『世にも奇妙な物語』のように、ひとつ扉を開くたび新しい景色が…。

―― アルバムタイトル『DOORS』というワードには、どのようにたどり着いたのでしょうか。

アルバムのタイトルって、年中ずっと考えているんですよ。収録曲がまだ固まっていなくても、「いろんな想いをすくい上げられる、いい言葉はないかな」と。その“いつか使いたいワード”候補のひとつに『DOORS』がありました。この言葉は、シンプルで強くて、誰でも知っているからこそ、つけることに少し迷いもあって。「本当に大丈夫かな」と1年くらい自問自答していたんです。

でも、きっとデビュー当時にはつけられなかったタイトルだと思います。若い頃の『DOORS』だったら、「新しいひとつの扉を開ける」という意味合いだったでしょうけど、デビュー25周年のタイミングなら、いろいろな扉を開け続けている姿を想像してもらえるんじゃないかなと。改めて、今だからこそつけられたタイトルですね。他にも候補はいろいろあったんですけど、それはまたいつか。

―― ちなみに、他にはどんなタイトル候補が?

ひらがなも新しいかなと思って、「とまりぎ」とか。いろんなひとの止まり木になるような音楽を作りたい、という思いで考えたのですが、ネットで検索したらカフェの名前がいっぱい出てきて(笑)。「たしかに、カフェ感が強いな」と思ってやめました。

候補の言葉が浮かんだら、その意味合いやイメージを必ず調べるのですが、『DOORS』は本当に幅広く使われていて、いろんな会社の名前にもなっている。それだけ大きな言葉なんですよね。今回のアルバムはバリエーション豊かな10曲がそろっていて。『世にも奇妙な物語』のように、ひとつ扉を開くたび新しい景色が広がっている。そんな作品にふさわしいタイトルだなと思います。

―― アルバムの入口に「 ~DOORS ver.~」を置いたのは、どういった意図でしょうか。

この曲は私にとってかなり挑戦だったんです。メロディーや歌詞には、昭和歌謡を彷彿とさせる太い軸がありつつ、キャッチーさもある。そこに呼び起こされるアレンジにした場合、いなたいロックバラードのようになって、それはそれでよさがあったんです。だけど、今回はもう少し新しさが欲しくて。

そこで、あえてジャジーなサウンドやエキゾチックなストリングスを加えていただきました。そういった新しい挑戦が詰まった曲なので、1曲目にすることで、「これまでの矢井田 瞳とはまた違う入口だ」と感じてもらいやすいかなと。

―― この歌の歌詞は、説明をしすぎてない印象があります。<誰にも話さない 私だけの真実>だからこそ、あえて真実には深く触れないのかなと。

そこに気づいていただけて嬉しいです。おっしゃるとおり、実はこの曲、核心にはまったく触れていません。何か出来事があったとしても、その上澄みだけをすくい取ったような歌詞にしているんです。“嘘”がテーマの曲なのですが、人生で一度も嘘をついたことがないひとはいないはず。聴いたひとそれぞれが、自分の過去の嘘や、恋人とのすれ違いなどを思い出せるよう、あえて余白をたくさん残しました。

―― とくに<自由を目の前に 戸惑って逃げ出した あの日の涙は 美しい嘘でした>というフレーズの余白も綺麗だなと思いました。

自由に対する怖さって、はっきり言葉では表しづらいけれど、たしかにありますよね。学生時代は、みんな自由を目指して進んできたはずなのに、いざ近づくと急に怖気づいてしまう。その感覚を、ゾクゾクするサウンドも相まって表現できたと思います。

―― そこから「アイノロイ」につながる流れもいいですね。この曲が主題歌のドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』観ていましたが、主人公の感情がものすごく歌詞にリンクしていたのを覚えています。

素敵なドラマでしたよねぇ。この歌詞は、『ゆりあ先生の赤い糸』の原作マンガを読ませていただいて、そこから得た景色や感情をベースにしつつ、40代女性としての自分の人生も重ねて書きました。カッコ悪いところも含めて出したほうが共感してもらえると思って。<もっとがんばりたい だけど何をどうがんばればいいの>という歌詞のとおり、頑張り方がわからなくなることって、大人でもありますから。

―― “愛”と“呪い”が表裏一体であるという発想はどこから?

マンガのなかに、「愛情なのか呪いなのか」というセリフがあって、とても素敵だなと思ったんです。天国と地獄、表と裏のように、両極端なものは背中合わせであることが多いですからね。ただ、歌詞に落とし込む上で、「愛」「呪い」と漢字で書くとおどろおどろしくなってしまうので、あえてカタカナにして、記号のように軽く届くようにしました。<ノロイ>の部分もメロディーを軽快に乗せて歌っています。

―― そして3曲目「sigh sigh sigh」は、ギターリフから作っていったのですよね。

「とにかくめっちゃいいギターリフを作りたい」という初期衝動がきっかけでした。早弾きや難しいポジションのものではなく、ギター初心者でもウキウキするようなリフ。軽音部員なら誰もが通るであろう、弾きたくなるリフ。たとえば、Extremeの「More Than Words」とか。そういう魅力的なリフは世界中にあって、「私も簡単だけどグッとくるリフを残したい!」という思いで作りましたね。

―― では、歌詞もそのギターリフから引き寄せられてきたのですね。何かが解決するわけではなく、イライラモヤモヤしたまま終わっていくのが、非常に人間らしいなと。

そうなんです。不揃いなままだったり、膿んだままだったり、解決しないで終わる作品が好きで。映画でも「あ、終わった」という感じのほうが余韻は長いと思っていて。この歌詞にもそういう感覚が出ているかもしれません。

―― 8曲目「クジラの胃」はとくにインパクトのあるタイトルです。どのように生まれた楽曲なのでしょうか。

この曲の説明をすると、不思議ちゃんみたいになりそうで心配なのですが(笑)。自分の存在が点や泡のように小さくなって、いろんな場所を冒険する。そんなイメージをすることってないですか?

―― なるほど。何者でもない分子まで分解されていって。

そうそうそう。クジラはプランクトンをすーっと吸い込みますよね。その一粒が自分で、クジラの胃のなかを冒険して、また外に吐き出される…。何者でもない、何万匹分の1の存在になってみたい。そのほうがいろんなところへ飛んでいけそうな気がするなぁ、という思いから生まれた楽曲ですね。

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矢井田 瞳
13th Album 『DOORS』
2025年8月20日発売
日本コロムビア

初回限定盤 (2DISCS:CD+DVD)
COZP-2192/3 ¥4,950 (税込)

通常盤 (CD)
COCP-42519 ¥3,300 (税込)

CMS限定盤 (「DOORS」 初回限定盤CD+DVD+Tシャツ)
¥8,950 (税込)

CMS限定盤 (「DOORS」 通常盤CD+Tシャツ)
¥7,300 (税込)
収録内容