会場は武道館、観客は約1万人。しかし、ハナレグミのライヴに於いて、そういうことは関係ないようだ。実質的な距離はあるのだが、彼の歌声が届いた瞬間に、その距離感覚はなくなっていた。きっと彼の人柄が楽曲に滲み出ていて、独特の空気感を作り出しているのだろう。まるで、近所の兄ちゃんが目の前で歌っているような親近感があったし、目の前の1万人ではなく、ひとりひとりに歌いかけているような感覚さえ覚えた。それでいて、スカパラホーンズやスチャダラパーのBOSEなど、さまざまな個性派ゲストとのコラボレーションを繰り広げ、武道館という空間をピースフルな音楽で埋めていくのだ。やさしくて、瑞々しくて、温かくて、まぶしくて、生命力にあふれた楽曲たちに、観客は心を預け、心地良さそうに体を揺らせていた。特に印象的だったのは、アンコールの「光と影」。レコーディングのオリジナルメンバーでもあるスカパラ・茂木欣一(Dr)、徳澤青弦カルテットによる生のストリングス隊とスペースドーターズのコーラス隊が加わり、本人も“この豪華なメンバーで、この曲を歌えるのを楽しみにしてました”とひと言。ざわついていた客席は一瞬にして口をつぐみ、じっとステージを見守っている。アコギに押し出されて届く、ストリングスをまとったハートフルなメロディーが、すっと体に溶け込み、心の中で波紋を描くように響く感覚。涙があふれそうになるくらい感動している自分に気付いた。
ハナレグミの武道館公演は即日完売となった。CDは売れなくなっても、音楽好きがいなくなったわけではないということだ。ならば、この上質な音楽がもっと多くの人に、広く届いてほしいと願う。これからの音楽シーンのために...。