強く作り上げているのが<私>で、本当の自分が<君>なのかもしれない。

―― 「片っぽ」は、どのような経緯で挿入歌に決まったのでしょうか。

監督や運営チームのみなさんが「片っぽ」を聴いてくださっていて。歌詞の<飾った向日葵>とか<片っぽな恋>とか、そういう言葉が作品とマッチしたみたいで、「この映画のためにあるような曲です。ぜひ使わせていただきたい」とおっしゃってくださったんです。劇中で流れるのを聴いてすごく感動しました。

―― 曲を作ったとき当時とは、また違う感情が生まれますよね。

本当にそうでした。この映画は、カオルくんが大切なものを取り戻すというのがひとつ話の軸になっていて。「片っぽ」に関しては、カオルくんとあんずちゃんの歌というより、カオルくんとその<片っぽ>になるような大切な存在のひとの関係に当てはまるなと、観ながら感じました。

―― 歌詞内の<外恋慕(はずれんぼう)>と<逸恋慕(はぐれんぼう)>というワードが印象的です。これはeillさんの造語ですよね。

そうです。日本語って、ひとつのことを説明するのにめちゃくちゃ長い言葉が必要だなって思うんですよ。だから、「もうくっつけちゃえ!」みたいなことをよくやります。道を外れちゃった恋と、二人が逸れちゃった恋と、うまく表現したくて作りました。いつも「これを言いたい」という気持ちを何行か書いてみて、「=〇〇」って感じで造語ができあがることが多いですね。

―― 「プレロマンス」や「フィナーレ。」は映画の主人公を想像されたと思うのですが、ご自身の書く楽曲の主人公に何か共通する特徴や性質ってありますか?

ラブソングだと大体、気が強い女の子が多くて、私そのものって感じです。ほとんどがひねくれたラブソング(笑)。たとえば「((FULLMOON))」みたいな、<返事のない愛情も たまにあえばする雑な 追いかけてばかりのストーリー>とか、そういう系がすごく多くて。しかも最後は<でもお別れしよう>みたいな。

だから今回、初めて「フィナーレ。」のような結婚式で流せそうな曲を書くことができて、私としては「奇跡じゃん! こんな歌詞書けるんだ!」って気持ちなんですよ。<最後の花火をあげて フィナーレを誓って 奇跡の降る恋に落ちて>なんて、この映画がなかったら書けなかったし、自分にとって宝物みたいな曲ができたなと思います。

―― <君>の像はどのようにイメージを膨らましていくのでしょうか。

最近思うことは、ひょっとしたら<君>も自分なのかなって。やっぱり自分の人生の歌を書くことが多いので、今の自分に言ってあげたい言葉を<君>に伝えていたり、今の自分が言えないことを<君>に言わせていたり。逆に、強く作り上げているのが<私>で、本当の自分が<君>なのかもしれないなと思いますね。

―― eillさんにとって、歌詞とはどういう存在のものですか?

言葉にすることは好きなんですけど、やっぱり得意ではないですね。音楽だと、作詞より作曲のほうが楽しいというか、楽です。言葉ってすごい威力を持っているから、責任がある。ちゃんと大切に書かないといけないって気持ちが強くて。なので歌詞はずっと強敵で、ボスキャラ的な存在です。

―― それは、「わかってほしいのに言えない」というところにも通じる気がします。大切だからこそ、伝えるのが難しいですよね。

そうなんですよ。でも、言えないことこそ音楽にしていたりするので、「本当にこの言葉が伝えたい想いなのか」って毎回、自分自身と見つめ合って、話し合っています。だから歌詞がいちばん時間かかりますね。

―― 歌詞を書くときに大切にすることは何ですか?

私はラブソングにしても、人生の歌にしても、歌詞ではいつも最後の最後に光を見せたいと思っているんです。たとえば「片っぽ」だったら、<心に咲かせておくよ>ってフレーズがあったり。それは生きていくなかで、自分を否定しないでほしいし、自分の人生を大切にしてほしいから。自分のことを大切にできたら、きっと他者のことも大切にできると思うし。だから前向きなメッセージを残すことは大切にしていますね。

―― 歌詞に使わないように意識している言葉ってありますか?

昔から過激な言葉は避けているかもしれません。あと、自分をさげすむような言葉。弱さと自虐はちょっと違うから。そういうのはあまり好きじゃないんだと思います。

―― 逆に、好きでよく使っている言葉というと?

それはめっちゃあると思います(笑)。被りグセがあるので。とくに<人生>が多いかなぁ。「何回人生語ってんねん!」とも思いますけど、自分自身の永遠のテーマになっている気がしますね。

―― ありがとうございます。最後にこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

やっぱり挑戦したいのはいつもラブソングなんですよね。今回、結婚式系ラブソングはいい感じになったので、次は…、強さのなかに本音が隠されているような歌ですかね。一見、強い女の子っぽいんだけど、本当は恋人が帰ってこないのが気になるとか。でもいつも強気でいるからこそ言えないとか。そういう強い女の子の弱さや本音を書いてあげたいなと思います。

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eill
EP『プレロマンス / フィナーレ。』
2022年9月7日配信
ポニーキャニオン
2022年9月7日配信


収録内容

<収録曲>
03. 片っぽ - Acoustic Version
04. プレロマンス - Instrumental
05. フィナーレ。 - Instrumental

直筆色紙プレゼント

eillの好きなフレーズ
毎回、インタビューをするアーティストの方に書いてもらっているサイン色紙。今回、eillさんの好意で、歌ネットから1名の方に直筆のサイン色紙をプレゼント致します。
※プレゼントの応募受付は、終了致しました。たくさんのご応募ありがとうございました!
eill(エイル)

東京出身。ブラックミュージックを下地にした音楽性と、甘さ/切なさ/艶感/力強さが共存した歌声で魅了するシンガーソングライター。アーティスト名は北欧神話に登場する癒やしの女神「エイル」に由来。癒やしの力は音楽にも宿るという思いが込められている。15歳から歌い始め、同時にPCで作曲も開始。

2021年4月にTVアニメ『東京リベンジャーズ』の ED主題歌として起用された「ここで息をして」でメジャーデビュー。多彩なソングライティング・センスが高い評価を受け、BE:FIRST、テヨン(ex 少女時代)、EXID、ジャニーズWEST、NEWS等に楽曲を提供。情感豊かな歌声に魅せられたアーティストも多く、SKY-HI、PINKSWEAT$等、国内外のアーティストの楽曲に客演で参加。2022年9月9日全国公開の飯豊まりえ・鈴鹿央士が声優を務める劇場版アニメ『夏へのトンネル、さよならの出口』では主題歌と挿入歌を担当。新曲「フィナーレ。」「プレロマンス」と「片っぽ」のアコースティックバージョンが劇中で使用される。
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