歌詞のなかには「本当の言葉」が存在することを発見した。

―― 鮪さんがご自身で、歌詞を書いていていちばん難しかった曲というと?

今回はあまり難航していないんですけど、強いて言えば「天国地獄」かなぁ。テーマが多い曲で、1番、2番、3番で歌詞の核になっているものが違ったりするので、それぞれのセクションに最大限の言葉を選ぶというところで、いちばん頭を使いました。他の曲はもう本能のままに書いた歌詞です。そこにひとつ冷静な自分がいたのが、唯一「天国地獄」だった気がします。書いていて楽しかった。

―― それで言うと、「Torch of Liberty」も言葉遊びが楽しい楽曲ですよね。

そうですね。ただ、「Torch of Liberty」は休養前の楽曲だから、少しモードが違うのもあります。これはTVアニメ『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』のOP主題歌で、作品で描かれているものとシンクロさせるような歌詞にしたくて。たとえば、<救済唱歌>は、火を消す「消火」とかけたり。<四苦八苦>は英語の「Sick」と「Hack」にかけたり。自分のなかでそういう遊びをたくさんした曲ですね。

―― では、鮪さんがとくに思い入れが強い楽曲を選ぶとすると?

うーん……「HOPE」、「alone」、「メリーゴーランド」ですかね。

まず「HOPE」は休養してから、いちばん最初に生まれた曲なんです。自分がまだ音楽を続ける理由とか、まだ生き続ける理由とか、最初のきっかけをくれたのがこの曲だったから、思い入れが強いですね。

「alone」はよりリアルな想いを歌った曲です。誰かに共感してほしいわけでも、他の誰かのために歌ったものでもなく、たったひとりの友達に向けて作った、本当に私事の曲。でも、この歌詞を捧げられたことはすごく特別なことだと思います。

「メリーゴーランド」は、最後の歌詞が僕にとって重要で。<生きることはつらいものです 死ぬことすら眩しく見える それでも日々にしがみついて生きよう 光れ 光れ>っていうワンフレーズ。レコーディングでここを歌ったときに、すごくすっきりしたというか。

それまで「HOPE」と「Re:Pray」を先行で出していたんですけど、その時点ではまだやっぱり「生きなければいけない」っていう義務感が強かったんです。待ってくれているひとがいる以上、帰らなければいけないっていう気持ちに突き動かされている感覚。でも、「メリーゴーランド」ができて、最後の一節を歌ったときに、「生きなければいけない」じゃなくて「生きたい」と思えている自分に気づくことができて。それによって気持ちが大きく変わったところもあるので、「メリーゴーランド」も特別ですね。

―― 「メリーゴーランド」は、<死ぬことすら眩しく見える>ことを否定せず、そういう瞬間もあることも受け入れたうえで、それでも<生きよう>と歌っているところに覚悟を感じました。

死という存在が、自分にとって大きく変わったんですよね。以前は、どこか遠くの出来事だと思っていました。でも、本当にすぐそこにあるものだと知ったし。時にはやっぱり自分自身、「このまま終わりにできたら楽よな…」とか、思っちゃうし。全然、思っちゃうんです。でも…それでも、って今は歌いたいんですよね。

僕らなんて、すごく感情的に生きていて、自分の好き勝手に曲を作って、気持ちを吐き出して、それが許されている不思議な職業じゃないですか。だからこそ、感情を吐き出すことすら許されない暮らしをしているひとたちにとっての歌になってほしい。そういう気持ちを代弁するような歌になればいいなと思います。

―― 一方で、「メリーゴーランド」のMVのダンスはかなり独特なゆるさがあり、それもまた好きです。

狂気を感じますよね(笑)。山岸聖太監督っていう、僕らのデビューの頃から何度も一緒にやっている方が撮ってくださって。すごくおもしろいんだけど、あれもやっぱり山岸さんと振付師さんの表現のひとつなので、そこは真面目にやろうと。実はものすごく練習しました。僕もすごく好きなMVになりましたね。

―― 鮪さんは2016年の取材で、「歌詞とはどんな存在ですか?」というお伺いしたときに、「自分を大事なタイミングで救ってくれるもの」とおっしゃっていました。その答えは、まさに現在にも当てはまる気がします。

そうですね、変わりません。年月を経ていくごとに、なおさら強く思います。このあいだ「シルエット」という曲を『THE FIRST TAKE』で、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの山田貴洋さんと演奏したんですけど、あのときも、「本当にこの歌詞を書いてよかったなぁ」と思ったし。その日のために書いたような感覚になりました。このアルバムも自分にとって救いだったし、未来のことを書いている曲もあるから、きっと将来の自分を救ってくれるものになるんじゃないかなと思っています。

―― また、同じ取材のなかで、「救われるだけではなく、救っていく存在になりたい」ともおっしゃっていましたが、これもまた想いが強くなっているのではないでしょうか。

「救っていく存在になりたい」というところから、「救う存在になろう」というところに、ひとつレベルアップした感じもあります。一回休んで、また始まって、新しく見えはじめたものもあったりして。ひとを救うって大そうなことやし、実際に音楽がどれほどひとを救うことに繋がるのかはわからないけど…。でも自分がソングライターになった以上、やっぱり誰かに手を差し伸べるくらい優しい存在であるべきだなと思って。だから救いになるっていう部分では、ひとつ覚悟を持って、再び音楽を始めた感覚がありますね。

―― ありがとうございました。最後に、歌詞を書くときに大切にすること、これは守ろうと思うことはなんですか?

今回、感じたのは、「本当の言葉」というものが存在するということなんですね。

―― 本当の言葉。

たとえば、ひとの背中を押すような言葉とか、優しく包むような言葉とかじゃなくて、いろいろ突き抜けて、魂が宿る器みたいな。たとえば、「ひかり」の最後の<光れ命よ>ってひとこととか、言葉を突き抜けたエネルギーがあって。歌詞のなかには、単なる言葉じゃない「本当の言葉」が存在することを発見したんです。

―― そのひとの生き方とか、発したときの想いとか、すべてが合わさって、「本当の言葉」になるんでしょうね。

そう。だから「愛してる」とかを本気で歌えたら最強だと思うんです。これはすごく大きな器だから使うひとも多いんですけど、その器から想いを溢れさせられるかというと、そう簡単なものじゃない。そして僕は多分、今まで歌詞のなかで1回も使ってこなかったんですけど、今回「HOPE」で初めて<愛しているよ>って言葉を使えました。

魂が宿る器を取りこぼさず見つけて、その器から溢れさせるくらいの情熱だったり、決意だったり、覚悟だったり、いろんなものをもって、歌詞に向き合うことがここからは大切かなと思いますね。「本当の言葉」をこれからどれだけ見つけられるか。それは大事にしていきたい。そして言葉遊びも、もっともっとレベルアップしていきたいですね。

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KANA-BOON
New Album 『Honey & Darling』
2022年3月30日発売
ソニー・ミュージックレーベルズ
直筆色紙プレゼント

谷口鮪の好きなフレーズ
毎回、インタビューをするアーティストの方に書いてもらっているサイン色紙。今回、KANA-BOON 谷口鮪さんの好意で、歌ネットから1名の方に直筆のサイン色紙をプレゼント致します。
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KANA-BOON

谷口鮪(Vo./Gt.)、古賀隼斗(Gt.)、遠藤昌巳(Ba.)、小泉貴裕(Dr.)からなる大阪・堺出身のロックバンド。2013年メジャーデビュー。デビューから破竹の勢いで驀進し、数々のフェスやイベントへ出演するなど、邦ロックシーンの最前線で活動を重ねている。また数々のグローバルヒットアニメの主題歌も担当しており、国内だけにとどまらず多くの海外ファンも魅了し、全世界のストリーミング再生数は5億回を超える。2022年3月30日には待望のフルアルバム『Honey & Darling』をリリース。