本当は私、暗くてネッチーな曲も大好きなので(笑)。

―― 7曲目「点描の唄(井上苑子ソロver.)」はリード曲であり、反響も大きいですね!

これはもうこのアルバムの壮大なピークです(笑)!もともとMrs. GREEN APPLEの大森元貴さんとのコラボ曲なんですけど、すっごい好きで。一緒に歌わせていただいた当時、久しぶりにレコーディングでめっちゃ緊張したんです。失敗できない…って不安もありましたし。正直、井上苑子の曲のときはちょっと緩んでいるところがあったんだなって痛感しました。でも同時に、本当に楽しくて。「うわ~音楽ってこれだ~!」ってドキドキワクワクして、声を鳴らしたときに「行けた!」って自分を信じられる感覚を得ることができて。そんな思い入れの強い曲を、みなさんにもいっぱい聴いていただいていたということもあり、今回のアルバムにはソロバージョンとして入れさせていただきました。

―― 苑子さんはこの歌詞の魅力をどんなところに感じますか?

まず、なんて繊細なんだろうって。大森さんは男性だけれど、女性にも寄り添える心を持っている方だと思っています。<私は貴方を好いている>というフレーズひとつも丁寧ですよね。あとすごく好きなのは<どこまでも 鈍感な僕を叱って欲しい>というフレーズ!パワーワードだと思いました。男性なのに自分でそうやって言えるんだ!ってところも、そうわかっていながらもどうしようもできない切なさが伝わってくるところも、素敵だなぁと思います。

―― ソロver.を歌うとき、とくに意識されたことはありますか?

ピアノ一本のアレンジだからこそ、より丁寧に歌おうと思って、言葉ひとつひとつを大切に歌いました。録っては聴いて、録っては聴いて、というのを何回も繰り返して。あと<私>のパートと<僕>のパートでは主観が違うので、ひとりでやるのは難しいなと思ったんですけど、逆に<私>と<僕>で声の表現を変えすぎても違和感が出てしまうし、ほんの少しだけ自分のなかで気持ちの違いを持ってみました。ちょっと<僕>のほうが支えるようなイメージを感じてもらえたらいいなって。

―― そして私が個人的に大好きなのが8曲目「キミマミレ」なのですが、SNSのコメントなどを読んでいると、結構この曲が好きなファンの方が多い印象ですね。

ありがとうございます!そう、サイン会とかしていてもこの曲を好きと言ってくれる方が一番多いかもしれないです。これは前に柳沢亮太さんと作った「ふたり」の第二章のような曲にしたいという裏テーマがありまして。付き合ってからは月日が経っているんだけど、ちょっと一緒に生活し始めたばかりで、まだ“好き”な気持ちが残っているからプイプイ拗ねている女の子を書きたいなと思って(笑)。

粗大ゴミみたいに日付指定の恋ですか?
縦、幅、奥行き、重さとか測るすべもない
君のTシャツが吊るされたままのカーテン
返すのも 仕舞うのも 洗うのもイヤ
ひとつ 数えたら ふっと笑った君がいた
ふたつ 美味しいと褒められた手作りのオムライス
3、4、5 と増やしたい 思い出の数
絶やさず、こぼさずに、守ってるんです
キミマミレ」/井上苑子

―― もうこの1番のAメロから可愛いです。

photo_03です。

ね(笑)。私こんなこと思ったことないですもん!この<返すのも 仕舞うのも 洗うのもイヤ>ってフレーズは、もともとちょっと違ったんですよ。でも一緒に作詞をしてくださった田中秀典さんと「<洗うのもイヤ>っていうのも良いかもね」って話をして。私は「<洗うのもイヤ>はちょっと汚くないですか!?」とか言ったんですけど(笑)。ただ、そこまで振り切って書いちゃったほうが、この子がどれだけ<君>を好きなのかが伝わるんじゃないかなってことで、このフレーズになりまして。結構、全体的に良い感じに出来上がったなぁと思いますね。

―― 歌詞の中の小さなエピソードの数々は、どんなところからイメージを膨らませていったのですか?と。

とにかくいろんなところに<君>を感じてしまう歌にしたかったので、どのアイテムと結び付ければこの女の子が一番可愛く見えるかな?物語に繋がるかな?というのをいろいろ考えながら作っていきましたね。あと<ひとつ 数えたら ふっと笑った君がいた>と、数字をいっぱい出していくところは「ふたり」に近い感じにしたくて。ライブではみんなが声を合わせて「ひとつ!」とかノってくれたらいいなぁ~って思ったりしながら書いたので、歌うのが楽しみです。

―― 9曲目「ファンタジック」はヨルシカ・n-bunaさんとの共作曲ですが、これもまた新たな井上苑子ラブソングですね。

これはもう思いっきりn-bunaさん色です!私はこういう主観のラブソングを書けたことがなかったんですけど、いろいろお話させてもらいながらだんだん歌が出来上がっていくのが楽しかったです。最初にn-bunaさんが仮歌詞入りのデモを送ってくださって。その曲を聴いて、私のなかに浮かんだイメージを伝えて、歌詞は結構ガラッと変わりました。別れて、一人きりの部屋でうずくまっている女の子の切なさみたいなものを描きたくて。そして彼氏に対しては綺麗な想い出が残っているというイメージだったんですけど、n-bunaさんとの共作だったので、男の子目線でも捉えられるように一人称を<僕>にしたり。

―― この歌は、最初のサビの<春を待った>が最後では<春を舞った>に変わっていますよね。歌詞を文字で読むとわかる変化が素敵だなぁと思いました。

そうなんです。この主人公は曲の始まりから恋を引きずっていたので、曲が進むにつれ、気持ちもちょっとは変わっていく様子を表したくて。それで最後の最後だけはちゃんと終われるような希望になるように<春を舞った>にしたんですよね。私もここがすごく好きです。いや~、でもこれはn-bunaさんと一緒じゃなければ書けなかった歌詞ですね。本当にありがたいです。

―― こうしてどんどんいろんな種類のラブソングが増えてきましたが、苑子さんが描く“私”や“君”の特徴ってありますか?

あ~、結構“私”はスネがち(笑)。嫉妬しがち。いつも「なんでこうしてくれないの!?」って気持ちを書いている気がします。そして“君”は“気づかながち”です(笑)。鈍感。そういう二人の物語が一番可愛く見えるんですよね~。やっぱりドラマとか観ていても、そこのズレがもどかしくて良いじゃないですか。本当は好きなのに!っていう。

―― 苑子さんはドラマから歌詞の“胸キュン”を吸収するとおっしゃっていましたもんね(笑)。最近はどんな作品を観ていますか?

今は韓国ドラマですね!ついこの前まで『ピノキオ』って有名な作品を観ていたんですけど、めちゃめちゃ良いんですよ。まず韓国のドラマは、やむを得ない事情で一緒に住みがち。で、最初は全く好きじゃなくて、いがみあっていがみあって、いつの間にか好きになっているみたいなパターンが多くて。その好き?好きじゃない!好き?好きじゃない!ってところがもう…最高です(笑)。私もそういう歌を書きたいですね。

―― 最近、歌詞が良いなと思った楽曲・アーティストを教えてください。

クリープハイプの「燃えるごみの日」ですね。とっても良い曲。あんなに<なんでもない日々>を幸せに思っている感じ。すごく素敵です。私もいかに日常に生きている意味を持たせられるか考えるのが好きなので。退屈だと思う時間さえも幸せだと感じたいし。その曲をライブで聴いたときも感動しました。クリープさんの歌詞はいつもズッシリ来ますね。

―― いつかコラボ曲など聴いてみたいです。

それが、一度だけ番組で曲を作ってくれたんですけど、タイトルが「乳輪」で…(笑)。最後の最後は“乳輪”で終わるんですけど、そこまではなんかいい感じの歌だったんです。その曲を2~3年前くらいの夏にステージで歌いましたねぇ。シングルでは出せないけど、いい曲でした(笑)。是非、またご一緒させていただけたらいいなと思いますね。

―― ありがとうございました!では最後に、苑子さんがこれから挑戦してみたいのはどんな歌詞ですか?

よく「もっと黒い部分を見せてほしい」って言われるんです。結構、歌詞は綺麗に浄化してしまいがちなんですよね。だからそこを抑えて、今回の「何でもない」以上に自分を深掘りして、そういう気持ちを書いていきたいなと思いますね。無駄に前向きにならない。落ちるときは落ちようと思います。本当は私、暗くてネッチーな曲も大好きなので(笑)。一度、超ドロッとしたやつに挑戦したいです!


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