新しい恋愛が始まっても、ずっと心のどこかに記憶は残ってる。

―― 5曲目「ブロッサム」は、失恋ソングですがどこか他の曲とは毛色が違うような、春らしく温かい歌ですね。

この1曲だけは、かなり前に作った歌なんですよ。僕らがまだ自主制作をしていたときにあった曲なので、5~6年前くらいかな。うちの近所に桜が綺麗に咲く公園があるんですけど、その桜を彼女と観に行って。でも次の年にはもうフラれていなくて。その場所でひとり「今年も綺麗に咲いたね」「来年も一緒に見ようね」という会話を思い出す…という。良くも悪くも若いなと思いますね。reGretGirlの「ホワイトアウト」では“車”に乗っていましたけど、この歌は<自転車>だし。これはあの頃の僕にしか書けない歌詞だと思います。

―― 5~6年前の恋愛を描いたものでも、かなり描写が鮮明ですね。よく恋愛において「女性は『上書き保存』で、男性は『名前別フォルダ保存』」などと言われますが、あれって本当なのでしょうか。

本当です!そして男は、そのフォルダが永遠に保存されていると思います(笑)。とくに僕はそう。別に、昔の彼女とよりを戻してまた一緒にやっていきたいとかではなく、記憶として強く残っているんですよ。どこにでも思い出が転がっているので、すぐに解凍できるし。その思い出には絶対に感情がくっついているので、色褪せないんです。たとえ新しい恋愛が始まっても、ずっと心のどこかにあの記憶は残っているのかなって思いますね。

―― 6曲目「テレフォン」は、reGretGirlの楽曲には珍しく、一人称も二人称も綴られておりませんね。

そうなんですよ。理由のひとつとしては、そうすることで聴くひとが男性でも女性でもより共感しやすいし、どんな立場でも聴けるかなと思って挑戦してみました。あと、もうひとつ僕の実体験に基づく理由があるんですけど…それは内緒で(笑)。なのでこの歌詞の詳細についてはあまり語らず、みなさんのご想像にお任せしたいと思います。

―― アルバムのラスト、7曲目「おわりではじまり」は、収録曲のなかでもっともひらけた歌ではないでしょうか。

はい。これを一番最後に持ってきたのも、三部作のラストだからという気持ちがありました。先ほどお話しましたけど、最近、昔の彼女に2~3年ぶりに再会したんですね。歌詞には<同窓会>と書いていますけど、そんな大げさなものじゃなく、大学の部活が一緒で、その仲間が集まる飲み会があって、そこに僕もその子も参加したんですよ。で、酔っ払っていたのもあるんですけど、その彼女の前で喋っていたら僕がボロボロ泣いてしまうという事件が起こりまして(笑)。その実体験を歌にしたのが、この「おわりではじまり」なんです。

―― 最後の<きっとあの時には戻れないぐらい ふたりは変わってしまったのだろう でもまた今日から新しいふたりで 始まったりしないかな>というフレーズが希望的なのも素敵です。

ありがとうございます。僕もこのラストのフレーズは、全7曲の歌詞のなかで一番気に入っていますね。今までのreGretGirlにはないんですけど、でもreGretGirl感もある。とくに最後の“かな”が、ちょっと冗談っぽくもあり、本気に取れるところもあり。本当にこれだけひらけている歌詞は自分でも、新境地かなと思いますね。

あと「おわりではじまり」というタイトルは、自主制作をしていた頃の、1枚目のEPのタイトルなんですよ。僕らはそこからはじまったので、今のタイミングでそのスタートをタイトルにしたくてこの歌に使ってみました。大きな節目になるような曲ができて、かなり満足しています。だから次のアルバムは、reGretGirlの新章になるようなものにしたいと思っているんですけど…結局、同じ子のことも歌いそうな予感もしています(笑)。ただ、これからは失恋に限らず、いろんなことを歌っていきたいですね。

―― これだけいろんな失恋ソングを書かれてきた平部さんですが、理想の恋愛像というとどんなものをイメージしますか?

うーん。ずっと長く一緒にいると、愛情だけではしんどいかなって思うんですね。いつかは情になるのかもしれないし。だから、恋愛感情がなくなった段階になっても、それでも一緒に楽しくいられるような恋愛が理想ですね。もし結婚するなら、そういう関係を築いていけるひとがいいなぁと思っています。

―― では、ここからはもう少し作詞面のお話をお伺いします。まず、平部さんが歌詞で影響を受けたアーティストというと?

まずはやっぱりback numberの清水依与吏さん。あとMy Hair is Badとか、クリープハイプとか、RADWIPMSとか、すごく好きです。女々しい感じとか、聴いていてそのシーンの情景が浮かぶような感じとか、そういう歌詞に惹かれるので、自分でも意識して書いていますね。

―― 最近、グッときた楽曲のフレーズがあれば教えてください。

My Hair is Badのニューアルバムに「虜」って曲があるんですけど、その歌詞の<僕の最後になってくれよ>という歌詞に、かなりやられましたね。というか、僕も実際にそう思っていて、歌詞にしたいと思っていたんですけど、マイヘアに先に歌われちゃったんで「あ…!」って(笑)。でもすごく感動しました。結構、男性って“女性の最初”になりたがるとか言われますけど、でもそうじゃなくて“最後になりたいな”って思いますね。

―― 歌詞を書くときによく使う言葉、または使わないように意識している言葉はありますか?

photo_01です。

よく使う言葉は自分では意識したことがないんですけど、使わないようにしているのは「愛してる」とか「好き」とか、直接的な言葉ですね。自分の柄じゃないというか。実際の性格的にも、そういうことを面と向かって言えないタイプなので(笑)。わかりやすい愛の表現は避けています。いかにそれを使わずに想いを伝えられるか、挑戦しているところもありますね。

―― 歌詞を書くときに大切にしていることは何ですか?

今までずっと“失恋”という同じテーマを書き続けているので、マンネリにならないようにすることですかねぇ。まぁ「また失恋かよ!」って言われるんですけど、その失恋をいかにマンネリ化させないかというところは、ずっと意識して書いてきました。そうするとボキャブラリーとか言い回しの方法が自然と増えてきて、そこは自分にとってのプラスになったなぁと思いますね。

―― 平部さんにとって、歌詞を書くこととはどんなことでしょうか。

僕の場合、今は本当に後ろ向きな歌が多いんですけど、それを吐き出せるというか。みんながその曲を良いと言ってくれることで、自分のなかのマイナスをプラスに変えられるのが歌詞だなって思います。面と向かって彼女に言えないことも、歌詞ならバンバン書けちゃうし(笑)。そういうところは魔法っぽいなと思いますね。音楽をやっていてよかったです。

―― ありがとうございました!では最後に、これから新たに書いてみたいのはどんな歌詞ですか?

やっぱり幸せな歌ですよねぇ。ひとつの目標は、結婚式で歌われるくらいのラブソング。みんなに「わたしはreGretGirlのこの歌を流したい!」と思ってもらえるぐらい、幸せなラブソングを書きたいなと思いますね。


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