高橋:締め切りが近づいてくると心がザワザワしてこない? 夏休みの最終日に、まだ宿題がたくさん残っているあの感覚。
川崎:非常にわかります。僕はとくに後回しにしてしまうタイプだから。「もうマジで作らないとヤバい!」っていう状態にならないと、着手できない。
橋口:変な話だけれど、そうやって締め切り間近で曲ができるじゃない。あれって、奇跡が起こっていい曲が降ってきてくれたわけではなくて、その瞬間だからこそ、自分が○を出せただけである気がしない?
川崎:ああー、わかる。
橋口:僕は同じメロディー、同じ歌詞を書いても、それがよく見える時間と、ダメな時間があるんですよ。とくに朝はよく見えがちで、自分の曲に対して優しくなることができる。夜は厳しくなる。そして、締め切り前の場合、優しくなり方が顕著な気がして。
川崎:それでいうと僕は夜のほうがよく見える時間ですね。だから朝起きて、歌詞を再確認します。すると大体は、「これはやばい。恥ずかしすぎる。なしなし、昨日の俺なし!」ってなる(笑)。
― 今のお話に通ずるかもしれないので、ここで橋口さんからいただいたトークテーマを。「自分でよく書けたなと思う歌詞を聞いてみたいです」。橋口さんの自分史上最強ソングはいかがですか?
橋口:俺はなんだろう…。自分の手ごたえとまわりからの評価って違うからなぁ。でも「春風」という卒業ソングで<さよならしてはじめて 永遠の意味を知る 人は胸の奥でだけは 時を止められる>というフレーズが書けたときは、「ドヤッ!」って。
高橋:今日いちばん嬉しそうな顔をしましたね。
橋口:書けたときのこと思い出しちゃった(笑)。僕はわりと“言い回しの妙”が「よく書けた」とイコールになっていますね。それって意外と、聴き手には伝わらなかったり、サラッと聴き流されたりしがちなフレーズなんですけどね。書き手としては、気に入っていることがよくあるんです。
― たしかに、テレビ番組などで「いいフレーズ」としてピックアップされるのは、意外と“言い回しの妙”的な部分ではなくシンプルなフレーズだったりしますよね。わかりやすいメッセージというか。
橋口:そうなんですよ。たとえば、優さんの「明日はきっといい日になる」だったら、「サビの<明日はきっといい日になる>が刺さりました」と多くのリスナーが言うと思うんです。でも歌詞を書いている僕らからすると、Aメロで<一人分空いたまんまのシート>にたどり着くまでの筋立てこそがすごい。
高橋:僕も「明日はきっといい日になる」を挙げようと思っていて、めちゃくちゃ共感しながら橋口くんの話を聞いていました。自分だけの手応えって大事にしていかなければいけないよね。やっぱり「愛している」とか、ストレートでキャッチーなところが取り上げられがちじゃん。
橋口:<ひとりじゃない>とか。
高橋:ね。でも、僕らは「どうせ伝わらないからやめよう」じゃなくて、「実はここがいいんだよな」ってこだわって書かないと。曲は自分の子どもみたいなものじゃないですか。ずーっと付き合っていく相棒でもあるし。自分自身のお気に入りフレーズって、絶対に大事。鷹也くんの自分史上最強ソングは?
川崎:僕は、僕自身シンガーソングライターとしてやるべきことは、“人生を歌うこと”だと思っているんです。今は、結婚して子どもが2人いますけど、そのときにしか書けない歌詞がいっぱいあって。そんななか、卒業ソングである「春がくる」に書いた<困難が有ることに感謝して学べ>というフレーズは、親になった自分だからこそのメッセージを落とし込むことができたなと。「ああ、親父やな、俺」みたいな。
高橋:それいいなぁ。
川崎:栃木から東京に出てきて、「売れたい」とか「大きなところでライブをやりたい」とかそういう気持ちだけに突き動かされているときだったら、絶対に書けない歌詞だったと思います。俯瞰して自分を見つつ、自分の子どもに向けている。そういう点で、ちゃんと“シンガーソングライター”であることを実感できた曲ですね。
橋口:自分が抱いたその時々の気持ちを、丸ごと落とし込めるのもシンガーソングライターの醍醐味ですよね。優さんは自分にとってのいい歌詞、どうですか?
高橋:今、“シンガーソングライター”ってワードが出ましたけれど、僕もデビュー当時に“リアルタイムシンガーソングライター”と言われて。とにかく「今思ったことを歌う」と15年間やってきたなかで、ついに「リアルタイムシンガーソングライター」という曲を書いたんですよ。で、僕はドリフターズさんが大好きなんですけど、<ババンバ バン バン バンいい湯だな アハハン>って歌、知っている?
橋口・川崎:うんうん。
高橋:あれを歌詞にしたくて。というのも、「リアルタイムシンガーソングライター」で僕が歌いたかったのは、この年齢になって、現状に満足しそうになっている、守りの体制に入りそうになっている、そういう自分がイヤだという気持ちだったんです。「このままじゃダメだ。自分を変えていかないといけない」と気づいたからこそ、ぬるま湯に浸かっていることを皮肉に表現したかった。そこで、ドリフターズだ!と。
橋口:うわー、今のテーマと歌がハマったとき、ものすごくテンション上がりそう。
高橋:それで「リアルタイムシンガーソングライター」では、サビ前に<バーバンバーバンバーバンビバンドンドン 良い湯だな アハハ>と、思いっきり入れました。僕は皮肉っぽい歌詞も好きだから、あれは書けて嬉しかったな。あそこだけテンポが変わるし、ややこしい曲でやるのも大変だけど、そこがまた自分らしいし。この曲を機に、ぬるま湯から上がって、さらに激熱の日に突っ込んでいこうという決意ソングですね。
橋口:この曲は、いちばん最初に「ぬるま湯に浸かっているこんな自分じゃイヤだ」というテーマがあったんですか? それともドリフターズを入れようと?
高橋:いや、そもそもこの曲はあきたこまち40周年記念のタイアップソングで。
橋口:ああ!そうだわ! タイアップに使われている部分だけしっとりといい曲で、そのあとに豹変するんだ。聴いていて、「ええー!」ってビックリしたもん。
川崎:そうだそうだ。
高橋:最初はメロから作った気がする。歌詞は仮で“ラララ”にしておいて。だから、あれを採用してくれた“あきたこまち”さんがすごいんですよ。最初に、「高橋さんの書く曲だったら何でも使います」と言ってくれたの。それで、「何でも? 本当に?」って思いっきり書きたいことを書いちゃった。でも橋口くんが言ったように、「しっとりした部分だけをCMに起用していただいたら、多分いい感じになります」という言葉を添えて(笑)。
橋口:え、じゃあ最初は“あきたこまち”をテーマにタイアップソングとしてしっとりした歌詞を書いて、そのあとに改めて別のテーマも加えたんですか? どうやったらあの曲ができるのかわからない。
高橋:えーっとね、「いろんなものを詰め込んでみよう」ということをまずコンセプトにしたの。僕はよくフェスを観るんだけれど、カッコいいアーティストってちゃんとそれぞれの色があるんだよね。強みというか。川崎鷹也もwacciもそう。その点、高橋優は謎なんですよ。多重人格。しっとりと歌っていたかと思ったら、血眼になって歌って、そのまま終わって、「なんだあいつ」みたいな感じになって、全然ファンいなくなっちゃう。
川崎:そんなことはないでしょう(笑)。
高橋:要はしっかり色を統一しないまま15年やってきているのは、自分の弱みかもしれないなと思ったこともあるわけ。でも、待てよと。たとえば、しっとりした曲を歌い始めたひとが、途中から急にヘヴィなロックをやり始めたら、おもしろいかも。逆に超パンクなひとが、いきなりギター弾き語りをしても泣けるかも。そんな想像をしまして。それを1曲のなかで表現したくなったんです。色がわからない自分ならではの1曲というかね。
橋口:おもしろいなー、それが最初のコンセプトだったんだ。
川崎:優くんの多面性は本当にすごいなと思っています。それこそ「明日はきっといい日になる」と「リアルタイムシンガーソングライター」ってまったくテイストが違うじゃないですか。自分は作詞をしていくなかで、「これは川崎鷹也っぽくないかも」という気持ちが出てきてしまうんですよ。すると、楽曲提供のほうにまわしたり、自分が歌わないようにしたり。よくも悪くも“川崎鷹也っぽい”世界観を意識してしまう。
高橋:ああー。
川崎:でも、優くんの場合は、いろんな高橋優が出てくるから、聴いているほうも楽しみなんですよ。タイトルからも読めない。再生ボタンを押すまで、「どの高橋優が出てくるんだろう」みたいな。しかも何が出てきても当たり。それってすごいことだと思います。
橋口:しかも、ひとつではないにしても、ちゃんと高橋優カラーってあると思います。たとえば、社会に対する怒りとか、アンチテーゼみたいなところも歌ってくれた上で、希望や前向きな言葉をくれる。だからこそ歌に説得力がある部分とかね。
高橋:いやー、ありがとう。だけど、橋口くんも鷹也くんも楽曲提供をしているでしょう。楽曲提供をさせるということは、やっぱりそれぞれの色があって、それを求められているわけじゃないですか。で、高橋優に依頼してくださる方もたまにいるんですけど、「俺の色ってどれだろう?」って思うのよ。自分でも何が出てくるかわからないところがずっとある。ちなみに、提供楽曲と自分の曲、結構すみ分け違う?
川崎:僕はかなり違いますね。
橋口:「曖昧Blue」か。
川崎:そうなんです、「曖昧Blue」はもともと楽曲提供をするつもりで書いていたんです。自分が歌うテーマとしては、アダルトすぎるし、かなわない恋を描いているので、俺にとってのリアルな歌詞ではないので。だったら、大人な女性アーティストが歌ったほうが映えるなと思って、まだ依頼もされてないのに、女性アーティストを想定しながら書きました。最初から自分で歌うつもりだったら、あの曲は書けてないと思います。
高橋:今後、「誰かに書こうと思ったけれど、やっぱり自分で歌おうかな」みたいなパターンはありそう?
川崎:どうなんですかね。「曖昧Blue」だけな気はします。だから提供楽曲を書いているときのほうが楽しいまでありますよ。何にでもなれるじゃないですか。本来の自分だったら、経験したことないし、思わないことだろうけれど、「こういうひともいるだろうな」みたいな。仮の世界で主人公になりきって曲を書ける。
― 逆にwacciの楽曲は、“主人公になりきって歌う”ものが多い気がします。
橋口:そう。僕は実体験をあまり書きません。
高橋:鷹也くんと真逆だ。
川崎:女性目線の歌詞も多いもんね。
橋口:僕はほとんどお話を書くようにラブソングを書いている気がしますね。応援歌はまた別だけれど。
― ただ、橋口さんは以前、応援歌が苦手だとおっしゃっていましたよね。すると、ご自身の気持ちを歌にすること自体が得意ではないのでしょうか。
橋口:というより、序盤で僕のネガティブの話題が出ましたけれど、自己肯定感が低いわけですよ。
高橋:本っ当に低いよね。
橋口:とにかく低い。そんな自分が誰かに「大丈夫」と言えないというか。「まずお前が大丈夫じゃなくない?」という話で。
高橋:体調から整えないと(笑)。
橋口:そうそう。僕にとってのリアルな応援歌となると、「よく食べて、よく寝て」みたいな歌になってしまうから難しくて(笑)。しかも応援歌って、言い回しの妙があまり効かないんですよね。わりと王道のフレーズがサビに来る。だから、自分にとっての書き応えも弱い。それでも後悔がないように、ものすごく時間をかけて書く感じなんです。その点、ラブソングは最初の一歩が決まれば、バーッと物語を書くことができるところが好きです。
― 優さんは、フィクションとノンフィクションのバランスっていかがですか?
高橋:いやー、わからないんですよね。今、おふたりの話を聞きながら、橋口くんも鷹也くんも自分をしっかり俯瞰できているんだなと思っていました。自分を入れているつもりではあるけれど、あれが100%自分かというと、必ずしもそうではなくて。たとえば、「ボーリング」とか<面倒臭ぇ!>って言いたいだけで書いちゃったし。「この言葉は音がいい」みたいなときもあるし。かと思ったら、筆が乗って感情むき出しなときもあるし。
橋口:いちばんアーティスティックだ。
高橋:よく言えばね。でも、営業家としては0点よ。何が出るか自分でもわからないんだから。楽曲提供にしても、「自分としてはこういう思いです」というものはもちろんあるけれど、求められているとおりにできている自信はない。
川崎:ああー、なるほど。
高橋:あきたこまちの前にも、秋田県冬の大型観光キャンペーンのテーマソングの依頼があったんですよ。スキーをしている爽やかな映像とかが流れて、「こういう感じの曲をお願いします」と。それで俺が書いたのは、「BRAVE TRAIN」というマイナー調の激しい曲で。実際にそれを使っていただいているから、正解かどうかはわからないけれど、「今、僕に表現できるのはこれです」って出し続けるしかない。それは僕の足りないところを補ってくれるスタッフたちのおかげで成り立っているし、のびのびやらせてもらっているなぁと思いますね。