大切なあなたの“普通”を彩りたい。全13曲入りニューアルバム!
 2025年8月6日に“センチミリメンタル”が2nd ALBUM『カフネ』をリリースしました。今作には、アルバムリード曲「ゆう」をはじめ、聴く者の心に寄り添う全13曲を収録。インタビューでは、歌詞の世界観や創作の背景についてじっくりお話を伺いました。他者の言葉から得た気づきとともに変化し続ける歌詞の軌跡。自身にとって“大きな化け物”のような存在である愛へのまなざし。そして“普通”を彩りたいという願いを込めたラブソングでの、新たな挑戦にも注目です。今作と併せて、歌詞トークをお楽しみください。
(取材・文 / 井出美緒)
ゆう作詞・作曲:温詞you何年先でもずっと
日々を分け合えますように
何回生まれ変わっても
またそばにいられるように
だから
もう生けてはいけないような
残酷な悲劇の中も
終わりを選ばずに
生きていてくれてありがとう
生まれてきてくれてありがとうもっと歌詞を見る

ああ、そうか、俺はキモいことを書けばいいんだ。

―― 温詞さんにはこれまで多くの歌詞エッセイを「今日のうた」で執筆いただいております。そのなかで、「昔から、心の動きを言葉にするのが好きだった。題名の付けられていないピアノ練習曲たちに、ひとつひとつ題名をつけていた」と綴られていますが、最初に惹かれたのは音楽と言葉、どちらからだったのでしょう。

記憶は曖昧なのですが、どちらからというわけでもなく、この世にまだないものを新たに生み出す瞬間が好きだったのだと思います。親からは、「保育園の頃にはもう自分で絵本を作っていた」と聞きました。作曲も小さい頃からやっていましたし、絵や物語、文章を書くのも好きで。ものづくり全般に惹かれていたのかもしれません。

―― 何かきっかけがあるわけではなく、遊びのように自然とものづくりをされていたのですね。

はい、小学生の頃にはポエムも書いていました。最初に書いたのは、「庭にオクラが咲いた。いつ食べられるか楽しみだ」みたいなかわいいものですけど(笑)。とくに覚えているのが、小学4年生ぐらいで書いた「コスモス」というタイトルのポエムで。1行目「枯れました」から始まっているんです。のちに自分で読んでみて、「花のポエムなのに“枯れた”から入るっておもしろいな」と。

今、改めて紐解いてみると、当時から自分らしさが出ているんですよね。“花”というと、どうしても“咲く”ほうに目が行きがちですけれど、やがて“枯れる”ことは避けられないじゃないですか。だからこそ、“咲く意味”を見出したり、“咲いた先につながっているもの”を考えたり、物事の裏側まで考えたい。まだ幼いながらにそういう意識があったのだと思います。だから僕の歌詞の原点には多分、当時のポエムがありますね。

―― もう小さい頃から、「自分は何かしら表現をする道に行くのだろう」と思っていましたか?

Photo by Tetsuya Yamakawa

もともとクラシックピアノをやっていたので、ピアニストになりたいとは思っていたんですよ。ただ、クラシックは、すでに完璧な答えのある譜面という枠から逸脱してはいけない。一方で僕は歳を重ねるにつれて、自我が強くなって。となると、コンクールでも審査員の評価が割れて、結果が平均点になってしまうことが増えて。次第に、「自分の肌には合わないかも」と思うようになり、必然的に自分で0から作る道へ行ったのかなと。

―― そんな温詞さんの音楽人生を揺るがしたのは、小学5年生の頃、ドラマ『1リットルの涙』を観ていて、レミオロメンの「粉雪」が流れた瞬間だそうですね。

自分で歌を作るようになった、大きなきっかけですね。クラシックばかり聴いていたなか、「こんなに自由で、ダイレクトに伝わる音楽があるんだ!」って心を打ち抜かれた感覚でした。音に言葉が乗ることで生まれるメッセージ性の強さ、それを人間が一生懸命に歌っているエネルギーの大きさ。そのとき受けた衝撃は、未だに自分のなかに残っています。そこから少しずつ、歌づくりの方向へ呼ばれていった感じですね。

―― そこからポエムではなく“歌詞”というものを書くように?

そうですね。中学生の頃から、ピアノとポエム、それぞれ独立していた表現がひとつになりました。たとえば、下校の歌を書いた記憶があります。同じ帰り道の友だちがいて。でも絶対にどこかで別れるわけじゃないですか。僕と別れたあと、違う道を歩みながら、その子はどういう表情をしているのか、どう過ごしているのか。また明日も会えるけれど、なんとなく毎日別れるたびに寂しく思う。そんなことを歌にしたくて。

―― 「コスモス」のポエムもそうですが、すでにどこか“センチメンタル”な雰囲気が漂っていますね。

小さい頃から、センチメンタルな部分に対するアンテナが敏感だったのだろうと思います。だからこそ、「この気持ちを作品に残しておきたい」という欲求につながったのかもしれません。

―― 温詞さんにとって、曲に歌詞をつけるというのは、どんな感覚なのでしょう。

腑に落ちる感覚が近いかな。抽象的なもの、ぼんやりしたものたちに、ちゃんと輪郭をつけてあげたい。小さい頃、ピアノ練習曲たちに題名をつけていたのも、そういう動機なのだと思います。言葉にして初めて、「ああ、こういう気持ちだったのか」と、自分で納得できたり、受け入れたりできる瞬間があるんですよ。

―― 活動を続けていくなかで、歌詞面で“センチミリメンタルらしさ”が確立されたと感じたタイミングというと?

「温かい音楽で在りたい」とは思いながら、自分が歌う意味をずっと探し続けていたのですが、明確に世界観が固まったのは2015年あたりですね。センチミリメンタルはもともとバンドとしてスタートしたものの、紆余曲折ありました。そんななか、まったく別のアプローチで音楽を作りたくて、ソロプロジェクト“ねぇ、忘れないでね。”の活動を始めたんです。そこでの学びや気づき、出会いや別れ、視点の変化などが僕の核になったなと。

―― 歌詞エッセイにも、「“人は遠回りに心動かされる”という持論」の変化について綴られていましたね。

「“愛おしい”や“悲しい”といった感情を、いかに他の言葉でうまくぼやけさせて描けるか」ということが素晴らしい表現だと思い込んでいた時期があったんですよね。それは今でも大事にしている部分でもあります。ただ、ねぇ、忘れないでね。の活動を経て、まっすぐに言葉を伝えることにもパワーがあることを受け入れるようになった。今作の収録曲もストレートなものが多いですし、年々、シンプルな歌詞に惹かれるようになっている自分がいます。

―― 今、“センチミリメンタルらしい歌詞”を言語化すると、それはどんなものだと思いますか?

以前、サポートミュージシャンのギターの子に、「温詞さんの歌詞って、キモいですね」って言われたことがあって。

―― キモい、ですか。パッと聞くと、ひどい言葉に感じられますが…。

そうですよね(笑)。褒め言葉ではないじゃないですか。でもよく訊いてみると、「自分が触れてほしくないから隠しているところ、蓋をしているところまで深く入り込んできて、肯定してくれる。その包み込まれる感覚が怖い。必要以上の優しさを感じるから、気持ち悪いと思います」と、どちらかというと肯定的な意味で言ってくれていて。

それを聞いて、「ああ、そうか、俺はキモいことを書けばいいんだ」って気づかされたんです。たしかに歌詞って、日常会話で言葉にしたらちょっと痛いこと、恥ずかしいこと、許されないことを表現しても、受け入れられるんですよね。みんなが心の奥底に隠している、口にできないような本音で、共鳴し合えるひとつの逃げ場というか。集合場所というか。そういうものを書き続けていくことが僕らしさだなと思います。

―― もしかしたら、その“キモい”は、“気持ちいい”にも近いのかもしれませんね。

まさに。「それ言わないでほしかったな」という気持ちと、「誰かに言ってほしかった」という気持ち、矛盾するけれど重なり得るものだと思うんです。だからこそ、「心のそんなところまで触れてくるんだ」という生々しい部分に、常にリーチしていきたいなと。自分のなかだけに閉じ込めていてドロッとした気持ち悪い感情も、臆さずに表現できることが、今のセンチミリメンタルらしさですね。

―― 今、お話を伺っていても、過去のエッセイを拝読していても、温詞さんの音楽に他者の言葉が、大きな気づきや影響を与えていることがわかります。

そういう瞬間がものすごく多いですね。相手にとっては何気ない言葉だと思うのですが、そのひとことで僕の人生が変わるという経験を何度もしていて。それこそ先ほどの「キモい」にも救われましたし。

―― 誰かの言葉がご自身に刺さるそのポイントって何でしょう。

何だろう…。その言葉の裏側、本質まで考えたくなるかどうか、かな。たとえば、自分の音楽を世間にまったく見つけてもらえず、評価されなかったインディーズ時代に、「でも温詞くんなら大丈夫だよ」というひと言がものすごく救いになったことがあるんです。そのとき、「別にいきなり人気が出たわけでもないし、これからうまく行く確証もないのに、どうして俺は今こんなに救われる気持ちになったんだろう?」と考えたくなって。

ただ「大丈夫」と言われて救われた気がしたこと。そして、今度は自分も「大丈夫」と言う側になりたいということ。その気持ちをそのまま歌にしようと思いました。前作アルバム『やさしい刃物』のいちばん最後に収録されている「リリィ」はその出来事がきっかけで書いたんです。そうやって他者の言葉について考える時間自体が好きで。人生の歯車が動き出す瞬間、その最初の一音を作品に残したいなと思っているんですよね。

123