太陽のサングラスになるような存在もいないとね、って思います(笑)。

―― では、もう少し作詞についてお伺いしていきます。年齢や経験を重ねるにつれ、歌詞面で変わってきたところはありますか?

もともと、「こういう言葉を使ったら引かれるかな」っていう躊躇はないほうだったんですけど、もっとなくなっちゃいましたね。書きたいことはよりストレートに。よりシンプルに。結局、好きで書いたことに対して何かを言われる分には、なんてことないってことに気づいて。自分が好きじゃないものでジャッジされたら、悔しくてならないですけど。

―― ちなみに、エゴサーチとかはなさりますか?

絶対にしない。見ない。なんでも意見は聞きたいけど、「それを言う?」ってコメントが100のうち1つあるだけで、昔はすごく引きずっちゃっていたんですよ。今は意外と平気になって、「ごもっとも!じゃ!」って、受け入れて流すことが上手くなったんですけど(笑)。みんなからの声とか「おめでとう」とか、大切なことはスタッフの方たちがちゃんと教えてくれるので、自分ではSNSを見ないようにしていますね。

―― 美嘉さんは『言葉の達人』で「私は「頑張れ」を言ったり表現したりするのがとても苦手」と書かれていました。それは何故でしょうか。

自分が言われて、疲れたことだからですね。とくにデビュー時。「もう頑張っているのに、これ以上どうすればいいの?」ってよく聞くじゃないですか。まさにその状態が続きすぎて。だから、本当に大変な状況のひとに対して、「頑張って」って言えないんですよね。歌詞にも書かないし、日常生活でも言わない。

―― 美嘉さんの歌詞は、太陽のようなギラギラした光の強さを持つものも少ないですよね。

そうですね。明るく楽しく書いているつもりでも、眩しくなれないというか、ならないというか。

―― 眩しさに疲れたとき、すごく癒されます。

そう言っていただけると嬉しいです。太陽のサングラスになるような存在もいないとね、って思います(笑)。

―― タイアップが関係ないとしたら、どんな時に歌詞を書きたくなることが多いですか?

うーん…。常に言葉を書き溜めてはいるんですけど、それを曲に使ったことがあまりなくて。何を書こうかなってメモを見返すんですけど、やっぱりこの気持ちは今じゃないなって、1から書くことが多いです。あと書けるかどうかは本当、その日の自分のテンションによりますね。イライラしてたら楽しい曲を書けないし。

―― 幸せなときには曲ができにくい、とかはありますか?

あー! みなさんよく言いますよね。でも私は逆なんですよ。幸せなときこそ、悲しい曲を書きやすい。たとえば、大好きなひとがいるとして、「このひとを失ったらどうしよう」って思えるから。失うひとがいない時期は、「こういうことがあったらなぁ」って曲が書きやすい。だから結構どんなときでも大丈夫です(笑)。

―― 歌詞を書いていて「難しい」と思うのはどんなときでしょうか。

この感情をそのまま伝えたいのに、ふさわしい言葉がないときですね。いつも困って、<それ>とか<ここ>って代名詞になるわけです。他に当てはまるものがないから。何か具体的な言葉を書いちゃうと、きっちりその意味になっちゃうでしょう? だからひとつの言葉に辿りつくのに、ものすごく時間がかかったりします。

―― それこそ<愛と言うには簡単すぎて>というフレーズのように、「愛じゃないんだよなぁ」というときもありますよね。

そうそう。<愛>って言っちゃうと逆に陳腐になる気がするし。聴いてくれるひとの愛の概念も受け止め方も、それぞれ違いすぎるから。だからこそ「Beyond」のときは、そういう難しさをそのまま<愛と言うには簡単すぎて 言葉失う>って書きたかったんだと思います。

―― ご自身が描く主人公たちに、何か共通する特徴や性質を挙げるとすると?

自分でもわかりやすい特徴があります。強い言葉とか、強いひとを書きたかったら、一人称が<私>。女のひとです。そういうときは相手のことも<あんた>と呼んだりします。

そしてちょっと切なかったり、優しかったり、悲しかったりする歌詞は<僕>です。だからバラードを書くとなると、なぜか<僕>になるんですよね。これ最近、気づいたんですよ。私は男性に対して、優しいひとこそ強いひとだと思っているので、それが歌詞に出ているのかもしれないですね。

―― 美嘉さんにとって歌詞とはどんな存在のものでしょうか。

私の場合、自分で書いたものでも、書いてもらったものでもあまり変わらなくて。その時間に戻れるものかなぁ。写真に近いかもしれません。歌いながら思い出すこともよくあります。「あのひとのこと好きだったなぁ」とか「あのときケガしたなぁ」とか。だから悲しいときにリリースした曲なんかは一旦、歌うのを封印したりもします。泣いちゃうから。歌詞はタイムカプセルみたいなものですね。

―― ありがとうございます。最後に、これから新たに挑戦してみたいのはどんな歌詞でしょうか。

わかりやすい名詞が出てくる歌詞をあまり書いたことがない気がするんですよね。

―― たしかに、具体的な「〇〇駅で」とか、あまり美嘉さんの歌詞で見ない気がします。

そうそうそう。もっと言うと、恋人を表すのにも、「コップがふたつ並んでいる」とか「2本の歯ブラシ」とか、みんなが想像しやすいような風景も書いてない。そういう歌を聴くのは好きなんですけど…。

―― あえて描かないようにしてきたのでしょうか。

というより、私の場合、会話を書くことが多いんですね。「~って言ってくれた君、僕はこう思うよ」とか。でも自分の頭のなかでは、その風景もできあがっているんですよ。たとえば、洗濯物を畳んでいて、奥さんが「ありがとう」って言っていて、そこには子どももいて…とか。その物語から会話だけを抜き取って、書く癖があるかもしれない。だからこれからは、その風景のほうも書いてみたいなと今思いました。そうしたら自分はどんな時代の、どんな物語を書くことになるんだろうなぁ…。

123

中島美嘉
NEW SINGLE『Beyond』
2023年3月22日発売
ソニー・ミュージックレーベルズ

AICL-4308~4309 ¥1,650 (税込)
収録内容

<収録曲>
02. Beyond -TV Size-
03. Beyond -Instrumental-

直筆色紙プレゼント

中島美嘉の好きなフレーズ
毎回、インタビューをするアーティストの方に書いてもらっているサイン色紙。今回、中島美嘉さんの好意で、歌ネットから1名の方に直筆のサイン色紙をプレゼント致します。
※プレゼントの応募受付は、終了致しました。たくさんのご応募ありがとうございました!
中島美嘉

2001年フジテレビドラマ『傷だらけのラブソング』で主演デビュー。その類い稀なるビジュアルと歌声で一躍人気を博す。以降「雪の華」、「GLAMOROUS SKY」など数多くの大ヒット曲を発表し、これまでに9度のNHK紅白歌合戦出場や数々の賞を受賞。

その唯一無二の存在感と影響力で国内外の映画・ドラマ・ファッションなど多岐に渡り活躍。近年は野外フェスへの出演やアコースティック編成、ロックバンドなど様々なジャンルのライブ活動を精力的に展開、圧巻のパフォーマンスと表現力で注目を集める。また、アジア各国での単独公演を成功に収めるなど海外にも活躍の場を広げている。
中島美嘉 Official Site