―― つい最近まではお芝居をメインにご活躍されていて、舞台『両国花錦闘士(りょうごくおしゃれりきし)』では記者の役を演じられていたんですよね。どのような人物だったのですか?
相撲記者なんですけど、デブが大嫌いな女性です(笑)。もともと野球記者になりたかったのに、回されてしまって、仕方なくやっているのですが、嫌いなものほど調べてしまうという不思議な性格で。そして、相撲について熱心に調べていくうちにその魅力に気づいて、最後は相撲を愛する女性になるんです。情熱的で、鼻っ柱だけが強いような性格でしたね。
―― ちなみにお芝居をされている期間は、プライベートに戻ればすぐに役から切り替えられるものなのでしょうか。
いや、私の場合はめちゃくちゃ私生活まで引きずるタイプです。だから2月になって、今回のアルバムキャンペーンやライブの練習も始まったんですけど、違和感しかなくて(笑)。私、歌を歌うひとだったよな?みたいな。
―― 歌うときのモードというのは、まったく別ものなんですね。
何が違うのかうまく言葉にできないんですけど、たとえばお芝居の延長線上で役として歌うのと、大原櫻子として自分の声で歌うのとでは、かなり違います。なんか今も、お芝居モードから大原櫻子に戻ったという感じでもなくて。逆にどっちが本当の私だっけ? 戻るってどんな感覚だっけ? というような状態です(笑)。
―― 2015年にシングル「真夏の太陽」で取材をさせていただいた際には「悪役をやってみたい」「もっと毒の効いた歌に挑戦していきたい」とおっしゃっていましたが、たとえば前作のアルバム『Passion』収録曲「電話出て」などからその挑戦を感じました。
ですね!前作『Passion』のときは、本当に毒が強かったというか、ひねくれていたというか。とくに「電話出て」の歌詞には<死にたくなってしまったの>というフレーズもあって。そんな言葉を一青窈さん、書いてくださったんだなぁって。今まで歌ったことがなかったので新鮮でしたし、人間の生身感、ドロッとしている毒々しい感情を歌えた感じがおもしろかったですね。
―― こうした楽曲を歌ったことで、何か新たな気づきはありましたか?
自分と「電話出て」の主人公がぴったりと重なるわけじゃないのに、なぜか歌っていて「この主人公の気持ち、私もわかるなぁ…」って思ったんですよね。しかも書いているのは私じゃなく、一青窈さんなのに。だから、こういう人格って、本当は誰しも持っているものなのかもしれないなと。みんな抱いたことがある感情なのかもしれないということは、すごく感じました。
―― 変化という面ですと、先日25歳になられたばかりですが、今はどのようなマインドですか? 以前は「20歳を大きな節目だと感じていたけれど、意外と変わらない」とおっしゃっていましたよね。
なんか…20歳から25歳にかけて、運転免許を取ったり、お料理をするようになったり、プライベートの自分の時間を考えたり、個人事務所になったり。そう考えると5年間で、こんなに変わるんだなということを実感していますね。いろんな面で自立しようとしている気がします。今は自分ひとりで物事を進めていけるような環境で、それが好きだなと思いますし、より楽しいんです。もちろん責任は大きいし、プレッシャーもあるけど、自分で考えて動いたり、自分のマインドで日常生活を送ることができたり、すごく自由になった感じがありますね。
―― 今回のアルバムでは、共作ではなく、初めておひとりで作詞もされていますね。
そうなんです。もちろん去年の自粛期間があったことも影響はしているんですけど、自分の言葉で書くということが、それこそひとつの自立なんじゃないかなと思って。ずっとやりたかったことなんです。でも、今まではどうしても時間に追われてしまって、じっくり歌詞を書けるタイミングがなかったので。今回はやっと自分の言葉ですべてを書くことができて嬉しいです。
今回「チューリップ」と「抱きしめる日まで」を書いてみて、まったく違う世界観の歌詞になったなと。だから、どんどん引き出しを増やして、いろんなジャンルのものを書いてみたいと感じました。この2曲を自分が3年後、5年後、10年後、どう受け取るのかはまだわからないですけど、もっと自分の言葉でチャレンジをしていく、これからの先がけになったのかなと思います。
―― 「抱きしめる日まで」も含め、今作の歌詞は<愛されてる><愛している>といったワードが印象的で、ときめきの恋よりも、もう少し深いところを歌うことを意識されたのかなと感じました。
あー!たしかに!キュンとするような恋心って、10代のもっと若いときにはたくさんあると思うんですけど、私も25歳になったし。自然とちょっと重たさを意識したり、恋よりも愛を歌いたいという気持ちがあるかもしれません。今、言われてみて気づきました。