恋愛なんてモノマネじゃん、意味ないじゃん、という時代が来るかもしれない。

―― 新曲「モノマネ」は、映画『どうにかなる日々』の主題歌であり、クリープハイプの「ボーイズENDガールズ」の“続編”なんですね。

最初から続編にするつもりはなかったんですよ。でも、どうしても曲調や書き始めたフレーズが「ボーイズENDガールズ」に近づいちゃうという感覚があって。自分では意図していないのに、「あの曲の続編を書いたのかな」と書かれたら嫌だなと思って(笑)。もう自分で決めてしまおうと、続編として作ることにしたんです。

―― 続編と決めてしまえば歌詞も書きやすくなってきそうです。

photo_02です。

はい。曲はずっと前からあったんですけど、今回は本当に歌詞が書けなかったんです。レコーディング前日の深夜2時ぐらいにさすがに焦ってきて。たとえば前作なら、「幽霊」というキーワードを決めて、そこから書いていけるのに、それすら思い浮かばなくて。でも、ギリギリその真夜中に「モノマネ」というテーマが出てきたので、そこから広げていったんです。そうしたらどうしても「ボーイズENDガールズ」がちらついてきて。1/3ほど書いたところで、続編にしようと決めて書いていきました。

―― 「ボーイズENDガールズ」は、幸せな時間を閉じ込めたような歌詞ですが、実はタイトルに“END”というワードが入っていて、初めから尾崎さんはこの歌の2人の終わりが見えていたのかなと…。

あー!それ良いですね、そういうことにします(笑)。でもたしかに、その言葉を入れるあたりに自分のひねくれているところが出ていますね。「ボーイズENDガールズ」は13年前、まだ自分たちでチケットを売っていて、全然お客さんが入らなかった頃に、初めて事務所の下のライブハウスでワンマンライブをやるときに作ったんです。新曲が1曲もなかったから、何か作らなきゃと思って、結構ギリギリでした。

とにかく時間がなかったから、そんなに気にせず出てきた言葉をそのまま入れたんです。だからサビの歌詞も、ただシンプルに幸せな感じで、自分のなかではすごく恥ずかしいと思っていて(笑)。いつも、大体何かしらの“汚し”を入れるんですよ。綺麗な歌詞でもちゃんと傷をつけて加工していくんですけど、それをやる暇がなかったんです。でも結果的に、そういう曲が届いたりして…。だからタイトルを決めるときに“END”をせめてもの “汚し”として入れたんだと思います。

―― なるほど!

あと「明日はどっちだ」という曲も、サビに<イライラするよりキラキラしてたいから>というフレーズがあるんですけど、あれもレコーディング前に歌詞がなくて、もう時間がないからこれで良いやと思いついたフレーズを入れたら、それが意外と届いたんですよね。でもやっぱり自分としては「お前そんなこと絶対言わないだろ!」って恥ずかしくなって。その2曲は、未だにファンの方が歌詞のフレーズを大事にしてくれている曲ですね。そうやって時間がないなかで書いたという点でも「ボーイズENDガールズ」と「モノマネ」は似ているかもしれません。ただ「モノマネ」に関しては、時間はかかったけれど、すごくじっくり歌詞を考えて決めましたね。

―― まず「モノマネ」の歌詞は、1番Aメロの歌詞が現在進行形なのがおもしろいなと思いました。回想のようでもあり、今あの頃の“モノマネ”をしているようでもあり。

小説の場合だと、時系列に対して慎重になるんですけど、歌詞はもう過去なのか今なのかを気にせずに書くことが多いんですよ。だから、歌ったときの音の響きで考えていきましたね。言葉の投げ方というか、聴き手に伝えるときの渡し方を意識しました。とくにAメロはつかみの部分だから、話しかけるような感覚で。どうやって呼びかけたら、より響くか、そんな感覚ですね。「あのさ…」って言うときのテンションです。

―― その感覚で書いていったら、自然に現在進行形の描写になったんですね。

そうです。あと、この曲に関しては、わりとAメロとBメロで脱力していて、ボスのサビと戦うために力を温存するような感覚もありました。クリープハイプにしてはサビのメロディーの分量が多くて、サビだけで3つ展開があるので、歌詞をしっかり書いていかないとその変化を伝えきれないと思ったんです。曲によっては、メロディーが少ないから歌詞を早く畳まなきゃいけないこともあって、悔しい思いをすることもあるんです。でも、今回は好きなだけやれると思ったので、そういう意味でも、AメロBメロで「ボーイズENDガールズ」の“モノマネ”をしながら書いて、モノマネできなかった部分をサビにぶつけましたね。

―― 「ボーイズENDガールズ」のモノマネ、<あなた>のモノマネ、あの頃のモノマネ、テレビで流れていたモノマネ、いろんな意味合いが「モノマネ」というタイトルに込められていますね。

まず、モノマネって言ってしまえば “大きな意味がないもの”じゃないですか。尾崎世界観のモノマネをしているひとを見つけて「このひとが似てる!知っていますか?」と言われるんですけど、別に怒りもしないし、嬉しくもないし、何も感じないんですね。でも、そういうものを見ている瞬間って幸せなのかな、とも思ったんです。

―― 主人公の<あたし>は<あなた>と“おんなじ”であることが、ただの「モノマネ」でしかないことに気づいていなかったのでしょうか。

幸せな時間のなかではわからなかったんだと思います。それで、終わってしまってから、モノマネにすらなっていなかったことを後悔して、当時の気持ちになってみようとしても<全然似てない 今更泣いても酷いモノマネだな>ということに気がつく。

あと、今回は女性目線で後悔をしているのが、自分の歌詞のなかでは珍しいですね。普段はそういう感情を男性の主人公に任せることが多いんです。でも、なぜか今回は自然と<あたし>になったんですよね。

―― 好きなひとに近づきたいという気持ちは悪いものではないけれど、“おんなじ”であることにこだわりすぎた結果、終わってしまうのは皮肉だなぁと思いました。

とことん“おんなじ”にこだわって成功しているのは、林家ペー・パー子さんぐらいじゃないでしょうか(笑)。たしかに“おんなじ”にこだわることで“終わり”に近づいていくことって多いかもしれませんね。 “おんなじ”であることが良いというすりこみがありますよね。でも、まったく同じ幸せを目指してしまった時点で、別れに向かってスタートを切っているのかもしれません。

―― 別れる前の<あたし>には、自分の思い描く理想の幸せの型があって、それのモノマネをしていたところもありそうですね。

自分もそういうところがあるし、きっとみんなそこから始まりますよね。漫画とかドラマとか映画とか、そんな恋愛のお手本に影響されて恋愛したいと思って、それのモノマネをしてみるというか。だけどふと、それがモノマネでしかないと気づいて「結局なんなんだろう」と意味がないものに感じたり。恋愛をしなきゃいけないとか、恋愛をしているひとが幸せだとか、そういう価値観を持つこと自体も、モノマネなのかもしれないですよね。

それこそ冒頭で、価値観はどんどん変わっていくという話もしましたけど、今後ラブソングが響かなくなっていく可能性もありますよね。恋愛なんてモノマネじゃん、意味ないじゃん、という時代が来るかもしれない。そういう意味でも、新しい歌詞の形を「モノマネ」では書けたと思います。もうすでに、男女の描き方も複雑になってきているけれど、たとえばラブソングや泣ける歌という概念が消えていったら、何を歌えば良いのか。ちょっと怖いけれど、楽しみだと、今日話しながら思いました。

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