―― アイさんにはこれまで10作以上、歌ネットの『今日のうたコラム』で歌詞エッセイを執筆いただいております。どの記事も赤裸々で、しかも過去の記憶がかなり鮮明に描かれていますよね。
私はすごく覚えていることとまったく覚えてないことがあって。だからこそ覚えていることは、よりくっきり残っているんですよね。
―― その記憶や感情を言語化することは昔から得意でしたか?
子どもの頃とか、よく喋っていたほうだとは思うんだけど、何か本当に言いたいことがあるときに、その気持ちをあんまり伝えられなくて。それは未だにそうで。どうやったら相手に伝わるんだろうとか、傷つけずに伝わるんだろうとか、すごく考えているうちに、自分の言葉が発達していった気がします。
―― その自分の言葉を、音楽という形で表現したいと思ったのはいつ頃からでしょうか。
いつだろう…。音楽を始めたのは18歳からだけど、当時はそんなに歌詞に対して大そうな気持ちを持っていたわけではなくて。歌詞というものに意味を持たせるのが楽しくなってきたのが、20、21だったと思います。始めて2年ぐらいは本当にただ、「自分で歌詞も書けたらいいだろうな」ぐらい適当な感じで。
―― でも、今やアイさんといえば、歌詞というか。かなり大きな武器じゃないですか。
そうですね、まさかです。自分が歌詞を大切に書く人間になるとは思っていませんでした。なんか…歌にすると、ひとつの翻訳みたいになっちゃうじゃないですか。自分が思っていることを、こうして喋ることがまずひとつ翻訳。そして、それを歌にするときに、もうひとつ翻訳のフィルターがかかるひとが多いなって思っていて。人前に出すんだから、綺麗なもの、カッコいいものを、って。私はその翻訳フィルターがかなり薄かったのかなと思います。そこが最初の頃、まわりの方に言われた評価だったというか。
―― ご自身であまりフィルターをかけたくないという意識があったのでしょうか。
うん。嘘をつきたくないタイプだったから。まぁ最初の2年ぐらいに書いていた曲は、もう聴かせられないぐらいにフィルターかかりまくっているんだけど(笑)。自分でピアノを弾いて、自分の歌を歌うってなったら、そのフィルターをかける意味がないなっていうのは思っていましたね。
―― 歌詞に重きを置き始めた頃と、今のご自身の音楽の軸って変わってきていますか?
かなり変わっていると思います。歌詞の作り方も見せ方も。あと、時間の経ち方が変わったなと感じますね。若いときはもっと短い時間でいろんなものが変わっていた気がする。3か月が長いって感じたり。恋愛がいちばん自分のなかではわかりやすい時間軸だったと思うんだけど。高校生のときとか、メールアドレスを1か月に3回ぐらい変えたりして(笑)。
―― そういう時代がありましたよね(笑)。
あのとき何をそんなに変えたかったんだろう。だから自分って飽き性だと思っていたんです。でももう最近はそうじゃなくなってきている。ひとつのことが続けられるようになっている。昔はすぐにやめちゃっていたのに。それはいい変化だと思っていますけど、戻れることではないので、あの頃はあの頃でよかったのかな。
―― ちなみにアイさんのTwiterをフォローしているのですが、結構エゴサーチをされるんですよね。
はい、めっちゃします。自分でエゴサして、悪いことが書かれているやつは、全部ミュートにするぐらい(笑)。たまに私に対する直接的なリプライにも噛みついたりもして。まぁでもそこまで気にならなくなってきましたね。
―― そういう聴き手の反応とか声って、どれぐらい曲作りに反映されるものなのでしょうか。
何か自分に対して否定的な意見を見つけたとき、「なんでそう思われるのかな?」とか1回ちゃんと考えるのはあるかもしれない。たとえば、「あの頃の尖っているようなヒグチアイが見たい」みたいなね。でも、相手の言っていることって間違ってないの。本当にそうだと思う。私は変わってしまった。だけど、変わらない人間っておもしろいのかな? って。
―― ずっと変わらない人間はいないですもんね。
そう。ただ一方で今後、私はどんどん変わらなくなっていってしまうんだろうなとも思っていて。それは長い時間をかけて、飽き性じゃなくなっていることにも通ずるんだけど。若い頃と比べて、確実に変わりづらくなっている。だからこそ今はやっぱり変わり続けていたいから、しょうがないよなって。そういうふうに批判をちゃんと自分のなかで理解したら、その話は終わります。何か言われた瞬間は、「傷ついた」って思っちゃうかもしれないんだけど、意外とそんなことなくて。傷じゃなくて、気づきをもらったんだなって思いますね。