―― 2020年10月から約半年間休養されていた期間、音楽とはどれぐらいの距離感でいらっしゃいましたか。
音楽は完全に聴けなくなっちゃっていましたね。今まで当たり前に音楽がそばにあった生活とは変わってしまった時期でした。
なんか…「やばいな」みたいな状態って、誰しも自分ではなかなか気づけないじゃないですか。僕の場合、デビューからそれまでは、なんとなく心の黄色信号感がありつつも、ずっと走り続けてこられたんです。タフな自分もいたし、「きっと大丈夫」って思いながら、毎回毎回波を超えてきた。だけど、いろんなきっかけが重なって、急に赤信号に気づいたというか。それで自分を含め、スタッフやメンバーからも、「ちょっと一回、休もうか」となって、足を止めたんですよね。
―― それまでは音楽の力で波を超えられてきた部分が大きかったと思うのですが、音楽ではどうにもならないこともあると思い知ってしまうのは、かなりつらいですよね。
はい、音楽の力についてすごく考えました。自分が音楽を聴けない状態になったからこそ、普段音楽を聴かないひとがいかに大変な世界を生きているのかを感じましたし。やっぱり僕たちにとって、音楽を聴く時間、音楽に触れる時間って幸せであり、救いなんですよ。でも、そういう助け船がないひともこの世にいると身をもって知りました。だからもう一度、音楽に向き合ったときに音楽のパワーを改めて実感したんですよね。
―― もう一度、音楽の力を信じることができたのはなぜですか?
自然と曲が生まれたからですかね。そこで、自分には音楽でまだやるべきことがある、音楽でしかできないことがあると感じたし。どこかで、音楽に対する自分の炎が完全に消えてしまうことはないだろうと思っていた気もします。何より、僕ひとりのことではなかった。バンドメンバーもリスナーもいる。そういう存在はだいぶ救いになりました。だから、「ここで終わらせるわけにはいかないな」って。
―― また、ニューアルバム特設サイトに掲載されていている歌詞エッセイも読ませていただきました。とくに「ひかり」で明かされていた、ご自身の幼少期の「優しくない世界」のお話が印象的で。
休養期間、本当にいろんな過去のことを思い出しました。僕らがいた音楽の世界って、とにかく優しかった。生い立ちも暮らしも違うひとたちが集まって、にぎやかに楽しんで。そこには思いやりもあって。ライブやフェスもそうですし。そういう優しい場所にいたんですよね。
だから、ひとりになったとき、自分を包んでくれていた世界はなんて優しかったんだろうって思ったし。音楽から離れて、今自分がいる世界の冷たさや残酷さを改めて感じて。それが自分にとっては子どもの頃に体験したこと、その頃に見えていた世界とすごく近かった。休養中の心の状態って、実は自分としては、初めての体験というよりは、二度目の感覚だったんですよね。
―― 鮪さんは子どもの頃、音楽に出会ったことで「優しくない世界」から抜け出せたのでしょうか。
そう、中学の頃に音楽に出会えて変わりましたね。なんというか…「あ、このために生まれてきたんだ」っていう感覚。自分の心のよりどころができたのは大きかったです。今、僕の場合は作曲家であり、バンドのフロントマンでありというところに落ち着きましたけど、もちろん最初はリスナーでしたから。だから、音楽にはみんな出会ってほしいって、すごく思うんですよ。
―― そういういろんなことを考えた時期を経て、生まれた今作だからこそ、かなり鮪さんの書く歌詞も強くなったように感じました。言葉の力というか。
自分でも歌詞の重要度がかなり変わりました。気持ちを言葉に残す、言葉に訳すことも大切になりましたね。あと、今回は手紙的な側面も強くて。今まではもっと対象が広かった気がするんです。多くのひとと出会ってきたからこそ、誰かを鼓舞するような歌なんかは、大きな<みんな>に向けたものになっていた。でも今回は向き合い方が変わって、たったひとりの<あなた>に書こうと思いました。そこが大きく変わったところですかね。
―― どうして<みんな>の歌から<あなた>への歌へと変わっていったのでしょうか。
やっぱり今回、自分が<あなた>という特別なひとりのことを考えたからかな。苦しんで、世界の見え方が変わってしまって、ひとりぼっちの感覚になったんですね。ということは多分、同じ感覚になっているひとがいるなと思って。どうせまた音楽をやるなら、ひとりの人間にちゃんと意味のあることをしていかないとなって。そう感じた自分の経験がきっかけですかね。
―― 以前、歌詞を書くときに大切にされていることは、「言葉のハマリや語感、韻を踏むこと、メロディーやサウンドに対する発音の気持ちよさ」だとおっしゃっていましたが、その優先順位も変わってきましたか?
そうですね。今まではメロディーが先にあって、メロディーが求める言葉を探し続けるというやり方でした。でも今回は曲を作るのとほぼ同時に歌詞も書いていて。綺麗にメロディーと言葉を合わしていくというより、言葉によってメロディーが決まるような感じ。そういうところでもやっぱり言葉の重要度が変わったんだなと思います。自分のなかから溢れ出す何かがあって、そこから曲が生まれて。それは今回、メンバーにとってもよかったみたいです。レコーディングする上でもイメージしやすいというか。
―― 歌詞について、メンバーの方々と何か話されましたか?
内容の話はしていないけれど、「歌詞を汲み取った」ってことはよく言ってくれていました。メンバーは僕をそばで見ていたから、歌詞以上のこともわかるとは思います。とはいえ、四六時中一緒にいるわけでもないから、歌詞からいろいろ想像してくれたというか。「この曲にはどれほどの悲しみがあるんだろう」とか、「また音楽をはじめた喜びをどう感じているんだろう」とか、僕の気持ちをさらに深く広く、楽器で表現しようとしてくれているのを感じたし、僕の気持ちを超える演奏をしようっていう気持ちだったんじゃないかなって思いますね。