【愛と血】をテーマにした胸が張り裂けるような全17曲入りフルアルバム!

 届くべきところに届くまで歌い続ける、シンガーソングライター“植田真梨恵”がニューアルバム『ハートブレイカー』をリリースしました。メジャーデビュー5周年を終えた彼女が立ち返ったのは“植田真梨恵とはなんぞや”という問い。その答えに近づくべく、今回は初めて他者による提供曲を収録。そして【愛と血】をテーマにした、全17曲の“植田真梨恵にしかできない音楽”が誕生したのです。他者から見た“植田真梨恵像”とは? 愛とは? 血とは? そしてアルバムを作り終えた今思う“植田真梨恵”とは…? 様々な想いを明かしていただきました。

(取材・文 / 井出美緒)
heartbreaker作詞・作曲:植田真梨恵自分以上に誰かを 大切に思うこと
それが愛の意味だと 思い込んでいたけど なにができるんだろう
誰かと誰かの血を分け合っても まだ愛と呼べないの?もっと歌詞を見る
“植田真梨恵”とは何なのかずっと悩んでいたんですよね。

―― ブログやライナーノーツを拝読すると、真梨恵さんは“わくわく”や“ひらめき”をとても大切にしていることが伝わってくるのですが、そういうものをこの自粛期間下ではどのように守られていましたか?

好きな映画を観返したりはしていましたね。あと、人としばらく会わないと話し方を忘れるというか、喋り言葉がうまく出てこなくなったりするじゃないですか。逆にだんだんひとりの時間に慣れていくと今度は、自分のなかの言葉がよりスムーズに出てくるようになったりということもありました。でも実は普段の生活で、大好きな“わくわく”とか“ひらめき”にはあまり出逢わないかもしれないです。出逢えるのは、音楽のなかだけ。

―― 普段はどんなときに音楽を作りたくなるのでしょうか。

photo_01です。

締め切りに追われているとき(笑)。もしくは、あまりにも日々に達成感がなかったり、自分に対する満足度がものすごく低かったり、「今、私生きている意味がないな」ぐらいに思っちゃったりするときですね。必要に駆られて曲を作る気がします。性格的にひねくれているので「元気出してね」って言われても「じゃあ元気出させてくれよ」って思ってしまうところがあって。誰かに対して無責任にポジティブなことは書けません。でもだからこそ今回のアルバムは“わくわく”とか、無意識のなかに浮かぶ気持ちみたいなものを大切にして作りました。

―― 真梨恵さんはもともとシンガーソングライターではなく、歌手になりたかったそうですね。でも今は自分の思想や気持ちを、自分の言葉で表現することを徹底しているように感じられます。そのモチベーションは活動のなかで変わっていったのですか?

うーん、0か100かみたいなところがあるんですよね。最初は圧倒的な歌を歌える人になりたかったんですけど、プロフェッショナルな作詞家さんや作曲家さんと一緒にエンターテインメントを作るというふうにはならなかったので。私が自分で歌詞とメロディーを書くのであれば、100%こだわらないといけないなと決めたんですよね。迷いのなかでは「これが私の歌です」とは言えないので。私は本名で活動していることもあり、ひとりの“生きている歌を作る人”として、大衆を狙った言葉ではなく、個人的な言葉で本当の気持ちにこだわって書きたいなという想いがとても強いです。

―― インディーズ時代を含めると、歌詞はもう10年以上お書きになられていますが、ご自身で作詞面の変化を感じる部分はありますか?

書きたいもの自体はまったく変わりませんね。ただ、クセはついてきてしまっていると思います。うっかり挟んでしまう口癖みたいな。たとえば<ただ>とか、そういう接続詞はもう何も考えずに書いていることが多くて。あと、デビュー当時のほうが「こんな歌があったらいいな」って、聴き手の気持ちに近い状態で、憧れを持って歌詞を書いていた気がするんです。最近は曲を作れてしまう自分を自覚しているところがあるので、そのバランスに時折、悩んだりします。

―― 今回のアルバムには、初めて作曲家の方々による提供曲も収録されていますが、それは「歌手としての植田真梨恵」や「こんな歌があったらいいなという憧れ」に立ち返るような意味合いもあるのでしょうか。

そうですね。いろんな要素が集結した交差点のようなアルバムになったと思います。今回、初めて自分ではない方に曲を書いていただいたんですけど、自分のために作られた曲を歌いたいという憧れと、他者から見た植田真梨恵像、植田真梨恵に歌わせたいメロディーみたいなものを知りたいという思いがありました。「こんなの聴いたことないな」とか「この歌詞は私にしか書けないよね」というものを見つけない限りは、植田真梨恵にこれから先はないなと。やらなければ!という気持ちでしたね。

―― これまで、ひとりで築き上げてきた“植田真梨恵像”はどのようなものでしたか?

それが何なのかずっと悩んでいたんですよね。曲を書き始めた16歳の頃から、20歳前後までって、思春期とか大人に差し掛かるとき特有の不安定な部分を描いていて。そういう歌を同世代の方が好いてくれていたこともあったから、余計に「“不安定さ”みたいなものが私らしさなのか?」と思ったりもしたんです。今回のアルバムを作る前までは。

でも結局、それは狙って作っていたわけではなくて、ただどうしようもなく漏れ出した気持ちが歌になっただけで。ずっと本当の気持ちで向き合っていたというところが幹にあるんです。だから“不安定さ”じゃなく“本当のこと”を歌っている人で在りたいと思ったんですよね。そういう気持ちから、今回は「私やっぱりこういうものが好き」「おもしろいからこっちがいい」って素直さを大事にして取り組みました。

―― いろんな作曲家の方々からの提供曲を受け取ってみて、意外だった“植田真梨恵像”もありましたか?

これは全体的に言えるんですけど、ベルとかオルゴールのリンリンッて音が、多くの楽曲に入っていたことですね。あと3拍子とか8分の6拍子のリズムが多かった。ちょっとこう…ダークファンタジーっぽさを強く感じたというか。私に対してそういうイメージを持たれていたことが意外でした。

―― 今回は「誰も聴いたことがないような音楽」がテーマだったこともあり、きっとご自身の作詞のプレッシャーも大きかったですよね。

そうですねぇ!そもそも難しいメロディーが多かったので、普通の曲にはならないだろうとは思ったんですけど、あまりにも当たり障りのない歌詞を書いてしまうと私がやる意味がないから、“私にしか書けないものを”というところを意識しましたね。奇をてらった独特な風合いより、その曲をひとつの作品としてスムーズに聴けるもののほうが個人的には好きなんですね。だからそのバランスを取りつつ、どこまで個性的なメリハリをつけようか悩みました。

ファンタジー要素がとくに強かった「眠れぬ夜に」は、夜の明かりが灯り始める雰囲気を描きながらも、このアルバムは全体的にドンヨリとしているので、1曲だけでもポジティブでまっすぐな歌詞を書きたいと思って。素直に<いつの日もそばに>いるからね、と今だからこそ歌いたいような想いを書きましたね。

―― 歌詞は「バニラフェイク」を除いて、すべてご自身が手掛けておりますね。やはり言葉の面は提供ではなく、真梨恵さんのものであることを大切にされたのでしょうか。

「バニラフェイク」は、仮歌に乗ってきた歌詞が「これで十分いい!最高!」と思ったのでそのまま歌わせていただきました。他の曲もデモの詞がはまっていればそれでもいいなと思っていたんですが、ほとんど仮英語で歌われていたので、結果的に私が書きました。…今回のアルバムってわりと半径が狭いというか。対世界にポーンと投げてはいるんですけど、作品としてはとても狭い部屋の、自分の手が届く範囲のことしか歌っていないんです。ひとりの人間が生きていくなかで考えていることや生活感をちゃんと歌詞にしないと、このアルバムの世界観を一本に繋げられないと思って。そういう感覚で歌詞を書きましたね。

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