーズでも「13月」で聴くのと「届く、未来へ」で聴くのとではまったく意味が違うようにも感じられて。結果的に二面性のあるおもしろいフレーズになったなと思っています。

―― ひとみさんが他にこのアルバムでとくに思い入れの深い楽曲というと?

ひとつ選ぶとしたら…「僕らはそれを愛と呼んだ」かなぁ。映画『スパイスより愛を込めて』主題歌なんですけど、事前に監督さんが、「映画に寄り添いすぎなくていいので、自由に書いてください」っておっしゃってくださって。それがすごく嬉しくて、本当に自由に書けた楽曲です。

サビには思うがままに<普遍的な何かが作った くだらない形の愛を でこぼこなままで良いと抱きしめ>と綴ったんですけど、映画にもまさに、友情としての愛、親子の愛、恋愛、いろんな形の愛が散りばめられていました。自分でも意図せずに、「あ、このフレーズ、あのシーンにリンクしているかも」と感じる不思議な体験で。この曲は母が映画館で聴いてボロ泣きしたって言っていました(笑)。

―― 今回のアルバムでは「僕らはそれを愛と呼んだ」だけでなく、「クリスマスのよる」や「雪冴ゆる」でも<愛>という言葉が際立っていました。ベタな質問かもしれませんが、ひとみさんは恋と愛の違いとは何だと思いますか?

恋はいつか冷めるもの、愛は蓄積していくものだと思います。恋って、相手のダメなところが見つかったら、冷めていっちゃうことが多いじゃないですか。でも愛はむしろ逆で。「ダメなところも、このひとの一部なんだ」って受け入れられるというか、愛おしいと思える。有名なセリフで、「一度、愛されてしまえば、愛してしまえばもう忘れることなど出来ないんだよ」って言葉があるんですけど、本当にそのとおりだと思いますね。

―― 収録曲のなかで、ひとみさんがもっとも「書けて良かった」と思うフレーズを教えてください。

夏が来るたび」のDメロのフレーズ全部ですね。<記憶はいつだって美化される 無意識のうちに何度も塗り直した それは偽物だと君は笑うかな 抱えられる記憶の数には 限りがあるなんて言うならせめて 半分は君が抱えてくれよ>。これはいつか曲に入れたいと思って、ずーっと温めていたフレーズで。ここに来てやっと書くことができました。

―― もう少し作詞のお話をお伺いします。ご自身が描く主人公像に何か共通する特徴や性質ってありますか?

まず、はちゃめちゃに元気なタイプはいないですね(笑)。自分に似たひとを書いているなと思います。自分そのものではないんだけれど、自分に似た何者か。あと憧れや理想が反映されていることも。たとえば「アカネチル」みたいな曲のときは、「こういう男性がいたらいいな」という思いから主人公が生まれたりしますね。

―― 使わないように意識している言葉はありますか?

<好き>ですかね。でも今回は「ただ好きと言えたら」で思い切り使ってしまったんですけど(笑)。タイアップが関係ない楽曲だったら書かないかな。やっぱり「君が好き」という思いを「好き」という言葉を使わずにどう表現するかを考えるのがおもしろいなって。

―― 逆によく使う言葉はありますか?

なぜか<愛おしい>って使いがちですね。以前、友だちに「ひとみってよく“愛おしい”って使うけどなんで?」って聞かれたことがあります(笑)。自分でも理由はわからないんですけど、私の場合は「好き!」というよりも「なんか愛おしい」なんです。

あと、先ほどお話した<香り>もですし、<風>とか<雨>とか、匂いを一緒に運んでくるワードは使いがちです。ちなみにバンド内でまーしーは匂いを感じ取れるひとなんです。「あ、夏の匂いがしてきたね」って言ったとき、「なんのこと?」ってひともいるじゃないですか。でもまーしーは、「本当だ!」って言ってくれるので、「通じるタイプのひとだ!」と思って嬉しかったですね。

―― ひとみさんにとって、歌詞とはどんな存在のものですか?

代弁してくれるもの。歌詞とメロを同時に作っているので、自分も意図しなかったフレーズがふと出てくることもあるんですよ。あとから聴いて、「あぁ、私ってこういうことを思っていたんだ」みたいな。自分も知らなかった自分が投影されている感じですね。今考えても、なんで出てきたのかわからない歌詞もたくさんありますし。頭で考えるというよりも、心で感じていることが出てくるのかもしれません。

―― ありがとうございます! 最後にこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

今回は「季節」というテーマでしたが、いつかアルバムを通してお話が繋がっているような歌詞を書いてみたいですね。ひとつのアルバムでひとりの物語を描く。そのときの私は結末を幸せに持っていけるのか…、そこも楽しみだなと思いますね。


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