ある日、ふと耳に飛び込んできたYOASOBIの新曲「
アイドル」が、実に良かった。変化に富んだ展開で、それは曲調にも歌詞にも言えて、ボーカルは普段よりラップ色が強く、そこも新鮮であった。
アニメ『【推しの子】』のオープニングテーマということだったので、急遽Netflixで動画の第一話だけ観て、この原稿を書いているのである。
YOASOBIといえば、小説をヒントに音楽を生み出すユニットだが、その姿勢は継続されている。今回はアニメの原作者・赤坂アカが書き下ろした『
45510』にインスパイアされたものである。
残念ながら小説は未読だが、僕が観た『【推しの子】』第一話の内容とも、実に響き合う歌詞だ。
『【推しの子】』のあらすじを読むと、アイドル・グループのセンターの女の子のスキャンダルに端を発し、転生モノの要素も非常に重要であり、さらにストーリーは代替わりして続き、最終的に復讐劇として完結するらしい。
僕が子供の頃に観ていたアニメより、ずいぶんストーリーが複雑だ。もはやこうなると、奇譚と呼ぶべきレベルだ。
で、YOASOBIの「アイドル」が“アイドル”という日本固有の文化をテーマにしていることから思い出したのが、小泉今日子の1985年のヒット曲「
なんてったってアイドル」だった。せっかく思い出したのだし、今月はこの2曲を取り上げることにしよう。
そもそも“アイドル”とはどういう存在なのか
よく言われることだが、“アイドル”は偶像だ。こうあって欲しいという理想形であり、虚構ゆえ、嘘を伴う。でも、そもそもエンタメは、いかに上手に嘘をつくかが勝負。ある女優さんがお姫様の役を見事に演じたとする。でも彼女の実家は小さな草履屋さんだったとしよう。
草履屋さんも立派なご商売だが、演じる女優さんを指さし、「あのコはお姫様なんかじゃない! 草履屋の娘だっ!」なんて言っても意味はない。
ただ人間には、他人のプライバシーを覗き見したいという強い欲望があり、エンタメの周辺でその種のメディアも発達し、今へ至っている。
YOASOBIの「アイドル」にも、彼女を取り巻くそうした現実が盛り込まれる。最初のパ―トでは、[メディア]と[エリア]、このふたつが対語を成す。
メディアは容赦なくアイドルの実態を暴こうと襲いかかってくる。ファン達の熱いまなざしもそこに加わる。しかし“アイドル”には守り続けたい自分だけのエリアが存在する。両者の攻防。曲のテンポと相まって、程よい緊張感が届いてくる。
小泉今日子の「なんてったってアイドル」の場合は、1985年当時、“アイドル”の本音や日常をストレートに描いたことが画期的だった。バランスとしては、自分の[エリア]側から[メディア」や世間を眺めつつの描写が多い。
でも[恋はする]けどスキャンダルに関しては[ノーサンキュー]と歌うあたり、YOASOBIの「アイドル」における[メディア]と[エリア]の攻防は、この歌にも存在する。
「アイドル」
2023年4月12日配信
ソニー・ミュージックエンタテインメント
YOASOBI
コンポーザーのAyase、ボーカルのikuraからなる、「小説を音楽にするユニット」。2019年11月に公開したデビュー曲「夜に駆ける」は、公開直後から瞬く間に注目を集め、国内の各種配信チャートでも1位を席巻。現在ストリーミング累計再生回数は史上初となる9億回を突破。第71回NHK紅白歌合戦にも出場した。
2023年2月にはユニバーサル・スタジオ・ジャパン『ユニ春』テーマソング「アドベンチャー」を配信リリースし、3月にはユニバーサル・スタジオ・ジャパン グラマシーパーク特設会場で開催された『ユニ春! ライブ 2023』に出演。コロナ禍の学生の経験を元に制作した楽曲に込められたメッセージや、ライブでのさまざまなキャラクターとのコラボ演出が、同世代の学生のみならず幅広い層の心に刺さっている。