ホール内をゆっくりと旋回する心地良い肌触りのサウンド。浮遊感を含んだ音の粒に包まれる感覚を覚えながら、楽曲が紡ぐGRAPEVINEワールドの奥深くへと落下している。...最新アルバム『SING』を聴いて覚悟はしていたものの、やはり1曲目からトリップしてしまった。アルバムと同じく「SING」で始まり、「CORE」が続くという幻想的でドラマチックな流れが再現されたのだから、意識を持っていかれてしまっても仕方ないだろう。高音域で伸びていく田中和将のヴォーカルをフィーチャーしつつも、それぞれのパートが主役となって自己主張し、交錯し合うバンドアンサンブルが、さまざまな表情を描き出していた。さらにハードでブルージーな「Suffer the child」やグルーヴナンバー「冥王星」がプレイされると、そこに個々のエモーショナルな感情も加わり、クールで熱く、そして圧巻のパフォーマンスが繰り広げられる。その後も「想うということ」や「Wants」などが披露されると、ディープにうねるミッドサウンドをバックに切々と歌い上げる田中のナイーブな歌声と内省的な言葉に導かれるようにして、渦巻く音像のさらなる深みへと堕ちていっている自分がいた。しかし、ストーンズライクなギターが印象的なロックナンバー「女たち」から終盤戦に突入! 疾走感のあるアッパチューン「アンチ・ハレルヤ」などで客席を沸かせると、そのままエンディングに向けて一気に場内をヒートアップさせるのだ。GRAPEVINEワールドの静と動、柔と豪を堪能した2時間半。高揚感や一体感を味わったというよりも、自分と向き合って自分の世界に触れたようなライヴだった。