言葉で音楽を書いている人間やからこそ、言葉じゃないところで恋愛したい。

―― 1曲目「radio」~3曲目「LION」まではポップでアップテンポな曲が続きましたが、4曲目「冷たい」~6曲目「星と屑」はしっとりと“夜モード”になりますね。

はい、3曲ともそれぞれ夜の景色が歌詞になっていますね。4曲目「冷たい」はこのアルバムのなかでいちばん昔の曲で、中学2年か3年のときに書いたものなんですけど、ライブでもあまりやらなかった曲なんです。だけど大学生になったタイミングで、久しぶりに聴いてみたら、何か心を動かされるものがあって今回音源化しました。

私は中3の頃、地元・天王寺のライブハウスにたくさん出させてもらっていたんですね。バイトもできひんから「とにかく空いたところを埋めるためでもいいので」って呼んでもらって、夜にひとりギターを背負って帰ることも多々あったりしました。で、天王寺というところは、昔は治安が悪かったんですけど、今は治安の悪さを残しつつもかなり発展した特殊な場所で。当時、ライブ帰りにそこを通りながら、いろいろ感じることがあったので<こんな時間の天王寺>の独特な空気感を曲にしたいなと、書いた歌詞ですね。

―― とくにサビの<僕はまるで冷たい>というフレーズが染みます。<まるで>ということは、本当は冷たくないはずなんですよね。

そうなんです。私もこの曲は<僕はまるで冷たい>というフレーズがキーポイントだと思っていて。<まるで>と<冷たい>って言葉の組み合わせって、違和感があるじゃないですか。その違和感をサビの最後に残すというのが、天王寺の雰囲気と合っている気がして。あと主人公も“天王寺を舞台に何かストーリーを組み立てるなら”というテーマで、キャラ設定をしました。

冒頭は<僕>がかつて<君>から言われたセリフの回想になっていて…。なんか、何を考えているのかわからないフワフワ系の女の子っているじゃないですか。自分のなかではすごくいろんなことを考えているのに、何も考えてないみたいな顔をしているというか。そういう子って人間として面白いなと思うところがあったので<君>として描きました。そして、その子を理解できず<大切にできなかった>主人公が<僕>なんです。

―― <天王寺>という具体的な地名が歌われているからこそ、リアルに響く歌ですね。さらに6曲目の「星と屑」は関西弁で<あぁ 何やってんやろ>と始まるのも、有望さんの素に近い感じがします。

これ最初、大阪弁の歌詞にしようとは思わずにギターで弾いて歌っていたら、自然に出ちゃって(笑)。でも自然に出たということは、おっしゃるとおり素の心境がリンクするところが大きかったんやと思います。この曲も結構前に書いた曲で。綺麗なものを見たときに、自分がみじめに思えるみたいなことって日本人に多い気がしていて。そこを私が好きな<月>や<星>とうまく繋げて、美しく描きたいと思って書いた曲ですね。

―― 終盤の<幸せなことばかりじゃないよ 幸せは心にしまうといいよ>というワンフレーズには、どんな想いを込められたのでしょうか。

ここは本当にささいなことをきっかけに書けたフレーズなんです。高校の修学旅行かなんかのとき、携帯が禁止やったんですよ。それで先生に「えー、写真が撮れないじゃないですか!」って言った子がおって。そうしたら先生が「いや、それは心にしまったらええねん」って返していて(笑)。でもたしかに、今っていつでも写真に残せて、SNSに投稿できて、自分の心に景色を刻み付けようって想いが薄れているなと思ったんですよね。それでこの曲に、忠告のようなメッセージをそっと入れたくなったんです。

―― 8曲目「ワンピース」は、またテイストがガラッと変わり、可愛らしいラブソングですね。

私にはかなり珍しく失恋ソングじゃない、初デートのワクワクを詰め込んだ曲なので、新鮮な気持ちで書きました。この曲はたまたま地元の駅前で、多分好きな子を待っているんやろなぁ~って女の子を見たときに、すごく可愛いと思ったことが誕生のきっかけで。そういう女の子の背中を押せる曲になればいいなと思って書きましたね。

―― ちなみに有望さんの理想の恋愛像というと、どんな関係が思い浮かびますか?

えー、恋愛像かぁ…ちょっと恥ずかしいなぁ(笑)。でも私の性格的に、歌詞でもそうなんですけど、ストレートに何かを伝えるということをずっと避けてきたんですよね。わかりにくい、まわりくどい言葉でしか伝えられない。だからそういう次元じゃなく、お互いの空気感で理解し合えるみたいな恋愛に憧れますね。言葉で音楽を書いている人間やからこそ、言葉じゃないところで恋愛したいっていう気持ちがあります。

―― 9曲目「東京」は、まさに上京したときに書かれた曲ですか?

そうです。なんか…東京の“ひとの多さ”は、いい意味で魅力やなと思っていて。日本でいちばん夢を追いに来ているひとが多い場所じゃないですか。だからいちばん同志で高め合える空間なんだろうなって。そういうことを考えながら曲を作りました。

―― 有望さんは、活動をし続けているなかで、自分の夢が遠く感じたことはありますか?

それこそ音楽なんかは、突き詰めたら結局好みの話だったりするので、これは私の努力でなんとかなる問題じゃないなという面で遠く感じることはあります。だけどもしかしたら、実はその“好み”っていうのはただの運じゃなくて、アーティストさんがめっちゃ仕掛けて作り出しているものかもしれないじゃないですか。なので、とにかく分析やなと思っていて。運の世界とわかりつつも、何かヒットにヒントはないかな?と、ストリーミングも片っ端から聴いたりしていますね。

―― そして、アルバムラストの収録曲「素晴らしい日」からは、朗らかで明るい空気感が伝わってきます。

これまでの9曲は、いい意味でまとまりがなかったからこそ、最後はちゃんと締めくくってくれる1曲じゃなきゃあかんなと、すごく明るいポップな曲にしました。もともとこの曲は、ライブで最後の最後にみんなで歌える曲があったらいいなって思って作ったんです。だから、このアルバムが一本のライブだとしたら、入口からいろんな感情があったけれど、最終的には全部ひっくるめて「あぁよかったな」って言えるような出口の1曲になりましたね。

―― 歌詞を書く際、有望さんが好きでよく使う言葉ってありますか?

<いつか>ですかね。この言葉は「いつか~したい」って未来を意味することもできるし、「いつかの~も」って過去を意味することもできる、不思議な目線を持つ言葉やなと思っていて。それをよく歌詞の一番と二番で使い分けたりして遊んでいます。言葉遊びが好きなんですよね。

―― 英文学をはじめ、いろんなところからインプットをされているかと思いますが、最近印象的だった作品は何かありますか?

私は本から学ぶことが多くて、最近は今村夏子さんの『こちらあみ子』という小説がすごく好きです。簡潔に言うと、現在はもう大人である主人公が子どもの頃の話をただただ語るという内容で。回想シーンでは、その子の純粋さがあらゆる場面でひとを傷つけてしまうんですけど、その模様を“反省している”とか“自分の性格が問題で”とか直接的に書かずに、うまく表現しているところにめちゃくちゃ惹かれましたね。

―― 歌詞を書くとき、いちばん大切にされていることは何ですか?

たとえそのメッセージが何回歌われていることであろうと、自分で新しい表現を生み出して、みんなに共感してもらうことですかね。たとえば「オブラートに包む」って表現法あるじゃないですか。私はその表現法を最初に生み出したひとを、いちばん尊敬していて(笑)。今では一般的になっていますけど、初めてその言葉を使ったひとって革命的にしっくりきたと思うんです。なので歌詞を書くときにも、そういう「オブラートに包む」的なフレーズを探すことを常に意識していますね。

―― ありがとうございました!最後に、有望さんにとって歌詞を書くこととはどんなことですか?

自分のリアルだけを歌っていたときは、日記みたいな気持ちでした。でも今は、聴いてくれるひとがおるって気持ちで作っているので、歌詞は言葉にできない気持ちを収めておける“引き出し”ですね。私自身もそうやし、みんながそれぞれの箱に、今の気持ちを入れておいてくれたらいいなと思っています。

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坂口有望
2nd Album 『shiny land』
2020年2月19日発売
Epic Records Japan
初回生産限定盤(CD+DVD)
ESCL-5330~31 ¥3,818(税抜)

直筆色紙プレゼント

坂口有望の好きなフレーズ
毎回、インタビューをするアーティストの方に書いてもらっているサイン色紙。今回、坂口有望さんの好意で、歌ネットから1名の方に直筆のサイン色紙をプレゼント致します。
※プレゼントの応募受付は、終了致しました。たくさんのご応募ありがとうございました!
坂口有望 Tour 2020 「shiny land」
3月15日(日)@ 福岡DRUM Be-1
3月20日(金)@心斎橋BIGCAT
3月21日(土)@名古屋THE BOTTOM LINE
3月27日(金)@仙台MACANA
3月29日(日)@札幌cube garden
4月3日(金)@恵比寿LIQUIDROOM

坂口有望(さかぐちあみ)

2001年2月20日生まれ。大阪の下町、天王寺出身。ルーツミュージックはチャットモンチー、クリープハイプ、TAYLOR SWIFT。ファイバリットアーティストはRADWIMPS、JOURNEY。高校2年生である2017年7月に、シングル「好-じょし-」でメジャーデビュー。今年大学進学と同時に上京し、大学に通いながら音楽活動中。現在大学1年生。温かくも切ない歌声と、等身大の世界観の中から鋭く切り取られ描かれる歌詞。詩とロックとポテトを愛する、大っきな可能性を秘めながらも、ちょっと小っちゃな18才。