父と母がくれた“ふつうのしあわせ”。

―― 匠海さんは本当にずーっと他者のことを考えていますね。

そうなんですよ。僕自身、北村匠海は生きるのが超下手くそ。だけど、芝居や音楽というフィルターを1枚かませると、のびのびと「任せろ!」と言えてしまうんですよね。この仕事じゃなかったら、何ができていたんだろうとまで思います。バイトもしたことないですし。でも、そういう“普通”を知らないからこそ、「いやいや、言いすぎ!」みたいなことも歌えてしまうのかもしれません。これもまた音楽の力と言えますね。

―― 10曲目「diorama」も、<僕>がひとりでいるシーンが浮かぶけれど、<会社に向かう人 配達してる人 家族を想う人>といった他者が描かれています。

これは僕が実際に見た景色を思い浮かべながら書きました。18歳くらいの頃、とにかく単館映画を観漁るような、映画小僧時代があったんです。そのとき、知り合いの家の屋上で、ファッションシュートごっこみたいなこともやっていたんですよね。

―― それは青春ですね。

サブカル集団の青春でした(笑)。「diorama」の舞台はその屋上です。孤独なひとたちが、肩を寄せ合って、言葉で理解し合おうとしている。みんなすごく優しい。でも、「ここから一歩出て、あなたたち以外のひとと向き合って生きていく自信、俺にはないな」みたいなことを思っていて。だからこそ、あの屋上で過ごした時間はなんとも言えない特別なものだったんです。そういう経験が歌詞のもとになっていきました。

―― 見えている景色や、抱いている感情は18歳のときの匠海さんのものですが、歌詞を書いているのは現在の匠海さん。だから<その笑みが愛だなんて 僕はまだ気付けなくて>とどこか俯瞰的な視点なんですね。

当時も、かなり斜に構えて世界を見ているところがあって、屋上から俯瞰で街を見ていました。高いところから街を見ていると、本当に<ジオラマ>みたいなんですよ。そして、そんな僕をまた、今の僕が俯瞰で見ている。神様視点みたいな感覚がありましたね。あの頃の自分たちを救ってあげたい気持ちもありましたし。今でも悩んだり、落ち込んだりするけれど、人生は結構楽しい。そう思えたから書けた歌詞かな。

あと、「diorama」は<初めて君に言おうと思う>というサビで終わっているのですが、この<と思う>は、DISH//の「五明後日」という曲でも使っていて。自分としては「五明後日」の前日譚みたいなイメージもありました。つまり、「diorama」の<君>とはまた出会うけれど、「五明後日」でお別れしてしまう。そういう悲しみと愛おしさをまとった曲たちなので、同じ人格にしてもいいかなと。ぜひ、2曲を繋いで聴いてみるという楽しみ方もしていただければと思います。

―― 匠海さんが今作のなかで他に、とくに「書けてよかった」と思う歌詞はありますか?

6曲目の「ファンタジーラブコール」は書いていていちばん楽しかったかな。これはかなり昔に僕が作詞作曲したもので、そこから大きく変わってはいないのですが、個人的にも好きな曲で。それを大智と柊生が選んでくれたので、意外でしたし、嬉しかったですね。わりと重たさのある楽曲が多いなか、すごく救われるようなラブソングというか。だから、別れの歌だけれど、そこに悲しさをまといたくなくて。

―― 幸せな夢から覚めたばかりのときのような、ふわふわした感覚になりました。

その表現は素晴らしいかもしれない。それで、「あの夢をもう一度見たいな」と思って二度寝するけど、もう同じ夢は見られないような寂しさも少しあって。何より、どれだけ素の“ありがとう”を届けるかという部分を大事にしたんですよね。歌うときも、ずっと笑顔だったくらいです。

―― この歌でいちばん好きなフレーズというと?

<君がくれた“ふつう”な事を 失くさないようにポケットへ 探してもすぐ見つかるように>ですね。ポケットを使う表現が好きで、芝居上でもよく使うんです。自分のなかに後ろめたさや気まずさがあるとき、心の内を隠す意味合いで、ポケットに手を突っ込む。そういう表現をいつか歌でも使いたいと思っていて。

それで<君がくれた“ふつう”な事>をどこにしまうか考えてみたとき、誰にでも見られるようなところにはしまいたくないし、自分だけが温められる場所がいいなと。じゃあ、ポケットだなと。

話が戻りますが、やっぱり他者のために何かをしたいなら、自分の人生が豊かでないといけない。そのためには“ふつう”を大事にしないといけない。すると、その“ふつう”をどこに設定するかも重要で。たとえば、タワマンの高層階に住んで、毎日ステーキを食べるような生活が“ふつう”だったら、こんな歌詞は書けないはずで。「今日は豚肉が安かったから、鍋でもやるべ」みたいな、ゆるゆるした時間こそが僕にとって大事なんです。

―― それは、3曲目「ごはん」にも通ずる価値観ですね。

まさにそうです。それぞれの価値観があるから、他を否定するつもりはないけれど。僕は両親からの影響が大きいと思います。子どもの頃、習い事もさせてもらったし、僕も弟も普通に学校へ行かせてもらいました。漢字で“普通の幸せ”なんて書けない頃、父と母がくれた“ふつうのしあわせ”。それこそが僕も大事にしたい人生のテーマだなと思うし、そういう気持ちを歌詞に残すことができたなと思います。

―― ありがとうございました。最後に、匠海さんにとって歌詞とはどんな存在ですか?

自分のなかに蓄積されて、溢れるもの。言葉の温かさも怖さも味わってきた10代があって。僕らは言葉を使って誰かとコミュニケーションを取るわけだから、自分の扱う言葉について考えた時代もあって。気づけば、言葉を書く仕事をするようになっていて。じゃあ、どういう言葉を届けたいか、どういう言葉を摂取していきたいか、ずっと考えて考えて、溢れたものが歌詞なのだと思います。そういう自然のサイクルのなかにありますね。

123>

DISH//
6th Full Album『aRange』
2026年4月1日発売
ソニー・ミュージックレコーズ

初回生産限定盤
(CD+Blu-ray+60Pフォトブックレット)
SRCL-13602~04 ¥10,120 (税込)

通常盤 (CD only)
SRCL-13605 ¥3,300 (税込)

完全生産限定 aRange BOX [FC限定]
(CD+Blu-ray+100Pフォトブックレット+aRangeオリジナルグッズ)
SRC8-44~46 ¥12,980 (税込)

完全生産限定 Value Edition [FC限定]
(CD only) ※全収録曲の中から厳選した7曲を収録
SRC8-47 ¥2,200 (税込)

収録内容
直筆色紙プレゼント

北村匠海の好きなフレーズ
毎回、インタビューをするアーティストの方に書いてもらっているサイン色紙。今回、DISH// 北村匠海さんの好意で、歌ネットから1名の方に直筆のサイン色紙をプレゼント致します。
DISH//

北村匠海(Vo/G)、矢部昌暉(Cho/G)、橘柊生(DJ/Key)、泉大智(Dr)の4人組ダンスロックバンド。結成14年目。代表曲「猫」の累計再生回数が10億回を突破し、21年末には紅白歌合戦への初出場を果たした。近年ではメンバー全員が楽曲制作に携わり、精力的なリリース・ライブ活動を続けている。さらに、4人は俳優業やDJ、ソロプロジェクトなど個々でも活動を行っている。
DISH// Official Site