『言葉の達人』とは、作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、など【作詞】を行う方々が独自の作詞論・作詞術を語ってきた歌ネットの人気コーナー。2018年には、スペシャルバージョンの特集で“男性作詞家3人”の座談会をお届けしました。そして今回は、その第2弾として“女性作詞家3人”の座談会を敢行! ご登場いただいたのは、MEG.MEさん、中村彼方さん、山崎あおいさんです。歌詞愛好家の方も、作詞家を目指している方も、3人の歌詞トークをじっくりとお楽しみください。
(取材・文 / 井出美緒)

― 今回はMEG.MEさんから、中村彼方さんと山崎あおいさんにお声かけいただき、この作詞家座談会が叶いました。おふたりを選ばれたのはどのような経緯だったのでしょうか。

MEG.ME:まず、作家同士が集まる機会ってなかなかないんですけど、私はわりと横の繋がりがあるタイプで。10年前ぐらいから女性作家だけで集まる会などを行なっていたんです。それがコロナ禍でいったんすべてなくなった。だけど、昨年久しぶりにJCAA(日本作編曲家協会)の忘年会がありまして。「そういえば私、こうして作家さんたちと喋ることや話を聞くことが好きだったな」と思い出し、歌ネットさんと何かできないかなと。

そして、この作詞家座談会の企画をいただいて。いつも集まっているような友だちを呼ぼうかとも考えたのですが、せっかくの機会なので私がお話してみたい作詞家の方をお呼びできたらなと思ったんです。

彼方あおい:ありがとうございます!

MEG.ME:あおいちゃんは、作家の飲み会でお会いしたことがあったり、同じアーティストさんのアルバムに楽曲提供をしていたりという繋がりがあって。SNSとかもいつもチェックしています。彼方先生は、お子さんがいらっしゃって、育児と作家業を両立なさっていて、すごいなぁと。しかもK-POPの代表作を書かれていて、知らないひとがいない。おふたりとも、もっと仲よくなりたくて、今回お呼びしました。

― あおいさんと彼方さんは、それぞれの歌詞にどのような印象がありますか?

あおい:おふたりとも大先輩で、昔から楽曲を聴いていました。彼方さんは、今いろんなひとがK-POPの歌詞を書いていますけど、“日本語でK-POPを作る”という最初の形を作った方という印象がありますね。MEG.MEさんは、「この歌詞、気持ちいいなぁ。口触りがよくて歌いたくなるなぁ。誰の作詞だろう?」と思って調べると、「あ、MEG.MEさんだ!」ということが多くて。すごく尊敬しているおふたりです。

彼方:あおいさんの歌詞は小説みたいだなと感じます。起承転結がしっかり作られていて、考察のしがいがある。曲を聴いたあとに、歌詞をじっくり読むと楽しみが二重、三重にあるんですよね。MEG.MEさんの歌詞は、あおいさんがおっしゃっていたように、とにかく耳障りがいい。メロディーと言葉が接着剤でくっついているかのようで、音と一緒に生まれてきた歌詞なのだろうなということがわかります。耳に美味しいですね。

― ここからは、みなさんから事前にいただいたテーマをもとにお話していければと思います。

中村彼方からのQ

作詞家というお仕事にたどり着いた経緯は?

あおい:多分、私がいちばん多いパターンだと思います。最初は、作詞家や作曲家という職業を詳しく知らず。もともとシンガーソングライターとして活動していたんですけど、歌うことより作るほうが好きで。さらにアイドルも好きで。「いつか楽曲提供をやりたい」とまわりに言い続けていたんです。そうしたら、少しずつチャンスをいただけるようになって、気づいたら楽曲提供が多くなっていたという感じですね。

彼方:シンガーソングライターの活動のきっかけというと?

あおい:YUIさんが大好きで。ギターを弾いて歌うスタイルに憧れて、真似するところから始めました。そしてオーディションに出て、18歳ぐらいのときにデビューしました。そこから、楽曲提供をやりたいと思い始めた時期ぐらいに、喉を壊して活動休止して。そんななかで、「いろんな憧れのひとに会いたい」と言って、連れていっていただいた飲み会でMEG.MEさんに出会ったのを覚えています。

MEG.ME:いちばん最初にお会いしたのは、そのシンガーソングライター期でしたよね。だから、あおいちゃんはあおいちゃんの歌を歌っているイメージが強くて。今は作家としていろんなアーティストの方々に楽曲提供もしていて、そのアーティストさんの匂いもしっかりするけれど、「ああ、あおいちゃんの歌詞だ」って思います。

彼方:私は珍しく最初から作詞家を目指していました。中学高校ぐらいから歌が大好きで。当時、8センチCDのシングルがあったじゃないですか。今では考えられないんですけど、TSUTAYAとかに歌詞カードのコピーが、「ご自由にお取りください」という感じで置いてあって。それをランキング順に片っ端から持って帰って、歌詞を書き写していたんですよ。アイドル、シンガーソングライター、バンド、ジャンル問わず。

MEG.ME:すごい!

彼方:そうやっているうちに作詞家という職業を知って、「この仕事をやりたいな」と思うようになっていって。ただ、長崎の田舎出身なので、まわりに音楽で生活しているひとなんて誰もいないわけですよ。作詞家になる方法もわからないし。夢のまた夢で、想像すらつかない。それでも、「とにかく東京に出なきゃ」と上京してから、徐々にいろんな横の繋がりができていって、道が開けていった感じです。

MEG.ME:学生時代の純粋な研究が実を結んだんですね。彼方先生は、本当にオールジャンル。そして歌詞を読んだあと、絵本を読んだかのような感覚になるんですよ。小説ほど具体的に「〇〇が~をしました」という説明するものではなく、絵として歌が見えてくる。ものすごく色彩感があるなと思います。

― 当時、彼方さんがいろんな歌詞を書き写していくなかで、とくに影響を受けたアーティストや作詞家の方はいらっしゃるのでしょうか。

彼方:かなり雑食だったので、特定の誰かの影響はないかなぁ。言葉遊びの感覚でした。たとえば、ある曲から拾ってきたワンフレーズを、別の曲のワンフレーズと繋げていくという連想ゲームをしたり。ただ、歌詞を書く上で、必ず五感を刺激するワードを入れようという意識は生まれていった気がします。MEG.MEさんがおっしゃってくださったように、色とか匂いとか、情景が浮かびやすい言葉を。MEG.MEさんはどのように作詞家に?

MEG.ME:私はどちらかというと作曲が主体で。小さい頃から、映画の劇伴を作りたかったんです。親がエレクトーンの先生で、よく『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』の曲を弾いてくれて。自然と映画のなかで鳴っている音楽に惹かれていきました。そこから作曲の先生を紹介していただいたりという縁があって、作曲をしっかり勉強して。一方で、歌詞はまったくの素人でした。小学生の頃に自分で詩を書いていたぐらい。

そして、あおいちゃんと同じくシンガーソングライターとしてデビューさせていただき。その何年後かに音楽事務所にグループで所属して。そのグループでは一切、作詞をしたことはなかったし、あまり評価を受けることがなかったので、「向いてないのかなぁ」くらいに思っていました。それが、事務所でコンペをいろいろ出しているうちに、曲ではなく歌詞が通ってしまった。それで調子に乗ったのがきっかけで、今に至ります(笑)。

彼方:意外といろんなパターンがありますね。作家事務所に書類を出して、所属してという正規のパターンもあれば。「やってみない?」というチャンスに乗ってみたり。人脈から繋がっていったり。

MEG.ME:うん。とにかくいろいろ行動していたほうがいいね。なんでも糧になる気がします。

MEG.MEからのQ

自分の作詞の進め方、パターンや傾向はありますか?

MEG.ME:作詞家という職業はオーダーをいただいて、その内容に沿ってお作りしていくじゃないですか。私の場合は曲を聴きながら、まず主人公が男性なのか女性なのか、性別は決めないほうがいいのか、はたまた人間じゃないのか、イメージをしていきます。そして書く前に、自分のなかでの物語も作ります。「もしこの音楽でMVを作るとしたら、こういうふうになるだろうな」という絵を想像するんですよ。

彼方:まったく一緒です! ビジュアル的なイメージから作ります。

MEG.ME:電車に乗っているときも、曲を聴きながら勝手にMVを撮っている気持ちになる(笑)。自分が主人公になって。カメラワークを道端のひとに向けてみたり、誰かの顔をアップにしたり、引いたり。

彼方:わかる。だからよく間違えて違う駅で降りたりします。現実で生きられないですよね。

あおい:私もビジュアルのイメージから作りますね。主人公の設定を、「何歳でどういうひとで」とか決めるというよりは、たとえば、「ひとりで家に帰ってきて、冷蔵庫を閉めたシーンから始めよう」みたいな。

MEG.ME彼方:あ~!

あおい:あるシーンから始まって、そこから流れ出す音楽や言葉がどんな感じだったら、その物語にスッと入っていけるかを考えながら書き出すことが多いです。自分の楽曲も提供楽曲も。多分、ダンスミュージックとかだったらまた違いますよね。

MEG.ME:ダンスミュージックだったら、踊りながら作ります(笑)。指を鳴らすとか、かかとを鳴らすとか、歌詞に書くことを実際にやってみる。最近は振り付けを想像して、ワード出しをしていくことも多いかな。

あおい:「ライブでここを抜かれるだろうな」とか、「ここが決めポイントになるだろうな」とかも想像しますよね。

MEG.ME:絶対する!

彼方:そう考えると、昔の作詞家さんとは結構、違う作り方なのかもしれないですよね。

MEG.ME:踊って作ってはないだろうな(笑)。昔は、もうちょっと文学的に掘り下げていく感じだっただろうし、情景描写も今より具体的だし。最近はやっぱりダンス系が多いから。

彼方:あと、デモ音源に入っている仮歌詞が英語のときあるじゃないですか。その英語のノリや歌詞の立ち方が、曲のフロウを作っていたり、大事なアクセントだったりするので、損なわないようにしないともったいないなと。作曲者の方が狙っているところだから。そこは作曲者の方へのリスペクトも込めて、空耳的になぞるように作ることも心がけています。私は自分で曲を作れないからこそ、守りたいところですね。

あおい:作曲家目線だと、彼方さんのように受け取ってくださる作詞家さん、ありがたいですよね。

MEG.ME:そうですね。言葉の響きを大事にするクライアントさんが多いですし。とくに、外国の曲とかは、意味がわからなくても、ワードが音楽として成り立つところを重視するから。

― 提供先のアーティストさんのことはどれぐらい見ますか? そのひとが普段、発している言葉だったり、考えていることだったりは、歌詞を書くときにかなり影響するものなのでしょうか。

あおい:時と場合によりますね。「この子が発信しているもので曲を作りたい」という趣旨の制作だったら、事前に会わせていただいて、ご自身の思想や言葉を聞いて、それを歌詞に落とし込んでいく。逆にちょっと離れた目線から私が、「本人は気づいてないだろうけど、こういう曲が素敵で似合うと思う」とか「こういう言葉でファンの方が湧くと思う」という提案をしたい場合もあるんですよね。

彼方:私はできる限りの情報を見るかもしれません。というのも、手がける作品がキャラクターソングの場合が多くて。生身の人間の方が歌う場合でも、キャラソンとして捉えている気がします。だから、SNSもそうですし、今までの傾向も確認する。ひとつ前の作品がどういう感じのものだったか、とか。シングルなのか、カップリングなのか、アルバムなのかでも、バランスが変わりますし。ヒント探しのために掘って、情報を仕入れますね。

MEG.ME:私も彼方先生に似ていますね。そのアーティストさんのトーンとマナーを知るために情報を集めます。どういう見え方をしたいのか、どういう言葉が似合うのか、どういうものが好きか。そこは普段の発信やこれまでの歌詞を参考にしたり。あと、ファンのひとにならわかるキーワードがあったら、そういうものを入れてあげるとファン心をくすぐるかなと。そこで役立つのが歌ネットさんなんですよ。毎日、歌詞を検索しています。

― ありがとうございます!

彼方:わかります。実はいちばん利用数が多いのは作詞家なのかもしれない(笑)。