最近、まーしーの歌い方が私に似てきたんですよ(笑)。

―― アルバムタイトルの『季億の箱』は「ひとの数だけ季節の思い出がある」というところが由来なんですよね。

もともとあたらよの楽曲は季節がリアルに浮かび上がってくる楽曲が多いんですけど、去年末ぐらいからとくに季節のなかでもイベントを絞ったんですね。たとえば冬ならクリスマス、春なら卒業シーズン。そういう曲を作っていくうちに、「次は季節が題材のアルバムになるね」って話になって。

じゃあタイトルを決めようとなったとき、「私にとってのクリスマスと、誰かにとってのクリスマスは、まったく思い描く景色や気持ちが違うんだろうな」みたいな気持ちがどんどん湧き出てきたんです。それがまさに「ひとの数だけ季節の思い出がある」というところに繋がって。

そこから“何億人もの季節の思い出をアルバムという箱に閉じ込める”という意味のタイトルになりました。その箱を開いたとき、あたらよの楽曲とともに聴いたひとの季節の思い出が呼び起される、そんなアルバムになったらいいなと思っています。

photo_01です。

―― ひとみさんの歌詞は、本当に街のなかの季節の描写が美しく瑞々しいですよね。ちなみにお住まいはずっと東京ですか?

そうです、東京生まれ東京育ち。でも東京とは言えど、実家がちょっと西のほうなんですよ。ちょっと歩けば大きめの公園もあるし、都心よりビルも建物も少ない。田舎とまではいかないけど、緑が多い。思えば、意外と自然に触れる機会が多かったのも歌詞に影響しているかもしれません。

―― では、いちばん好きな季節というと?

絶対に夏です。曲を書く上でも。もっともいろんな顔がある季節だと思うので、いろんな側面から描ける。あと夏以外の時期に夏を思い出すときって、なぜかすごくノスタルジックな気持ちになるんですよね。だから今、こうして実際に夏が目に映ったとき、「あぁ、そういえばこれは冬に恋しいと思った、あの夏の映像に似ているなぁ」とか思います。その感覚は不思議ですね。

―― 1曲目「ただ好きと言えたら」は、「悲しみ」の成分は今作のなかでもっとも少なめなひらけたラブソングだと感じました。この曲をアルバムの入口にしたのはなぜですか?

映画『交換ウソ日記』主題歌ということで、今まであたらよを知らなかったひとがいちばん耳にする曲になるだろうなと。すると、この曲が入口にあることで、「他の曲は知らないけど、これは知ってる」って1曲目を聴いてくれるかもしれない。そこからさらに次の曲、また次の曲って聴いてくれたらいいなと。そんな気持ちもあって1曲目に持ってきましたね。

―― 1番サビには<見つめてただ「好きだ」と言えたなら こんなに貴方を想うのに>と綴られていますが、2番サビでは<見つめてただ「好きだ」と言わせてよ こんなに君を想う日々に>と、二人称も伝える強さも変化していますね。

実はこれ、1番は映画『交換ウソ日記』で桜田ひよりさん演じる黒田希美ちゃん目線で書いていて。そして2番は高橋文哉さん演じる瀬戸山潤くん目線で書いているんです。だからあえて人称も<貴方>から<君>に変えてみました。

―― なるほど! 最後まで聞くことでふたりが“両想い”だとわかるんですね。

そうなんですよ! 映画の流れとしても、もともとお互いに好きなんだけど、いろいろすれ違って想いを伝えられないという状況が軸にあって。そのふたりの葛藤を表現できたらと思って、こういう歌詞になりましたね。

―― 2曲目「今夜2人だけのダンスを」は新曲ですね。どんなときにできたのでしょうか。

これはアルバム完成の最後のほうにできた曲で。あたらよには、ちょっと大人な雰囲気の夏のラブソングってあまりないなという話になって、「そういう曲を作ってみよう」という話し合いから生まれました。

―― この曲は<2人>というワードが何度も出てくるのに、むしろ孤独が強くなっていく気もします。ひとみさんはどんな<2人>をイメージしましたか?

まず<貴方>は…黒髪のイケメン(笑)。主人公のほうはあまりリアルには出てこなかったけど、背は小さめかな。わりと具体的に想像しながら書きました。結局、この2人は付き合っているわけではないんですよね。ひと夏の恋というか。だから、本当に求めているものと、今の自分が手にしているもののギャップにしんどくなっている。それでも、心に開いた穴が埋まればいいなというちょっとの希望を持って行動していく子をイメージしました。

―― また、歌詞に五感がフルで使われているのも印象的でした。視覚はもちろん。味覚=<飲み干せない珈琲>、触覚=<ぼやけた輪郭をなぞる>、嗅覚=<雨上がりの香り>、そして<もっともっともっとって 満たされない心でないてる>のを感じる聴覚。

本当ですね…! 言っていただいて初めて気づきました(笑)。なかでも嗅覚については、私が匂いフェチなのもあって、よく歌詞に<香り>を入れていると思います。記憶ってどんどん薄れていっちゃうけど、最後まで残っているのは香りだという話を耳にしたことがあって。そのひとの顔は思い出せなくなっちゃったけど、街角でふっと同じ香りがしたら、「あ…」ってなるじゃないですか。そういう香りが持つパワーを信じているんですよね。

―― 3曲目「夏が来るたび」も新曲で、これもまたひとみさんが好きな“夏”を描いたラブソングですね。

夏ですねぇ。あたらよに「夏霞」って曲があるんですけど、結構まーしーの歌うパートが多い人気のラブソングで。今回もそういう男女で歌う夏の歌を入れたいなと思って作りました。

―― まーしーさんの歌声も切なさと優しさが滲んでいて素敵です。彼の声が入ることで、ひとみさんは楽曲にどんな力が生まれると思いますか?

声の相性ってあると思うんですけど、私とまーしーはすごく合っていると感じていて。お互いが主張しすぎてないけど、どちらかが埋もれちゃうわけでもない。そしてまーしーの歌声が入ることによって、男性が聴いたときにも感情移入しやすくなって、より幅広いひとに共感してもらえる曲になるのかなと。

―― 声質もどこか似ていらっしゃるのかもしれませんね。

それこそ今回のアルバムをレコーディングして思いました。最近、まーしーの歌い方が私に似てきたんですよ(笑)。結成当初の「10月無口な君を忘れる」は、「まーしーだなぁ」って感じなんですけど、「夏が来るたび」とか「今夜2人だけのダンスを」を録ったときに、「あ、歌い方が似てきた」って。本人が意識しているのか、自然と似てきたのかわからないですけど、お互いに“あたらよ”としての歌声になってきたのかもしれません。

123